猫かぶり魔王、聖女のフリをして世界を手中に収める ~いいえ、破滅フラグを回避しながらテイムでモフモフ王国を作りたいだけの転生ゲーマーです~

タック

第一章 テイマー! 魔王! 聖女!

ゲームの世界

前書き

書き溜めは八万文字程度あるので、しばらくは昼頃に毎日予約投稿していく予定です。

ブックマークや、作者をお気に入りに入れて頂けると探しやすいかもしれません。



――――――



 この世界は退屈だ。だからゲームのネタプレイをいつも考えている――


 高校、帰りのホームルームの時間。

 少女はそんなことで頭がいっぱいだった。


「じゃあ、この係はお任せしますわ。佐藤さん」


「……あ、はい」


 少女――佐藤 蘭は自分の名前を呼ばれて何かを任され――もとい押しつけられたのだと気付いた。

 いつものことだ。

 学園カーストの上の人間が、下々の奴らに面倒な役割を割り振る。

 なんてつまらない、この世界は退屈なのだと思ってしまう。

 苦痛な時間だ。

 早く、密かに持ち歩いているゲーム機でネタプレイの続きをしたい。

 だって――


『お任せしますだぁ? 私はそんなことは任されたくねぇッ!!』


 蘭はずっと我慢していた分を大声で叫び、今まで座っていたホカホカの椅子を片手で軽々と持ち上げて、剛速球ストレートでカースト上位女子に投げつけた――


(なんて、ゲームみたいなことは現実問題できないもんね。断っただけでも目を付けられて面倒なことになるし。自由意志なんてない。ゲームの中でしか気ままに生きられない)


 世間一般では危ない妄想と呼ばれそうなモノを中断して、楽しいゲームのネタプレイ中のデータを思い出していく。

 携帯ゲーム機の中には三つ進行中のデータがある。


 一つ目はモンスター収集ゲーム――〝テイムモンスター〟だ。

 本来は様々な種類のモンスターをテイムして、最強のテイマーになるというのが目的。

 蘭はネタプレイで可愛いモフモフのみテイムするという縛りをしている。


 二つ目は魔王になってダンジョンを運営するゲーム――〝無限迷宮リバベール5〟。

 ごっつい魔族や異形を仲間を下僕としていくのだが、少数いる女子な見た目をした娘たちだけ集めるというネタプレイをしている。

 リアル女子高生なのだが、男魔王の身体でハーレムを形成するというのはそれはそれで楽しい。


 ……ちょっと女子高生っぽくない遊び方だなーと自分でも思う。

 その反動か、三つ目は最近友達が貸してきた乙女ゲー〝トゥインクルワンモアランド〟だ。

 聖女になってイケメンたちのハートを射止めるというスタンダードな内容。

 しかし、実際にプレイしていると、再びネタプレイ根性が疼いてしまった。


 そんなわけでホームルームも終わりそうなので、こなれた手つきで携帯ゲーム機を取りだし、机の下で電源をスイッチオン。

 席は一番後ろの角なので見つかりにくい。

 セーブデータがロードされると、イケメンたちの好感度が表示される。

 好感度はほぼ最高でベタ惚れ状態なのだが、全員に爆弾マークが付いている。


(うーん、普通の遊び方じゃつまらないからネタプレイしてみたけど……これ次の一手で大爆発して破滅なんだよねぇ……)


