食について

久々にエッセイでも書いてみようかという気になったので、今回は食べることについて書いてみる。


皆さんの好きな食べ物は何ですか?良かったらコメントで教えてください。


逆に私はそう問われると意外と答えるのに困る。

肉に決まってんだろ!と思う時もあるし、いや鍋物に入ってる豆腐こそ至高だろ!とも思うし、いやいや結局は白米だろ!とも思うし、でも果物も色々好きだしなぁ……という気もして何を答えればいいのか分からなくなる。

野菜も大抵は好きだし、魚も好きだし、一般的な食材の中であまり苦手なものは思い付かない。あんまりジャンクフードは食べないようにしているが、たまにどうしても食べたくなってしまえば食べる。

子供の頃は青ネギとピーマンが嫌いだったが今は普通に食べられる。子供の頃というのは感覚が鋭いので、むしろ好き嫌いが多少あるのは仕方ないように思う。


ただ流石の私も昔ほどの食欲は無くなってきた。

一時期は晩飯で2合の米を食べるのが日課となっていたし、3合食べたことも一度や二度ではない。しかもそれだけ食べていたのは10代の育ち盛りの頃ではなく20代後半の頃だった。一番身体を動かしていた時期だったのだろう。

今も同年代の人と比べればかなり食べられる方ではあると思うが、面倒に思うことも増えてきた。体重を維持するために半ば義務的に食べている部分もある。健康のために食べ過ぎは良くない、という常識的観点が強くなってきたことも当然その傾向を後押ししている。


しかし今も運動をしているので多少食べ過ぎても露骨に太るということはない。

……というのは恐らく誤りで、これは体質による部分が大きいのだろう。

昔から割と食べる量は多かったのだが全然太れなかった。

高校生の時は177~8センチあって体重が60キロを切っていた。痩せすぎがコンプレックスだったのもあるし、肉体的に強くなりたいという漠然とした気持ちもあって意識的に食べてはいたのだが、体質的に増えないものだと半ば諦めていた。

それでも一時期は頑張って増量し70キロを超えたが、今は65~6キロまで戻ってしまった。何とかまた70キロの壁を超えたいと思っている。

痩せたい痩せたい風潮が強い昨今、太れないなんて贅沢な悩みだろ!というお叱りを受けるかもしれないが、太れないことに悩む人間もいるのだということを理解いただければと思う。


今も継続的に筋トレ等しているので体型的には若く見えると思う。

たまにそのことに対して「偉いね」「ストイックだね」という旨のことを言われたりもするのだが、別に体型を維持したり健康のためにやらなきゃという義務感から運動しているわけではないので、そうした意見には少し違和感を覚える。

私は運動自体が好きなのだ。最も強い快楽なのだ。心拍数が上がって息が切れて、アドレナリンがドバドバ出てきて好戦的になるあの状態は何物にも代え難いのだ。

だから逆に義務感から食生活や運動をコントロールしている人の方がよほどストイックだと思う。

本質的には私は刹那的快楽主義者だと思っている。

ただもちろん自分のコンディションが良い方が気持ち良いので、食生活でも色々と気を遣っている部分はある。体重を落とさないように食べるというのも未だにあるし、食品の成分も見るようにはなったし、野菜やキノコ類も意識的に食べる。


食べ物のバランスと言えば思い出すのは『寄生獣』でのワンシーンだ。

両親が旅行に出てジャンクフードばかり食べていた主人公の新一が「もっとバランスを意識した食事を摂った方が良い」というミギーのアドバイスを受けて、初めて自炊するシーンだ。

「まてよぉ、てめぇの仲間(寄生生物たち)はどうなんだよ!人間ばっかり食いやがって!あれは偏ってねえってのか!? 」

この新一の反論に対してミギーが返答に困るのがとても面白い。

面白さの一部はもちろん、学問的知識で育ち理屈っぽい性格のミギーが新一にやり込められるという部分による。

そして他の幾分かは、現実というものへの人間の理解の及ばなさ、理不尽さみたいなものが、この会話の中に含まれているからだと思う。


バランス良く食べましょう。野菜を多く摂りましょう。糖質の摂り過ぎは良くないです。

まあどれも我々にとっては妥当なものだと思う。

でもそれを忠実に実行したから全ての人が良いコンディションを保ち長生き出来るかというと、残念ながらそうではないことを皆さん知っていると思う。

世界最長寿だった女性はドクターペッパーを1日に3本飲んでいた。「それは止めた方が良いと言ってきた医者たちは、みんな私より先に死んでしまいました」という鉄板ネタまでオマケだ。

