第16話 戦争が起きそうです

 街についた俺は、教会に連れて行かれた。


「なぁ? メル、この状況何?」


「はぁ? 当たり前でしょ、神に選ばれた使徒なんだから私より教会での権限は上よ!」


 俺の周りには教会の神父達がいる。奴隷であるソフィですら丁重な扱いを受けていた。そして俺の前に神父が歩いてきた。そしてそのまま跪く。


「使徒様、ただいま聖教国の教会本部から連絡がありました。近日お迎えが来るそうです」


 そうですかそうですか……嫌です。せっかくあの地獄から逃げ出したのにどういう扱いをされるか分かったもんじゃない。


 教会の入口から複数の足音がする。振り向くと白い甲冑を着た騎士が複数いた。


「ここに崩落事件で覚醒した神の勇者様がいると伺いました。彼はこの国の宝です。取り敢えず王城に来て頂けますか?」


「何を言っているんですか! 彼は神に選ばれた使徒様です。神に選ばれたからにはこちらの領分王国の入るスキなどありません」


 俺の前に跪いていた神父が突っかかるように騎士に話しかける。


「いえ、彼はこの国で勇者として覚醒しました。我が国の勇者です。教会には引っ込んでいただきたい。そもそもこの国の国教はアステナ教です。ラミナ教をここに設置しているだけでもありがたく思い彼を手渡して下さい」


 おいおい、なんだこの奪い合いは……帰るか、帰って良いのか? 


「なぁ、メルこのままだと戦争になったりそんな事無いよな?」


「え? 当たり前じゃん。カリエオン王国で発掘された勇者、聖女がいたから使徒になった可能性がある勇者どっちが優先権があるかって話になるわね。下手したら聖教国とカエリオン王国の戦争になるわね」


「おいおい、冗談だろ。俺のために戦争が起こるなんてそんな馬鹿な話あるかよ」


「でもお互いに、魔王を倒せる戦力は欲しいのは確かだよ。魔王を倒せるのはこの世界にたった一人だけ奪い合いの戦争になるわよ」


「ふざけんな! 俺は勇者なんかじゃない。帰るぞ」


 思わず叫んでしまった。俺の言葉を聞いて神父が嬉しそうにこちらにすり寄ってきた。


「ええ、そうでしょうとも。貴方は勇者なんかではなく使徒様ですからね」


 カエリオン王国の騎士が走ってきて、俺にすり寄ってきた神父の腕を掴み引き離す。


「彼が認めようが認めまいがこの国で発掘された勇者です。我々の国に所有権があります」


 めんどくせぇ……


「取り敢えず帰っていいですか? そちらの話も決着が着かないようですし」


「そうした方が良いかと思います。今日明日で決着の着く話ではありません」


 メルからの援護射撃を受け俺は教会から出た。表通りに出た俺に先程の騎士が走ってくる。


「お待ち下さい! 勇者様こちらをどうぞ」


 騎士が俺に金貨の入った袋と石の入った袋を渡してきた。


「これは? っていうかこんなモノ貰えません」


「いえ、貰って下さい。魔王討伐の報酬です。そちらの石も魔法を封じ込めた特殊な石です。冒険のお役に立てばと思いお渡しした次第です」


「そ、そうですか……では貰っておきます。いくぞソフィー」


「はい、ご主人様」


 俺とソフィは宿に帰ったそして深夜


「さあ、ソフィ良いな……今日中にこの街を離れるんだ」


「はいご主人さま、夜逃げですね」


「ああ、夜逃げだ。俺のせいで戦争なんてアホらしいからな」


 俺は街を囲む城壁をソフィを抱えて飛び越えた。町の外に足をつけると俺の着地地点のすぐ隣に騎士がいた。


「うぉおおお! びっくりした」


「やはり夜逃げをしましたね。あの状況で勇者様が戦争の火種を残すはずがないですからこうして脱出すると私は思っていました」


 ぎくっ、バレてる……これどうなるんだ?


「勇者様は聖教国にも王国にも囚われたく無いんだろうと思い馬車を用意しました。私としては勇者様にこの国の役に立っていただければそれで結構ですので」


「そ、そうですか……じゃあありがたく。ソフィー馬車運転できるか?」


「す、すみません。私は運転の技術は無いです」


「私に任せなさい!」


 俺の後ろから女の子の声がする。振り向くとメルがいた。


「な、なんでメルがいるんだよ」


「ふふん! 抜け出すと思ったから外で待ってたの、へっくち」


「そうか、馬車運転できるならよろしく頼む」


「ま、待って下さい! 教会のものが付くなんて聞いていません。聖女は駄目です」


 騎士が必死に駄目だししてくる。


「じゃあ、聖女をやめれば良いんでしょ?」


「「え?」」


「ラミナ教の聖女をやめてアステナ教の聖女に慣ればいいじゃない」


 自信満々にメルがそう宣言した。いや、その宗教にこだわりがない感じ日本人にしか通じないから、騎士さん引いてるから


「せ、聖女が来るというのならば。な、ならば勇者様貴方には王都に来てもらいます。嫌と言っても駄目です」


 そう言って俺は馬車に乗せられた。メルも一緒に……まじかよ

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