 いわゆる二股……いや、五股である。

 リアルでやれば大変なことになるだろうが、これはゲームである。

 非日常を楽しむという遊び方を否定できる者はいないだろう。

 ボタンを何回か押すと、妙なメッセージが画面に表示された。


【十六歳の誕生日おめでとうございます】


「ん?」


 時計機能が搭載されたゲームならこういう演出は割とあるのだが、妙なのだ。

 蘭は誕生日を入力していない。


「貸してきた友達アイツが入力していたとか……? イタズラかな」


「誕生日おめでとう」


 蘭はビクッとした。

 今度は教室の中からリアルに聞こえてきたのだ。

 そちらを向くと、先ほど面倒な役目を押しつけてきたカースト上位女子がパチパチと拍手をしていた。


「……あ、ども……ありがとうございます」


 反射的に返事をしてしまったが、やはり妙だ。

 このタイミングというのもだし、カースト上位女子の表情がホームルームで論争をしていたときのまま固まっている。

 言い争っている激しい表情のまま不気味に動かない。


「誕生日おめでとう」


 今度は担任が同じように言ってきたが、こちらも表情がマジメなままだ。

 そのままクラス全員が立ち上がり、蘭に視線を向けて――


「誕生日おめでとう」


「誕生日おめでとう」


「誕生日おめでとう」


「誕生日おめでとう」


 フラッシュモブというやつ? と蘭は自身の常識で測ろうとしたのだが、どうやら〝世界〟は耐えきれなくなったらしい。

 空間に黒い亀裂が入り始め、人間の表情がレイヤーのようにいくつも重なり、ゲームのウインドウが空中に飛び出している。

 一言でいえば世界が〝バグった〟のだ。

 ウインドウの文字が更新される。


【地……×○%?ゥ……■町☆#……火葬……シ……う……トゥインクルワンモアランドへ】


 大半が読めない羅列。

 しかし、最後だけはハッキリと見えた。


【ご招待いたします】


 バツンとブレーカーが落ちるような音と共に闇に包まれた。

 蘭の退屈な世界は――呆気なく電源を落とされた。




 ***




「って、何なのよコレは!? バグるのはクソゲーだけにしなさいよ!!」


「せ、聖女ラン様!? 急に大声をあげてどうなされたのですか……?」


「えっ?」


 蘭は、気が付いたら知らない場所にいた。

 いかにも異世界風という小綺麗で大きな部屋。

 思考を強く揺さぶられるような感覚に襲われ、ハッとした表情をする。


「……思い出した」


 蘭は突然この場所にやってきたのではない。

 十六年前、異世界に転生して、前世の記憶を無くした状態で聖女ラン・グ・シャゾンとして育てられていたのだ。

 そして現在――ここは城の大広間で、聖女が儀式を行うために要人たちが集まっている最中だ。


「聖女ラン様。思い出したとは? それに、普段は絶対にお口にしないような『クソ』という下品な言葉が聞こえたような……」


「ん、んん!? そ、それは……空想クーソー――つまりボンヤリと思い描いていたのと同じような場面だったので、今この場は聖女の〝力〟で見ていたのだと思いだしたのです」


「なるほど、さすがでございます。口にするにもはばかられる聞き間違いをしてしまった、このわたくしをお許しください」


 どうやら聖女というのは品行方正でなければならないらしい。

 がさつな現代オタクっぽい素の喋りが出るとマズいので、猫をかぶらなければと決心した。


「いえ、取り乱してしまった私が悪いのです。お気になさらず。オホホ~……」


「さすが聖女ラン様!!」「さすがランちゃんだな!」「さすがマイハニー!」「さすがランねぇ!」「さすがラン殿」


 無駄に調いすぎた顔のイケメンたちが、なぜか佐藤 蘭――いや、ランを口々に持ち上げている。

 将来の王である王子様、若き大商人のオレ様、法王候補のダメ男、エルフ族の天才ショタ、生産系ギルドを統括する二代目の無骨系。

 どこかで見たことのある面々だ。

 もしかして――と、この異世界のことを思い出していくと、乙女ゲーの設定と合致していることに気が付いた。


(えーっと、イケメンたちの名前は何だったかな……まだ記憶が完全に思い出せない……。だけど、それより重要なことがある。それがゲームの……どのタイミングか……。たしか五人全員が揃うのは――)


 ランが必死に思い出したタイミング――それはセーブデータをロードした瞬間の場面だ。

 つまり現在、五股状態。

 イケメンたちの好感度はマックスで、全員に爆弾が付いている状態である。


(まずい、まずすぎる)


 ランは少し前に死んだ感覚でいたが、再び走馬灯が見えていた。

 念のために補足しておくと、色恋沙汰と言ってもR18の乙女ゲーではないのでいかがわしいことはしてないし、キスもエンディング直前でするので清い身のままだ。


 しかし、暴力描写だけはしっかりと描かれていて、ホラーゲーム顔負けの殺され方をするバッドエンドが多数ある。

 生きたまま火口に突き落とされる聖女殺害シーンなど、シュールすぎてサムズアップのコラが複数作られたものだ。

 イケメンに笑顔で滅多刺しにされるというのもあった。

 無駄に殺し方が凝っているため、開発者はきっと心の中にヤバい奴でも飼っているに違いない。


(し、死にとうない……せっかくファンタジー世界に転生したのに死にとうないのじゃ……)


