オトコって ばか
如月しのぶ
オトコって ばか
話題の美女時計を検索した。正しくは「美人時計」だったのだが、男として美女と言う言葉に心魅かれたので、何気に時計を消して美女だけで検索をしてみた。
目的の検索以外で美女と付くものはどんなものがあるのか、そんなちょっとしたお遊びはよくする。
そんなお遊びで見つけたのが『美女の遊園地』と言うサイトだ。
いかにもアダルトサイトのようなタイトル。
ところが、検索ページのコメントだけ見れば、オカルトっぽい…。
どうやら異世界に行ってきたと言う事が書かれているらしい。
ただ、オカルトなサイトと言うのもアダルトサイトに匹敵するほどウィルスの危険性は高い。
ここはひとつキャッシュで下見をしてから…、と思ったのだが不思議なことにキャッシュがない。
キャッシュと言うのは検索サイトが検索のためにワードを収集しながら、それらのホームページをサーバーに保存しているもので、直接ホームページにアクセスしなくても検索サイト内で見ることが出来るものと理解している。
だが、それがないのでホームページを見るには直接アクセスするしかない。
カーソルを合わせたまましばらく悩んでいると、誤動作をしたのか、そのホームページを開いてしまった。
もう、しょうがないのでそのページを読み進めることにする。
【『美女の遊園地』は、この世の世界ではない楽園だった。どんな所かと言われれば、マンガにでも出てくる桃源郷のようで、男の姿はどこにもない本当に美女ばかりの世界。人によって好みの差はあっても、見渡す限り媚女だけの園と言っていい。
美汝も入れば可愛い娘も居る。細身の夢す女もいれば、むちぷりな穏奈も居る。お嬢様のような摘んでレが居れば、メイドの妖な癒やし形も居る。慎み深い媚女も居れば、台胆な温女も射る。それこそアニメやマンガでしかお目にかかれないような亜紀場系男子の理想像のような女子もいる。
これだけさまざまな媚汝が射れば、きっとあなたの理想の美女も見つかるはずだ! いや、行けば必ずあなたの理想の美女がいて、あなたは死ぬまでその美女と心も体もひとつになれる。~】
やたらに誤字の多いサイトだ。
そのせいで文はそうとう読みにくいが、言いたいことは解る。
それは、体験者が撮って来たと言う、画像が文字に合わせて掲載されていて、いくらかは画像で補足されているから。
確かに、たくさんのきれいな女の人がにこやかに微笑んでいる。
それは、花園の泉のような所で裸でたたずむ美女も同じだった。
想像すれば、男が紛れ込みカメラを向けている姿は、そうとう違和感があるはずなのだが、向けられている優しげな微笑は変わらない。
これは男にとってハーレムでもあるが、
そこにいる美女たちの楽園にも見える。
楽しげに舞い踊り、笑っている美女たちが写っている事。
庭園のような花園には温泉や遊具もある。
そこで遊ぶ美女たちも写っている。
その傍らにはたくさんの果物もある。
裸の美女がいても、厚着をした美女はいない。
温暖なのだろう、ということも解る。
たしかにたとえ異世界だとしても、もし本当にこんな楽園があるのなら、絶対覗いてみたいと、スケベ心が思う。
【もし、あなたが『美女の遊園地』へ行きたいと思ったのなら、プリンターとスピーカーを使える状態にして、烏賊の指示に従ってください。このホームページは、あなたを招待する入り口です。もちろん無料です!】
半信半疑。
いや、ほとんど信じてはいないのだが、スケベ心が抑えきれない。
【魔法陣を作る】
クリックするとプリンターが動き出し、10枚ほどの紙に意味不明な文字や図形が印刷されて出てきた。
それを指示に従って時計回りに並べ、ずれないようにセロテープで軽く止める。
並べた紙に間違いがないかホームページと見比べる。
棒をコンパスにして、指示どうりに紙と紙、図形と図形を円でつないだ。
魔法陣の中心に立つ。
【魔方陣完成】
カーソルを合わせてクリックすると画面が変わった。
地上から飛び上がる。
雲をかき分けて進む。
そして、天界のような景色にたどり着く。
裸の美女が泉で水浴びをしている。
天女のような羽衣をまとった美女が舞い踊る。
けだるげな美女が寝そべっている。
心躍る動画が流れながら、
「うふふふふっ」
という笑い声とともに、
「あなたのお越しを心よりお待ちしております」
という声が流れた。
【転女の門を開きますか】
ここに来てまで誤字。
でも、もう気にとめない。
【転女の門を開く】
躊躇なくクリックする。
スピーカーからは、呪文のような、どこかの山岳民族の民俗音楽のような、歌声が流れ出す。
足元から、生暖かい、甘い臭いの風が吹き上げてくる。
