0120-612-xxxx 恋人テレフォンショッピング

ちびまるフォイ

あなたの彼氏も待っています

「あーーカレシほしーーい」


「あんたそれいっつも言ってるよね」


「どこかにいい人っていないのかなーー」


「理想高いんじゃない?」


「高くないよ。普通に優しくて、普通に穏やかで

 普通なぐらいのお金があって、普通にイケメン」


「その普通が高いのよ」

「えぇ~~? そうなのかなぁ」


マッチングアプリでもやってくるのは直結厨のクリーチャーばかり。

飲み会にやってくるのは自己顕示欲のかたまりばかり。

なんでこう、普通の男はいないのか。

カッパよりも空想上の生き物なんじゃないか。


「ただいまーー……」


誰もいない薄暗い部屋に帰ってくる。

この部屋にイケメンが待っていて介抱して、私の話を聞いてくれたらどれだけいいか。


「はぁ……私って理想高いのかなぁ……」


妥協することが現実に目を向けるということなのか。

そんなことを自問しながらふとテレビを付けたときだった。


『恋愛 テレフォンショッピング!』


「なにこれ……こんな番組あるんだ」


『今日ご紹介するのはこちら! イケメンです!』

『まあ! すっごいイケメン!』


『しかもこのイケメン、ただのイケメンじゃないんです!

 料理もできて、家事もお手のもの!!』


『すごいわ! ……でも、暴力をふるうんでしょう?』


『いいえ、そんなことはありません!

 このようにいくら殴っても、怒らせても~~……』


テレビに映るイケメンは流し目でウインクした。


"そんなキミも好きだよ"


『怒るどころかあなたを口説いてくれます!!』


『イケメンで、優しくて、家庭的でおだやか!

 私こんなイケメンみたことないわ!』


『ただいまから10分間、ーーを増やしてお待ちしております!

 さらに、今から30分以内にお電話いただいたお客様にかぎり……』


その先を聞く前に私は電話かけていた。


「もしもし!? いまテレビでやっているイケメンをひとつください!!」


深夜の勢いで注文したイケメンはすぐに到着した。

近づいてくることもなんとなくわかってしまった。


「ごめん。またせちゃったね。キミにある花を探してたんだ」


イケメンはイケメン特有の芳醇な香りを撒き散らしながら、

光に反射した水面のようなキラキラをこさえてやってきた。


「え゛……」


「どうしたの、そんな浮かない顔をして。

 キミは笑顔が素敵なんだよ」


「いやそういうことじゃなくて……思った以上に大きいというか……」


イケメンと言えば高身長。

高い身長の彼の胸元に飛び込むイメージはあったが、その胸元にすら届く気がしない。


屋根より高いイケメンを見て言葉を失った。


「あと……そっちの人は?」


「なんだよ。オレになんか文句あるってのか!?」


「30分以内に電話した人には特別にオレ様系イケメンがついてくるって聞いてなかったのかい?」


「いやいらないよ!!」


イケメン巨人ひとりでも手にあまるのによりによってもうひとり。

こんなのどう取り扱えばいいのやら。


「てめぇはアイツのことどう思ってるんだよ」


「キミこそ、彼女を大切にしてあげられるのか」


「オレはアイツを守ってやると誓ったんだ!

 オペーレーターが電話を受けたあのときから!!」


「キミが彼女を振り回すことが彼女の幸せになるのか!」


「なんだとぉ!」


二人のそびえ立つイケメンは私という存在をめぐって争い始めた。

普通のサイズ感なら「私のために争わないで」と涙を流しつつ、

イケメンの頭の多くを私が占めている事実に嬉しくなるものだが、相手は巨人。


二人の争いは恋愛のいざこざというよりも、怪獣大戦争に近い様相となっていた。


限界を感じた私はまだダイヤル履歴に残る通販の電話にかけた。


『はいこちら、恋人テレフォンショッピングです』


「届いたイケメンが想像以上のサイズ感だったので返却したいんですけど!」


『開封はなさいましたか?』


「開封? 最初から箱になんか入ってませんでしたよ!」


『いえ、彼の心を開封して夢中にさせちゃいましたか?』


「……夢中になっているかと言われれば、そうにも見えます」


『お客様、残念ですが一度心を開封したイケメンはクーリングオフできません。

 お金の返却もいたしかねます』


「それじゃ私はどうすればいいんですか!?

 イケメンが私をめぐって大暴れしているんですよ!?」


『どうしてもという場合に限りなんですが……』


「なにかこの恋人を離れさせる方法があるんですか!?」


『実はーー』


私はオペレーターの話を聞いてうなづくしかなかった。







"恋愛テレフォンショッピング!"


「今日ご紹介するのはこちらのイケメン!

 なんとこのイケメン、顔がいいだけじゃないんです!」


「え!? イケメンだけでもすごいのに!?」


「御覧ください! この家事の技術!

 嫌な顔ひとつせずに料理してくれるイケメンなんです!」


「まあすごい!! ……でも、実は性格に問題があるんでしょう?」


「それがまったくないんです! 優しくて穏やか!

 明日に世界が滅ぶとしても取り乱さないほど落ち着いているんです!」


「すごいわ! なんて余裕のある大人なのかしら!!」


「記念日だって忘れないし、あなたの誕生日にはサプライズもしてくれる。

 こんな理想の男性、一家にひとり欲しくないですか!?」


「はやく電話しないと!」



「今から10分間、販売員を増やしてお待ちしております!

 さらに30分以内にお電話したお客様に限り、オレ様系イケメンもおつけします!」


スタジオで司会者が笑顔でカメラに言った。

その裏で私は手を合わせていた。


「お願い……誰か私のイケメンを引き取って……!!」


販売員となった私はただ電話が来ることを祈った。

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