 もしかして精神的にロリババアなんじゃね? とランは気が付いて、ちょっと内心それっぽくしてみた。

 けれど、よく考えたら16歳までを二回過ごしただけで、そこからの社会経験もないので心は乙女のままである。合計年齢はさんじゅ……う……まぁ気にしない。


 それに、まだやりたいことが沢山ある。

 ファンタジー世界の可愛い動物とモフモフしたい。

 美味しい物もいっぱい食べたい。

 あとやっぱり普通に死にたくない。

 ランは決意した――このイケメンたちをゲーマーの手腕でのらりくらりと躱し、城の中で豪遊しながら生き残ってやる――と。


「では、聖女ラン様。魔王が出現していないか〝ホーリー・サーチ〟の魔法を頼みました」


「えっ? あ、はい。頼まれました」


 ランは思い出した。

 この乙女ゲーの聖女は、世界に魔王が復活してないか確かめるのが役目なのだ。

 結局、恋愛主体のシナリオのため、魔王復活なんてスパイス程度の要素。

 出現せずに終わってしまう。

 そんな存在しないモノより、イケメンに殺される方が怖い。

 テキトーに儀式を済ませてしまおうと聖女専用魔法を使う。


「では――〝ホーリー・サーチ〟!」


 用意された地図を見ながら、頭の中でレーダーのような波紋が広がる。

 本来なら反応はないはずだが――


「んん!?」


「い、いかがなさいましたか!?」


「この国のどこかに魔王がいる……」


「なんですと!?」


 ランの言葉に要人たちがざわめいた。

 しかし、同時にランはチャンスだとも思った。

 イケメンたちが魔王討伐に全力で取り組めば、五股しているランへの危険も減るからだ。

 そのために魔王の詳細な場所を言おうとしたのだが、ランの口があんぐりと開いたままで止まった。


「聖女ラン様!? ま、魔王はどこに!?」


「え、えーっと……詳細な場所はわかり……ません……ねっ!」


「そうですかー……。これは対策を講じなければなりませんな」


 ――ランは本当のことを言えなかった。

 魔王の反応はこの部屋を指し示していたことを。

 というか指し示していたのは自分。

 つまり、ランは聖女で魔王だったということだ。

 その日の夜、バレたら二重の意味でぶっ殺されそうだったので城の窓から逃げ出した。

 平穏な日々グッバイ。お城の豪遊生活さらば。




 ***




 ランは通りがかった親切な馬車に乗せてもらい、城から山一つ超えたところまでやってきていた。

 暗くて顔は見えなかったが、小柄な御者のおじさんの善意に感謝である。


「ふぅ~。破滅フラグから物理的に離れれば平気でしょ~」


 一息吐いたところで、ランはこの世界のことを考察し始めた――

 まず、今の自分はランであってランでない。

 16歳までは何も知らない清い聖女として育っていたはずなのだが、先ほど前世の記憶を思い出してしまった感じだ。

 ……五股をかけて清いかどうかというのは、まぁ体面的には清いという意味で。

 ネタプレイしちゃってごめんよ。


 そこから急に、元のゲームでは出現しないはずの魔王が登場。

 何かおかしい。

 ゲーム的に魔王というのは、最近プレイした別ゲーで心辺りがある。


(もしかして――そっちのゲームも……)


 あまりに突拍子もない状況での考察が浮かぶも『まっさかね~』と思わず口に出して中断してしまう。

 とりあえず、これから――いや、今のことだ。

 馬車で移動というのはありがたいのだが、座っている部分にクッションもなく、ガタガタと揺れてお尻が痛い。

 この世界の馬車は、サスペンションやゴムタイヤがないので振動を吸収しきれないのだろう。

 とりあえず、急いでいて馬車の目的地を聞いていなかったので、御者さんにどこまで行くのか聞いてみることにした。


「あの~、すみませ~ん」


「……」


「すみませ~ん!!」


 馬車後方の箱形の荷台から、ランは大声で話しかけるも、御者はスルーしている。

 そこで少しおかしいなと気が付いた。

 馬車にタダで知らない女性を乗せてくれるとか、メチャクチャフレンドリーなはずなのに放置するなんて変だ――と。


(あ、もしかして、照れてるんじゃ? わかる~。聖女ランって顔はいいからね~)


