音楽について③


さてPerfumeという衝撃についてである。

私は1stアルバムのタイミングで、例によってタワレコで出会った。

お茶の間よりは少し早いタイミングだっただろうが、雑誌等ではすでにかなり注目度が高まっていたように記憶している。

もちろん3人のキュートなルックス、完璧にシンクロされたダンスが魅力の大きな部分であることは異論の余地がないが、今回は特にサウンド面について語りたい(当時の私は自分の部屋にテレビがなく、インターネットも繋がっていなかった。雑誌等で3人のビジュアルは認識していたが、動画で見ることになるのはしばらく後のことである。……一応本当にPerfumeの音楽面に衝撃を受けたんだよ、という蛇足である)。


ちなみにPerfumeの音楽はテクノと呼ばれることが多いが、4つ打ちの多幸感あふれるサウンドはハウスと呼ぶ方がより適切だと個人的には思っている。

プロデューサー中田ヤスタカの登場以前に中田ヤスタカ的な予兆はほとんどなかっただろうから、彼のことは天才と呼ばざるを得ないだろうが、果たして彼の作るサウンドの何がすごいのだろうか?

天才ミュージシャンの作る音楽と聞くと、凡人には想像も付かないような複雑なギミックの施された音楽……というイメージを持つ方がいるかもしれないが、Perfumeの音楽は真逆だ。

リズム、ベース、ボーカル以外に鳴っている音は1,2種類のシンセだけ、というとてもシンプルな構成だ。その分一つ一つの音がとてもこだわり抜かれているという印象だ。特にリズムの部分。打ち込みのキックの迫力というものには度肝を抜かれた印象がある。本当に発明だと思った。もちろんその最小限の音の絡み方は非常に緻密だ。

あとはやはりメロディが良い。とても日本人にとって口ずさみたくなるメロディが多いと思う。


当時の私は、毎月『JAPAN』とか『音楽と人』を読んでは、眉間に皺を寄せながら邦ロックの新譜を聴いていた。

そんな時に出会ったPerfumeは、4つ打ちのサウンドも、オートチューンのボーカルも、意味よりも響きを優先した歌詞も、全てが心地良い快楽の音楽に思えた。書生くさい場所に急に一輪の花が咲き、彩りが加えられたような感覚だった。

1、2枚目のアルバムは本当によく聴いたし、ライブDVDも買った。

Perfumeが出て来なければ、後に世界的に活躍するBABYMETALや、さらにその後の楽曲派アイドルも登場し得なかっただろうから、Perfumeの登場はアイドル史的にも音楽的にも非常に意義の大きなものだったと言えるだろう。


さて当時の私は、その後も並行して律儀に邦ロックのCDを買い続けていた。

数少ないながらもライブの場にも足を運んだ。BRAHMANのライブは衝撃的に良かったが、頻繁に行けるわけでもなく、あまり大きい会場だとライブ感が薄い気がして、そこまでライブに情熱を傾けるわけではなかった。


そんな中(おそらく)2009年ごろにテレビを購入する。

一人暮らしを始めてから1年半くらい(?)テレビ無しの生活を送っていたのだが、特に不自由は感じていなかった。だがいざ買うと面白くて仕方がなかった。

そして夜中の番組で出会ったのがAKBである。

最初は夜中にやっているバラエティー番組を見ているだけだった。アイドルの子たちがわちゃわちゃしているのがとても癒しになった。

だがふと気付くと、CMで流れているAKBのシングル曲を口ずさんでいたりする。……ヤバイヤバイ!バラエティー番組を見る程度は良い。だがあんなに俗っぽい、AKBのCDを買うのだけはダメだ!と思っていた。

Perfumeは良い。同じアイドルとして括ることも可能かもしれないが、Perfumeの音楽は斬新で時代の最先端だし、多くのミュージシャンたちも絶賛しているという免罪符が明らかにあったからだ。

でもAKBはダメだ!AKBにハマるということは、秋元康という胡散臭いおっさんの手の平で転がされるに等しいことだ。AKBの音楽自体も目新しいものとは言えず8~90年代のリバイバルとしか言えないではないか!そんなものにハマってはダメだ!……と強く念じていたが、パソコンとインターネットが入り動画を様々に漁れるような環境が整うと、AKB熱は増してゆき、気が付くといつの間にかCDも購入していた。

……一応補足しておくと、握手券目当てで同じCDを何十枚も購入したという訳ではない。普通にアルバムやシングルを一枚だけである。握手券付きのCDというのは専用のサイトで購入しなければならず、方式が複雑だったのもその理由の一つではあっただろうが。


