5章/風に乗りて歩むものイタクァ

5章第1話

登場人物紹介


ダンテ:この物語の語り手。自分が何者であるのかを知らず、また誰も彼の正体を知らないが、性自認だけは当初から持っていて、男性である。自分本来の肉体を持たず、他の存在に憑依し、その体を奪うという性質を有している。魔王ダンタリオンからかりそめの肉体と名前の半分を与えられ、現在はダンテと呼ばれている。


リオン:半名付与の魔術によってダンテに名前の半分を与えた事で出現した、魔界の魔王ダンタリオンの分霊ぶんれい。有する知識のみはダンタリオンの時と変わらないが、リオンとしての身体は人間と変わらない少女のそれであり、またそれに伴ったシスジェンダー・ヘテロセクシャルの性自認と、身体相応の精神性を有している。




 で、借りた車に乗って、おれたちは新千歳空港から走り出す。運転するのはおれだ。免許はあるぞ、偽造だが。


 借りたのは軽トールワゴンの後部に寝台を据え付けただけの、キャンピングカーと呼ばれるものの中では最も手軽なサイズのやつである。いや、もちろんサンライズレンタカーではもっと大型のキャンピングカーや果ては観光バスのレンタルまでしていたのだが、「日本国内での三年以上の運転経験はございますか?」と問われて答えに窮した結果として、これしか貸してもらえなかったのだ。北海道の夏はハイシーズンで、多くの車両が出払っているという事情もあったし。


 まあ、ろくに運転経験もないのに大振りのキャンピングカー(なお、キャンピングカーと言った時にもっとも一般的に連想されやすい、上部に張り出しがあって四角い居住設備があるタイプのあれはキャブコンと呼称される。豆知識)を借りても扱いかねるだろうし、リオンは少し渋ったが妥協した。レンタルのキャンピングカーにいつまでも住み着いているわけにもいかないだろうし。


 とりあえずの目的地は、新千歳空港からもっとも近い道の駅ということにした。ピンポイントで網をかけられる危険のある大きなハブ空港を離れてしまえば、仮に追っ手がかかっていたとしてもこれ以上追跡されることはあるまいというリオンの判断である。


「あ、見えてきた。あれじゃないか?」

「うむ」


 不慣れな運転とはいえ特に事故など起こすこともなく到着する。そもそも空港から10分くらいの距離の場所を選んだのである。何故って腹が減っているから。


 マリンパーク千歳。道の駅なのに水族館みたいな名前はこれいかにと思われるかもしれないが、ここは本当に水族館を併設している道の駅なのである。


「水族館もいいが飯だ、余もいい加減腹が減っておったのだ」

「うむ。何があるんだ?」


 豚丼、ザンギ専門店、スープカレーといかにも北海道然とした店がテナントとして収まっているが、一番よさそうなのはピザの店だった。


「ピザか。良い言葉だ。入るぞ」

「へいへい」


 適当に注文して、「当店の食材は全て千歳産のものを用いており、ピザは薪窯を使って焼き上げ~」とかなんとか書いてある店の能書きを眺める。待つ。ピザが来る。


「お待たせいたしました。こちら、スモークサーモンのピザでございます」

「わぁい」


 わぁいって言った。この魔王、いまわぁいって言った。


「……こほん。では食うとするか」


 リコッタチーズを使ったクリームソースを使って、アクセントにはアスパラガスが散らしてある。うまい。みるみるうちにピザが減っていく。


 最後に一枚に伸ばした手が、空中でぶつかった。


「……」

「……」


 ばつの悪い顔になって二人して目をそむける。


「……こほん。もう一枚頼むとするか!」

「じゃあおれはマルゲリータがいい」

「それでいこう」


 そういうことになった。

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