 イケメンたちに五股をかけられるレベルの容姿なのだ。

 そこらにいるモブ男性から見たら、それはもうお近づきになりたいのだろう。

 ランは客観的なゲーマー視点で、うんうんと頷いていた。


 色々と納得して、また硬い椅子に座り直そうとしたとき、足元になにか落ちているのに気が付いた。


「えーっと、御者さんの私物かな? 随分とマニアックだな~」


 首輪、手錠、足かせ。

 一瞬、ちょっとエッチな想像をして固まってしまう。

 しかし、他人の趣味に寛容なのがゲーマーだ。

 御曹司がオークションでイケメンを落札して、こういうものを装着させるゲームもあるだろう。


「……って、このゲームにそういう要素はなかったわよね」


 ランは気が付いて、少しだけ違和感が出てきた。

 そういえば、出口が鉄製の錠前でガッチリと閉められている。

 さすがに不安になり、御者に声をかけた。


「あ、あの~、御者さん。この馬車はどこへ行く予定ですか?」


「ゲッヒッヒー。お嬢ちゃんが向かうのは地獄だゴブ~!」


「はぁ!?」


 振り返った御者さんは、緑色の肌でとんがった耳をしていた。

 人間の服を着ているが、よく見ると小柄なおっさんではなく、喋るゴブリンである。


「いやいやいや、この乙女ゲーにこんなモンスターいないから……って、コイツ見たことがある。もしかして――」


 ランの記憶に蘇ったのは、前世でゲーム機にDLしていた〝魔王になれるダンジョン経営ゲーム〟である。


「お邪魔モンスターの〝人攫いゴブリンエース〟じゃないの!? って、ことは――この世界はバグって別ゲーが混じってる!?」


「うるさいお嬢ちゃんだ。あとでちゃんと喰ってやるから静かにするゴブ~」


 ちなみに喰ってやるというのは、本当にお料理されて食べられてしまうということである。

 まだエロゲ的な意味だったら生き残れる可能性もあったのに……とランは頭を抱える。

 絶体絶命のピンチだ。


「いや、待てよ……別ゲーが混じっているっていうのなら……」


 ランはもう一つ、ゲームをDLしていたことを思い出した。

 それは――


「えい! 〝テイム〟!」


 モンスター収集ゲーム〝テイムモンスター〟である。

 主人公がテイムスキルを使えば、モンスターたちは友好的になってくれるのだ。


「……このお嬢ちゃん、急に変なことを叫びだして頭がおかしいゴブ?」


「しまった……! この〝人攫いゴブリンエース〟はモフモフしてないし全然可愛くない! これじゃあ私のネタプレイ的にテイムできないのね!」


「なっ、いきなりメチャクチャ失礼な奴でゴブ……って、うぎゃああ!?」


 突然、馬車を引っ張っていたヨボヨボの老馬が急停止して、箱形の荷台部分が木に激突した。

〝人攫いゴブリン〟は、その間に挟まれて再起不能になっている。


「いたた……どうやら、お馬さんの方に効いちゃったか……。たてがみフサフサだし私的には可愛いからオッケーか」


 衝撃で破砕された荷台部分から、運良く無傷のランが這い出てきた。

 そこで気が付いた。

 ヨボヨボだったはずの老馬の姿が若返り、何か造形自体も変化しているのだ。


「……あれ? 普通のお馬さんだった気がしたけど、何かテイムしたら角が生えて立派なユニコーンになってる? ……ま、いっか」


 砂ぼこりをはたいて落としていると、目の前にシステムウインドウが現れた。


【人攫いゴブリンを倒したことにより、DPを1獲得しました】

【初勝利特典でDPを1000獲得しました】

【ダンジョン作成チュートリアルを開始します】


「お、おぉ……たしか、DPってダンジョンポイントの略で、ダンジョンを作るために必要なやつだったはず……。もう何でもできちゃうレベルでゲームが混ざってるわね……」


 そこでランは閃いた。


「そうだ! ダンジョンを作って目立たないように隠れ住めばいいじゃない! ついでにテイマースキルもあるし、可愛いペットを沢山テイムしてモフモフ王国を造っちゃいましょう!」


 やるぞー! とランは気合いを入れていた。


――――


後書き

というわけで新連載が開始されました!

どこか抜けていても、何となく環境に適応していってしまうという主人公ランにお付き合い頂けたら幸いです。

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