光輝士セイグリッター

えいみー

プロローグ「王国の暮れ」

やあ (´・ω・`)

ようこそ、バーボンハウスへ。

このテキーラはサービスだから、まず飲んで落ち着いて欲しい。


うん、「また」なんだ。済まない。

前作「セクサーロボ!」よりは真面目に書いてはいるつもりだけど、なにせ素人が趣味で作った物だからね。

ここに君が求めるモノは多分ないだろう。


でも、この作品を見たとき、君は、きっと言葉では言い表せない

「ときめき」みたいなものを感じてくれたと思う。

読者以外からも悪意を持った文句が飛んでくる今の世の中で、「こんな作品があってもいいんだ」という気持ちを忘れないで欲しい

そう思って、この作品を書いたんだ。


じゃあ、注文を聞こうか。









一面が燃えていた。


かつて、この星は美しい星であった。

自然と文明が共和を果たした、平和な星であった。


しかし、今は見る影もない。


何もかもが炎に焼かれて、破壊され尽くした。

美しい町並みも。

そこに住む人々も。


何もかもが、その、突如訪れた「暴力」という禍(わざわい)の前では、等しく無力であった。



「いいかお前らぁ!」



その暴力の主が、その卑劣で汚い怒声を飛ばす。

彼の率いる軍団には容赦という物がない。


愛も平和も嘲笑い、美しいものは踏みにじる。

血が鉄のようになったような機械の鬼を率いるその男は、口汚く吠える。



「あのクソッタレの王族共が逃げ込んだ神殿まであと少し!俺達の戦いもこれで終わる!」



彼等が目指すのは、惑星の首都の中心に位置する、巨大な建造物。

今なお炎の中で佇む美しいそれは、この惑星の人々からは神殿として利用されていた。



「いいか!クソッタレの王族共をブッ潰し、この惑星も解放するためにも………」



演技染みた態度で、男は配下のロボット部隊に言い聞かせる。

こうする事で、男は自らの軍団の士気を高める。

こうする事で、軍団は“止まらない奴等”と化す。



「お前ら………立ち止まるんじゃねえぞ!」

「「オオオオーーーッ!!」」



地獄の底から響くような咆哮が、大地を揺らす。

イナゴのように貪欲で、ハイエナのように意地汚いケモノと化した者達が、神殿に殺到する。


ウェディングドレスのような白い神殿に、その野獣のような牙がかけられようとした。

その時。



「あびゃ?!」



その薄汚れた鉄の爪は、一撃の元に叩き貫かれた。

爆炎に照らされて立ち上がったのは、

黒い騎馬兵を思わせる鋼鉄の巨人。


金に輝く剣を構えた、誇り高き騎士。



「………またテメェか?黒騎士野郎!」



うんざりだ、と言うように男は吐き捨てた。

男からすれば、神殿を守るように立つそれは、幾度となく自分達を邪魔してきた障害でしかない。



「いい加減くたばりやがれ!クソ王族のくせに生意気なんだよ!」

「違いねぇ!王族って奴ぁほんとゴキブリ並にしつけぇよなァ!」

「殺虫剤でも持ってきてやろうかぁ?ヒャヒャヒャヒャ!」



男とその軍団は、黒騎士に対して侮蔑と嘲笑を浴びせた。


黒騎士は、何も返さない。

もはや、返す言葉もない。



何もかもを失った。

守ると誓った仲間も、国も。


彼に残された物は、もはや背後の神殿。

そして、そこに居るであろう王族………「彼等」のみ。



「………グングニィーール!!」



黒騎士が構えるは、その代名詞たる赤き槍。

悪魔のごとき翼を広げ、その最後の力を振り絞る。



「ぐうおおおーーーー!!」



血の涙を長し、後の世に悪魔として語り継がれる騎士が突撃する。

その、わずかに残された誇りにかけて。





………………





………王都の中心に、その神殿はあった。

 


奴等に踏み荒らされ、奴等に焼き尽くされ、血と硝煙の香り漂う地獄と化したこの星で、その場所だけはかつての美しさを保っていた。

 

しかし、ここも戦火に飲まれるのは時間の問題であろう。

 

ここを守るべく戦っているあの黒き騎士も、いつまで持つか。



「はぁ………はぁ………」

「もう少しよ、頑張って!」

「は、はい、お母さま!」



戦火の中を逃げてきたその少年と母親は、全身がボロボロだった。


誕生日に選んだ洋服も、先祖より代々受け継いできたドレスも、

破れ、焼け焦げていた。


後ろから聞こえる轟音や爆発音に怯えながら、疲労で棒のようになった足を動かし、二人はたどり着いた。

 

 

神殿の最奥。


 

