僕と彼女と美味しいごはん 短編小説

8 - 8 = N

エピソード1 まかないご飯・生姜焼き

8-8=N

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カフェで黒ビールを飲みながら本を読んでいると、店主がカウンター越しから僕の手に触れた

店主が僕を呼ぶ時はいつもそうしてくれていた

*

僕が顔を上げると店主の隣にもう一人女性がいた

コノコネ、ワタシノメイナノ、キョウカラココ、テツダッテクレルノ

店主の口元の動きはそう言っていた

僕はゆっくりと頷き隣の女性に顔を向けた

女性は僕の黒ビールを見ながら気まずそうにコクリと頭を下げた

僕もコクリと頭を下げた

*

しばらくすると再び店主が来て手に触れた

ゴメンネ、アノコ...シズカワ...タイジンキョウフショウ  ッテイウビョウキナノ、イイコナノヨ、アノコモイロイロアッテネ

対人恐怖症..と僕は頭の中で変換しながら洗い物をしている彼女を見た

一心に皿を洗う彼女の横顔は清楚で、とても病人には見えなかった

店主が僕の手をトントンと呼んだ

コレ、アノコノアイデー、ハナシヲシテアゲテ

渡されたコースターの裏には LINE の ID番号が書かれていた

*

僕はスマホを取り出し友達申請をしてみた

さっきはどうも、僕の耳の事は聞いている?

僕は自分の名前を告げ送信した

彼女がカウンターの端で、コソコソとスマホを操作しているのが見えた

*

先程はごめんなさい、私はシズカ あなたの耳の事は叔母から聞いてます

私の事は聞いていますか?

ごめんなさい、私、人とうまく話ができないのです

すぐに返事がきた

*

僕達はお互いに顔を見合わせることなくカウンターの中と外で無音の話しをした

*

大丈夫、気にしないで

でも君は、耳が聞こえない僕とちゃんと話しが出来ているよ

送信して僕は再び本を読み始めた

*

手洗いから戻ると僕の席のカウンターには美味しそうな食事が並んでいた

生姜焼きの悦ばしい香りが、僕を笑顔にさせてくれた

*

私が作った今日のまかないごはんです

叔母がいつもあなたに出していると聞きました

気に入ってもらえると嬉しいのだけれど

*

LINE にはそうメッセージが入っていた

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8-8=N

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