寄生獣の寄生生物たちのように人間だけを食べて生きている人はあまりいないと思うが、偏食家と呼ばれる人たちはそれなりに知られている。元サッカー日本代表の中田英寿氏も野菜をほとんど食べなかったことで有名だ。海外遠征でも日本から持っていったお菓子ばかり食べていたそうだ。それでも屈強な身体を作り上げ、したたかなイタリア人DFたちを薙ぎ倒し日本を代表する選手になったのだ。

どれだけ意識して良い習慣を保ったとしても、結局体質だとか遺伝子だとかには敵わないのかもしれない。


日本人と他国の人たちでは全然話が変わってくるという場合もある。

例えばサモアの人たちが知られている。

サモア人は屈強な人種として有名だ。ラグビーが有名だが、私が一番イメージするのはマーク・ハントという元K-1ファイターだ。彼らトップアスリートだけでなく一見したところ市井の普通の人々もとにかくデカい。肥満率も高いそうなのだがとにかく筋肉の詰まった身体という感じがする。

しかし彼らは肉や魚をあまり食べず、一日のタンパク質摂取量は15グラム程度だそうだ。これは一般的日本人の4分の1以下の量だ。それなのになぜそんな屈強な身体が出来上がるのだろうか?彼らはヤムイモ・タロイモといったイモ類を主食としているのだが、彼らが持っている腸内細菌がそうしたイモ類を分解してタンパク質に合成する働きがあるそうだ。

……え、めちゃくちゃズルくねえか?。こっちは必死で筋トレして、タンパク質の量を計算して、エンゲル係数跳ね上げてまで必死で食って筋肉付けようとしてるのに、アンタらはイモ食って寝っ転がっているだけでそんな身体が出来上がるんかい!と叫びたくなるトレーニーは私だけではないだろう。


他の例ではイヌイットと呼ばれる人たちがいる。以前もどこかで書いた気がするが。

極北の地に住む彼らは全てのほとんどの栄養を動物から摂取する。厳寒の地では植物はほとんど育たず(ベリー類等は少しあるそうだ)野菜や穀物などは摂ることが出来ないからだ。代わりにアザラシやトナカイの肉を食べ、脂肪を食べることでビタミンなどの栄養をも摂取して健康を保ってきたのだ。

近年そちらの地にも欧米の食品が持ち込まれ、変容した食事による生活習慣病が彼らの問題となっているそうだ。

これも彼らの腸内細菌や体質によるのだろう。彼らにとっては彼らの伝統的な食事をしていることの方が健康的だったわけだ。


拡大してゆけば人間以外にも目を向けなければならない。

ゴリラも草食なのになんであんな筋肉の塊に仕上がるんだ?とか、牛なんて草しか食ってねえのにあんなデカくなるのはおかしいだろ!という気もしてくる。

こういった例も多くは腸内細菌の違いによるらしいが、まあ生き物というのは不思議なものだ。


少し前にBSで『食の革命 10年後私たちは何を食べている?』という番組を観たのだがとても興味深かった。

地球の人口は増えすぎており今後の食糧不足が懸念される。特に肉牛を育てるのは牧草地などのコストがとても高いこと、生育の過程でメタンガスが大量に排出されることなどから、地球環境を鑑みると現在の飼育方法ではなく別の方法を探るべきだという意見が強いそうだ。

代替案の一つが、実際の牛を育てそれを殺して食肉を得るのではなく、肉そのものを培養してしまおうというものだ。

大量生産にはまだ幾つかのハードルがあるものの、生産する技術そのものはすでに実現している。命の介在しない肉を私たちはすでに食べることが可能なのだ。

その他にもゲノム編集した新たな穀物の生産や、空気からタンパク質を合成する技術などもすでに完成しているそうだ。

そうしたものが安価に大量生産出来るようになれば、本物の牛や豚・鶏の肉などは高級品として庶民には手の出せないものになってゆくのだろう。というか動物を殺してその肉を食うなど残酷過ぎる……と言い出す倫理屋も間違いなく出て来るだろう。

むしろ、そうまでして地球の人口を維持しようとすることの方が不自然な気もしてくるが。……おっと、また寄生獣の話に戻ってしまったようだ。


昆虫食というのも一時期話題になった。同様の観点から効率的にタンパク質を摂取するのに昆虫は最適だという話だ。

もちろんまだ抵抗感のある人が多いと思うが、食の好き嫌いというのはほとんどが習慣によるものだと思う。慣れてしまえば昆虫も問題もなく食べられるだろう。私も効率的に安価に栄養が摂れるのであればそちらを選ぶだろう。


しかしこうした話を聞くと本当に時代は進んでいるのだなと実感する。手塚治虫の世界か、ディストピア系SFの世界か。

子供の頃思い描いていた未来を私たちは間違いなく生きているのだ。






(了)

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