しばらくするとゆっくりと魔法陣の中に身体が沈んだ。
いつの間に意識を失っていたのか。
思い出せない。
ゆっくりと目を開けると丘の上の草原にいた。
麓にはあのホームページで見た世界が広がっている。
花の香りがする暖かい空気。
楽園で戯れる肌もあらわな美女たち。
ゆっくりと丘を下りていく私。
タイプの違いはあっても確かに美女だけの世界。
見渡す限り美女だけ。
男の姿は、本当にどこにも見当らない。
手が届きそうなほどに近づいても彼女たちは微笑んで迎えてくれる。
着ているものはとても薄く、ふわふわとして羽衣のよう。
しかも光の当たり加減で柔肌が透けて見えている。
薄絹をまとっている、とはいっても湯煙の中で裸でいるのと変わらない。
透けて見える体の線は柔らかい曲線。
張りがあって整ったスタイルはとても美しいのがよく分かる。
その肌からは果物のような甘い香りが漂ってくる。
美女たちに促されながら泉へと歩いて行く。
でも、私の理想の美女は、まだ現れない。
甘い果物の香りが強くなってくると目の前には果樹の森が広がっていた。
元気に走り寄って来た少女から不思議な果物をもらう。
マンゴーのようにも見えるけれど、食べてみると桃のような果肉で、梨のようにみずみずしい。
とろりとした果汁は蜜のように甘い。
それに美女達から漂ってくる甘い香りと同じ香りがする。
部屋から魔法陣を抜けてきた私の足は、素足。
だけど、フエルトの上を歩いているようで痛いどころか気持ち良い。
ある美女は、人見知りをして恥ずかしそうにはにかんだ。
ある美女は、笑顔をくれる。
みんな優しくてとても心地好い。
きれいな女の人たちに優しく迎えられて、私は気持ちが豊かになる。
みんな理想的に素敵な人たち。
だけど、私の理想の人には出会えないまま泉に着いてしまった。
水辺で戯れる人たちは皆、一糸纏わぬ姿。
羽衣は木の枝でそよいでいる。
きれいな女の人たちは裸なのを気にしていない。
こちらにおいでと誘ってくれる。
羽衣をするりと脱ぐ私。
そばに居た女の人に手を引かれて泉に足を踏み入れる。
水面には私の理想の美女が映っていた。
何もかもが私の理想どうり。
それは私自身でもある。
初めから、そして今も、この世界に男の人は一人もいない。
あらわな美女たちに囲まれていても、とても穏やかに心地良かったのは、私もその中の一人だったから…。
意識がぼんやりとしてきた。
水をひと浴びする。
するともう私が何者で、どこから来たのかなんてどうでもいいことに思えてきた…。
もうずっと前から、この姿でここにいる気がするの。
そしてこれからもそれは変わらないわ。
いつまでもこのまま、この優しい人たちと、この楽園ですごすのよ。
いつまでも………。
「主様、
また転女の門をくぐって転女が落ちてまいりましたでしゅ。先ほど果実を与えてまいりましたが、先の楽しみな上物でございました。
男をその者の理想とする女に転じてしまえるのも、主様の霊力があってこそのことでございますでちゅ。
近頃は人間界に娘をさらいに行っても上物は稀中の稀。
あちきが人間に化けてIT起業家を惑わし堕落させたあと、
会社が倒産しゅる前に目をつけていた上物そうな女を喰らおうとしたら、
開き直るわ、
毒は吐くわ、
それでも帰りの霊力の足しにと喰ったら、
肉は脂と筋ばかり、味も臭いも中年男のようで、
おまけに魂は腐りかけ、
あちきは食あたりに魔力を奪われ
鬼界一艶かしいと謳われた姿態が、女の童のような姿に成り下がってしまいましたでしゅ。
もちろん、恐怖なまでに美しく、
この上なく禍々しい鬼姫様にこうしてお仕えさせて頂けるのは光栄なことでございましゅが、
早く元の姿に戻りとうございましゅうー。
男をその者の理想の女に転じれば、
女として生きた時間がないだけに毒気がないという、
あちきの言葉に耳を傾けていただき、
御力をお貸しいただけたのはありがたく、
転女の門を発動させるための本人の意思確認は、
人間界で覚えたワンクリック詐欺の手口が思いのほか上手くいき、
思惑どうり上物の転女が次々と落ちてくるにいたっては、
ほっと胸をなでおろしているしだいでございましゅ。
まず毒見として鬼兵に転女を喰わせましたところ、
絶望と恐怖に打ち震え、
流した涙が極上の酒へと仕上がりましたので、
主様へと御持ちしたしだいにございましゅ。
はっ、お褒めに預かり、有難き幸せにございまちゅ」
オトコって ばか 如月しのぶ @shinobukisaragi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます