春雨の跡

春雨の跡

雨の後に水溜まりを覗き込み、その果てのない深さに感銘を受け、詩を書いた。

翻訳した詩ではない。

       三崎伸太郎  03162025


春の雨が過ぎ去った

小さな水溜りができた

覗き込むと深淵の空間に浮かぶ雲と青空、木々の陰、ひとひらの桃の花

水鏡に人の影法師、目が光る、悪魔、鬼

こ奴(やつ)は誰だ、だれなんだ

恐怖は一片の桃花の上で水面を走る

神が青空の淵から私を睨む

私は恐怖から水に浮かぶ一片の桃花を踏んで沈めた

仙郷の春は、深淵の中に沈み、木々や雲が揺れた

ザワザワ揺れた

この水溜りが白いカンヴァスなら、私はミケジャンダロの天井画を模倣する

神の審判が雷となって私の心を打ち

神の睨んだ目から逃れる愚か者に地獄送りの刃(やいば)

慌てふためいた私は、仙郷の春を靴で踏みつけた

罰当たり奴(め)

深淵から地響きのような声

私の精神のゆがみが水面に揺れた

気狂い奴(め)

私は手にしていた絵具箱から赤色の絵の具を取り出した

筆に赤の絵の具を付けると、水に入れた

赤色の流れが水面に広がる

私は筆をじゃぶじゃぶと揺り動かした

ミケランジェロの「最後の審判」を赤で塗りつぶしてやる

深淵に広がる仙郷の春は、赤色の渦の中に沈んだ

ミケジャンダロの天井画は、消えた

神とともに消えた

春の嵐に、ゆがんだ精神が水溜まりを戦場にしている

みだらな赤が水面を揺れ動き、春は消えた

落ち着いた水鏡を、、恐る恐るのぞき込むと、悪魔がいた

相手も私を覗き込んでいる

鬼もいた

恐ろしい目が私を見ている

「最後の審判」の神の目だ

たじろいた私は靴で水面を蹴る

サッカーボールのように水を蹴る、何度も蹴った

春の花を通り超え、気持ちが水浴びをする

あなたは誰だ

深淵の中で影法師の目が光っている

辺りを見回すと、春

桃の花がパラりと落ちた

遠くには菜の花畑

空の高いところに飛行機が飛んでいる

ありふれた春が私の心を揺すった

揺り籠のような揺れで私は思わず、春だとつぶやいてみた

小鳥の鳴き声や、鼻腔をくすぐる桃花の香(かおり)

きれいすぎる風景に私は絵の具の混ざった水溜りの水を両手ですくい

辺りにぶちまけた

正体を現した悪魔、鬼・・・

春の日の、悪夢

桃の花が落ちた

水溜まり、の春

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