そこに眠るように佇む、白銀の騎士。

彼等が産まれる遥か昔から存在し、太古の戦乱を終わらせたという鋼鉄の守護神。



普段は儀式に使う司祭用の無重力ステージを操作し、二人は騎士の頭部まで上昇する。

 

外の爆音が激しくなってゆく。

もう、時間はない。



「お母さま!乗って!」



それまで、式典で何度も動かした騎士のコックピットの中から、少年は外の母親向けて呼び掛ける。


共に逃げようと。


だが。




「………お母さま?」



呼び掛ける少年に、母親は首を横に振って答える。


逃げる気はないと。



「………シャルル」



母親は、悲しい顔をしていた。

いつも気丈に、女王として振る舞っていた母親が。

 

こんな顔を見たのは、祖父の葬式と、「奴等」の宣戦布告を聞いた時。

そして父の………国王の死を聞いた時以来だ。



「………お母さんは、ここに残るわ」

「な、何を言うのです?!」

「奴等の狙いは王族………私を捕らえれば、少なくとも貴方が星を脱出するまでは大人しくしているでしょう」

「そんな!ではお母様は!お母様はどうなるのです?!」

「………あなたは、この星の最後の希望………たとえ親兄弟を踏み台にしてでも、貴女は生き抜かねばならないのです」

「お母さま!」



少年は手を伸ばした。

少年が母親の言うことに反抗したのは、後にも先にもこの時だけだった。


家族を失いたくない一心で、その手を伸ばした。

だが。



「………デオン!」

『承知いたしました』



母親の一言と、機械のノイズがかかったような男性の声により、少年と母親は騎士のコックピットハッチにより分断される。



「お母さま!」



何度も、自分と母親を隔てる半透明の壁を叩き、少年は泣き叫んだ。

しかし、そこが開く事はない。

 


「………ごめんなさい、シャルル」

 


母が、涙を流した。

先程までの気丈な表情が完全に崩れ、彼女の頬を一筋の涙が伝っていた。

 


「許して………あなたに全てを押し付けてしまう事を………」

 


それが、二人が交わす最後の言葉となった。

 


「………ッ!」

 


少年が手を打ち付けていた半透明のコックピットハッチが、その色を変える。

眼前に映るは、騎士の瞳を通した風景。

 

騎士が、動いているのだ。

 


「そんな?!待って!まだ動かないで!!お母さまを乗せて!!」

『………申し訳ありません、シャルル様』

 


そね人工知能は、狼狽える少年よりも、少年を助けんとする母親の気持ちを優先した。

その巨体が浮かび、神殿の天井が開く。

 


「嫌だぁ!お母さま!!お母さまーーーーー!!」


 

少年の絶叫と同時に、騎士は光に包まれ、天高く消えて行く。

眼下に、愛する国民を、敬愛する家族を、国を残して………。





………………





「………あ?」

 


男が、空に舞い上がる「それ」に気付いた。

 

 

「げっ!光輝士が!」

 


黒騎士を破壊し、乗っていた憎き王族を引きずり出すのに夢中で、今まで気付かなかった。

 

目的の物を、みすみす逃がしてしまった事に。

今から追いかけても、もはや間に合うまい。

 

 

「く………クソがァーーーッ!クソが!クソが!クソが!このド外道の王族がァーーーッ!!」

 

 

まんまとしてやられた。

男の王族への逆恨みの叫びが、戦火に燃える空に、虚しく響いた。





………………





『………シャルル様』

「………いいよ、デオンはお父さま専属のAIなんでしょ、だったら僕の言うことは聞かないのは当然でしょ」

『………いえ、私は』

「………怒ってないよ、ああしなきゃいけないのは、僕だってわかるから」



口では気丈に振る舞っていたが、無重力空間になったコックピットには、真珠のような少年の涙が浮かんでいた。


遠ざかる故郷。

もう、どうやろうと戻ることは出来ない。

 

あそこで、残された母や姉妹がどんな目にあっているか。

想像するだけで胸が締め付けられる。

 

 

そして何より、

そんな家族をおいて一人おめおめと惑星外に逃げ出した自分を、情けなく感じた。


 

「………家族を、友を、故郷を捨てて、僕は何処へ行くというんだ………?」

 

少年の問いに、その機械は答えない。

何を言えばいいかわからない。


そこにはただ、静寂と、後悔と、涙だけがあるだけ。

 


王族という立場を故郷ごと亡くした少年と、機械を連れて、

その白き騎士は深淵の宇宙の中へと消えていった………………。





………………





その日、一つの国と、一つの星の歴史が幕を閉じた。

その日、一つの正義が勝利し、一つの悪が打ち倒された。


宇宙が誕生してから何度も繰り返されてきた、弱肉強食の輪廻。

これも、その中の一つであった。



………だが、戦いはまだ終わっていない。

新たなる戦いが、舞台を移して始まろうとしていた。


その、舞台とは………。

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