それ以降AKB~乃木坂等の坂道グループへと、まあまあハマり現在に至っている。

ちなみに世代的にはモー娘。やハロプロ系全盛期に思春期を過ごしてきたので、そっちにハマってもよさそうなものだが、当時はほとんど興味がなかった。つんく♂の作る楽曲の俗っぽさ、演歌・歌謡曲っぽさ、ハロプロ独特の歌唱法がとにかく苦手だったのだ。

アイドルはアイドル文化として語りたいことがたくさん出てきそうなので、今回は音楽面にだけ注目したい。


10年前の音楽シーンを振り返ると「AKBとジャニーズ系ばかりがチャートを独占し、音楽の価値を貶めた!」という批評がよく出てくる。当然言いたいことは分かるし、一面の真理を表しているものだろう。

だが……じゃあAKBやジャニーズの音楽はクソで、それ以外のアーティストが素晴らしい楽曲を生み続けていたにも関わらず不遇の時代を過ごしていたのか?と言うと、そうではないと私は思っている。

当時の私はそれまで追っていた邦ロックをほとんど追わなくなっていた。ずっと追い続けてきたバンドに関してはもちろん新譜を買っていたが、新しく出てくるアーティストにはほとんど興味を示さなくなっていった。音楽雑誌を読むのもいつの間にかやめてしまった。

自分自身がそうした行動に飽きてきたというのももちろんあるだろうが、新しく出てくるバンドに魅力をあまり感じなくなっていったということだ。身内に向けた保守的な表現や、フェスで『沸く』ことだけを露骨に目的とした(……おい!KANA-BOONの悪口はそこまでにしておけ!)バンドが幾つも出てくると、私の邦ロックに対する興味は冷めていった。

邦ロック以外のJPOPに関しても、固定のファンに向けた保守的な作品の傾向が強まっており、万人に向けた王道のJPOPというものが欠落した時代になっていった印象がある。そうなっていった要因はネットの発達と音楽との関係、CDというものが売れなくなっていったことなど、様々だろう。

そんな中で出会ったAKBだが「音楽的にも良い」と私には思えた。私にとってはJPOPの復権、というような印象である。

私が出会ったのは『涙サプライズ』『10年桜』の頃である。ちょうどグループ的にも上り調子の良い時期だったのだろう。ブレイクを果たした『言い訳Maybe』や、『ポニーテールとシュシュ』『ヘビーローテーション』といったAKBの王道シングルに関しては、それほど目新しさを感じたわけではない。だが楽曲のクオリティに関してはやはり高いものを感じた。定型のJPOPの範疇でありながら、ついつい口ずさんでしまうメロディ、繰り返し聴くほどに発見される細かい音の数々。自己表現に主眼を置いたバンドミュージシャンとは違った、職業作曲家というものの力を思い知らされた。

有名な話かもしれないが、AKBやジャニーズ(他にも様々なアイドルやアーティストがこの方式を取っているのだろうが)の曲は、コンペと呼ばれる公募のような形式で選ばれることが多いという。作曲家たちが渾身の力を込めた楽曲が数千と集まった中から、次のシングル曲の候補を選ぶのである。クオリティの高いものが選ばれるのも当然だろう。

AKBはシングル曲以外にも非常に多くの楽曲を抱えている。AKBは劇場公演と呼ばれる定期的なライブを行っているのだが、そこで披露される楽曲はもう少しバラエティーに富んでいる。コテコテのアイドルソングもあれば歌謡曲っぽいもの、シリアスな楽曲もある。

だが方向性は多様でありながらもAKBっぽさの範疇内に収めなければならない。このさじ加減が絶妙で、多様な楽曲を知るほどに職業作曲家の底力を感じたものだ。

ちなみに私はこのAKBの劇場公演にも何度か行ったことがある。総合的に満足度の高いものだったが、劇場で聴くと曲の意味もより違って聴こえてきて、ダサいと思っていた曲の評価が変わる、というのも新鮮な経験だった。

シングル曲でも『Beginner』のような、攻めた楽曲を選べるのはAKBの特徴だと思う。こうしたプロデュース姿勢や作詞能力も含めて、やはり秋元康という人間は凄いな、という評価になっていった。


AKBにハマったのは……むろん音楽以外の要素も多分にあったのは間違いないが……音楽という面も自分では結構大きいと思っている。また後に触れるかもしれないが、結局アイドルも脚本となるものは楽曲なのだと思っている。

自分にとってのAKBの音楽をまとめるならば、「自分のことを語るバンド音楽」への反動として、「大衆性を強く意識したプロ作家の力」に強く惹かれた、ということになるだろう。そんな時期であった。




(まだ続きます、流石に次回で終わるかと思います)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る