【商人】になれなかった商人

明けの兎

第零章  主人公編

第01話  ─     目標     ─






 僕は特になんて事はない村長の息子として生まれた。


 立派な王国の王都から1ヶ月ほど馬車で向かった街から更に半月ほど離れた名も無い村。

 それが僕の出身村だ。


 母譲りの絹の様な綺麗な銀髪と、父譲りの金眼。


 容姿的には何処か可愛いらしい……。

 これは母同士の会話をたまたま聞いたから得た情報だ。


 当時は、とても嬉しくない事を聞いてしまったと沈んだものだ。


 そんな僕の容姿の一端を担った父は今でこそ街外れの村の村長なんてしているが、昔は名のある冒険者だったらしい。

 どうやら母とは冒険者時代に知り合ったそうで。


 僕の目から見ても整った容姿に匂い、その性格までもが完璧である。(身内びいき何て言葉はまだ知りません。ええ、しりません。)


 そんな親と共に何もない村で過ごした日々。

 僕はこれを苦だとは思わなかった。


 父は生活する中で決まって言う言葉がある。


「ルイ、お前は何になりたい? ルビィちゃんは魔法使いになりたいんだとよ」


 こうやって先ずは他の人の話から父ゼノスは始める。


「へ~ルビィ、この前まで剣士っていってたのに。僕のなりたいものかぁ……」


 僕には決まってこうなりたいってものが無かったんだ。


「──ま、急ぐことでもねぇから、当分は目標を定める事だな」


「……うん」


 父はそう言って自身の紅い髪をわしゃりと掻いた。

 彼が事あるごとにそう口にするのにも勿論、理由がある。


 この世界には【天職】っていう神様から与えられる才能が存在する。


 これは、5歳から15歳にかけての10年を神様が見て決めるって言われているが、やはり目標を決めて頑張った子供には努力を認めてくれた神様が欲しい職をしっかりとくれるのだ。


 だから、父は目標を定めることが大事だといった。


 父の【天職】は【剣士】だ。


 だが、本当は【騎士】になりたかったらしい。


 騎士になるための努力をせず遊んでいた所為ではあるものの、【剣士】で【騎士】を目指すのは相当キツかったそうで、そんな大変な思いをして欲しくない一心でそう言ってるのだと父の思いを知る母から教えてもらった。


「目標……。夢か~」


 最近は、夜空に浮かぶ白い月を眺めながら自分のなりたいものを探す事が日課となってきている。


「お父さんみたいな剣士……でも、無い。お母さんみたいな魔法使いも何か違うしなぁ」


 世間一般でいう優柔不断というやつなのだろう。

 けれど、これといってなりたいものが無いのも事実だった。


 僕は今年で5歳を迎えた。

 次の年初めから目標に向けた努力や訓練、勉強をしないといけない。


 だけど、なりたいものが無く、何を原動力にすればよいのだろう。とても悩んでいたんだ。




 ◇ ◇ ◇




「なんだなんだ!」

「おぉ~馬だぁ!」

「すっげぇぇ~!」


 どこか村がいつもより賑やかな気がする。

 次の年初めまであと3ヶ月ほど。


 はやく、見つけないと。


 僕は焦っていた。


 村という隔離された環境で数ある目標から決めるのはとてもでは無いが簡単なことではない。

 当たり前だ。剣士や槍遣いは想像できるし、村の小さな教会にも多少なりとも絵本があるから、騎士もわかる。


 けれど、この村で知れるだけの情報が全てではない。

 父の冒険譚を聞くたびに思う。


『昔はな【勇者】とか【魔王】なんてのも一人ずついたんだってよ』


 その勇者や魔王はどんな人なんだろう。

 どんな力を持つんだろう。


『【勇者】や【魔王】が現れると【剣聖】や【剣帝】が二人ずつ現れるらしい』


 剣士よりも強いのかな。

 勇者と魔王、剣聖と剣帝。どっちが強いんだろう。


「もっと、世界を知りたい」


 それが初めての願いだった。

 その願いを叶えるためにはどうすれば……。


「父さんみたいな冒険者になる」


 と考えたけどそのためには強くなる必要があった。

 なら【天職】としての目標も必要だ。


 そしてまた、その目標を探さないといけなくなった。


 けど、それは思ったより早く見つかったんだ。


「ルイ~! 降りてこい!」


 思考に耽る僕の部屋まで届くような大声でゼノンが呼ぶ。


 呼ばれた先で連れられたのは、やたら賑やかだと思っていた外の一角だった。


 二台の馬車が綺麗に並んでいて、その付近には村の大人や子供が人込みを作っている。


「お父さん、これは?」


「ああ、これな。俺が冒険者の時の知り合いの商会なんだよ」


 人込みの中心にはガタイの良い赤髪をオールバックにしたイカついおじさんが居たのだ。


「あの人?」


「そうだ、あのガタイと怖え顔だが、あれでも良い奴なんだぞ?」


 そういって何か思い出に耽る父。

 また始まった、と軽いため息と共にルイは赤髪の商人へと目を向ける。


 何処か興味を宿したような瞳に気が付いたのか、それとも旧友に気付いたのか此方を見た商人は10メートルは離れた位置にいるゼノン親子に向けて大きな声を上げた。


「──お? 居るじゃねぇか、ゼノン! おい、なんでそんなとこに居やがんだオメェ!」





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