マンガ誌の立ち読みの思い出について
久々に何かエッセイでも書こうかと思う。
私の読書遍歴に関しては以前少し書いたが、そこではあまり触れなかったものがある。
マンガ雑誌についてである。文学や歴史や哲学の本などよりも遥かに多くのマンガを私は読んできた。
その中には下手な文学作品などよりもはるかに本質的示唆に富んだ手塚治虫作品や藤子・F・不二雄作品、岩明均作品、古谷実作品など、真っ当な意味での名作にも大きな感動を受けたが、もう少し猥雑で大衆的な作品にも多くの感動を受けてきた。(上記の作品ももちろん猥雑で大衆的な作品ではあろうが。)
まあともかく、私はポピュラーなマンガ雑誌をひたすら読んできたのだ。
立ち読みの習慣は小学校高学年くらいからだった思うが、マンガ誌を毎週立ち読みするようになったのは中学生なってすぐくらいからだったと思う。
30歳を超えるくらいまでその習慣は続いていたから、かれこれ20年近く続いたことになる。
最初は王道の『少年ジャンプ』だったと思う。きっかけは『るろうに剣心』だったかな? ジャンプの作風が特別好みだったかというと今思い返せばそうでもないような気もするのだが、まあ一番のメジャー誌だったし知っている作品が幾つか載っていたのでとっつきやすかったのだろう。
最初は「この作品だけ」と絞って読もうと思っていたはずだ。立ち読みの後ろめたさもあったし、マンガの立ち読みなどに多くの時間を費やすなど馬鹿らしい……と思っていたはずだ。
だがもちろんそんな誓いは易々と破られてゆく。気付くと読まなければいけない作品・雑誌は着実に増えていった。
(月)少年ジャンプ、ヤングマガジン、スピリッツ
(火)ヤングチャンピオン(隔週)
(水)少年マガジン、少年サンデー
(木)少年チャンピオン、ヤングジャンプ、ヤングサンデー(15年くらい前に廃刊)、モーニング
(金)ヤングアニマル(隔週)
ざっと思い出しただけでもこんな具合である。
もちろん週刊誌の立ち読みだけが私の読書の全てではない。20代の頃は音楽雑誌も貪るように立ち読みしたし、ブックオフで種々のコミックスも立ち読みしたし、学問的な本や文学的な本も少しは読んだ。
立ち読みとは字義通りに立ち読みだから一銭も払っていないわけで、出版業界の人に知られたら大目玉を食らうこと間違いないが……ただ言い訳させてもらうならば立ち読みして気に入った作品はコミックスで買っていた。立ち読みの習慣が完全になくなった現在よりも当時の方が何倍もマンガに金を払っていた。
週刊誌の醍醐味はやはりあのリアルタイム感である。同時代的に物語が現在進行していく感覚とでも言おうか。次週あの作品はどうなっているだろうか? というワクワク感はやはり他では言い表しがたいものがある。
「次週どうなるんだろうね?」という話で実際に友達と盛り上がったという記憶はあまりないのだが、目に見えない無数の読者とワクワクを共有しているような感覚はあった。
カクヨムの連載方式はあの感覚を少し思い出させるものがある。ワクワクして待っている読者が1人でもいるのかもしれないと思うと、きちんと作品を完結させねばというモチベーションになるものだ。
現在マンガ業界はかなりネットに移行している。
当然無料で(立ち読みという後ろめたさなく)読めるマンガは多数あるが、やはり少し感覚が異なるように思える。細分化し過ぎて誰もが共通して話題に出来るようなメインストリームの作品が少ない、というのもあるだろうし、スマホの画面で見るのと紙面で見るのとはやはり感覚が違う。当時の方が間違いなく集中して読んでいたし、作品の次の展開を本当に楽しみにしていた。もちろん純粋に私の加齢によって集中力が落ちているというのもあるかもしれないが。
ただおかしな話に聞こえるかもしれないが、私は立ち読みこそが最も集中できる読書環境のような気がしている。本を買って家に戻って来ていざ読書をしようとすると集中力を殺がれる要因が意外と多い。とりあえず買って時間が出来たら読もうと思っていると、いつの間にか興味を失っているというケースも多い。目に付いた瞬間が一番の興味のピークなのだ。
先ほどの集計によると私は週に10誌近く読んでいたことになるが(もちろん全作品を隅から隅まで読んでいたわけではない)もちろんまだまだマイナーな雑誌も本屋には並んでいた。
ただマイナーな雑誌は一度気になって読んでも、次週その店で必ず読めるとは限らない。途中から読み出す作品は物語に没入しにくい。そんなわけである程度以上に手を広げるのはストップした。
際限なく手を広げるのが怖かったというのもあるし、まだまだ自分の知らない世界があるということを確保しておきたかったようにも思える。
立ち読みを始めた当時は、同時代的サブカルチャーのメインストリームを把握しておきたいという意識もあったように思うが、色々と読むうちに本当に自分の好きな作品はどんどん増えていった。私の狭い本棚からはコミックスが溢れていったものだ。
もちろん前述したように私はマンガだけを読んできたわけではないが、一番純粋に楽しんで読んできたのがマンガ雑誌であることは間違いないだろう。それだけ多くインプットしてきたということだ。閃きや発想なんてのはゼロから出るものではない。結局はどれだけインプットしているかによると思う。
インプットしようという意識もなく貪るように読んでいたマンガ雑誌・マンガ文化に間違いなく私の多くは形成されている。
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