第三十四話「琴吹の風」

「琴吹。俺が今日呼んだのは、君についてもっと知りたいからだ。そして、僕の友達として協力してほしいことがあるからそれを頼みに来た」


 今日、琴吹には作戦決行当日の助力者になってほしいことを頼む。考えた末の結論だ。巻き込むのもどうかと思うところはある。全員が全員、魔法使いになりたくてなったわけではない。これは、ある種の病気なのだ。


「僕に頼みたいこと? 」


 学生服にスカート。静かな中庭で二人きりだ。

 念を入れ、音は僕の力で遮断している。


「実はある人が、この学校を潰そうとしているんだ」


「え、でも一体なんのために」


「この学校は僕達魔法使いを監視するために作られているんだ。それを何故、男が壊そうとしているのかは定かではないけど、僕は魔法使いのと思う」


「連合……? 」


「僕らの個々の力は化学兵器に劣る。でも、一つ一つの個性を活かしきれれば、国に対抗できると思う」


「じゃあ、それに僕を誘うってこと? 」


「ああ。でも、今日は琴吹について知りたい。教えてくれないか、琴吹の魔法を得た代償や経緯について」


 これを聞くのは、自分を相手にさらけ出す覚悟があるときだけ。魔法を相手に話すだけでも危険だが、それ以上に過去について話すことは怖い。それだけに、彼が話してくれるかは分からない。


「……よし、俺から話そう。自分から名乗ってからじゃないと失礼だしな。まず、名前は言うまでもないけど島崎 彰。年齢は今年で17になる。魔法の力は、黒の砂鉄のような物を扱う特殊な魔法。代償は魔法を使ったときに、魔法に関する記憶がなくなる可能性があること。でも、魔法を得た日のことだけは忘れない。冬の時期に、スリップしてきた車に跳ねられそうになった瞬間、車が止まったんだ。あのときは、死んだと思ったよ、でもそれ以来の記憶は一切ない。次は琴吹の番だってのも、おこがましいけど話してくれるか? 」


「……話せることは話そうと思う。まず、名前は琴吹瑠夏。年齢は16。魔法の力は相手の精神、体の内部を操る魔法。脳から放出させる痛みから何から何まで自在に操れるけど、自分も危うい瞬間がある。……性別については僕は体は女だけど、心は男。でも分からないんだ。男か女かなんて。そもそも、これが魔法の代償によるものなのかも。生まれつきだったのかも」


「……正直、俺はなんて返せば良いのかわからない。でも、これだけは言える。僕、いや、魔法使いのみんなが同じように悩んでいるんだ。自分を理解する、自分を好きになる。難しいことを僕達は迫られている。魔法の代償との付き合い。僕らの病気は直せそうもないから長いことになるだろうけど、魔法使いたちが集まって力を合わせたときに何かが見えてくるかもしれない……そう思うんだ」


 何が、見えてくるかなんて今はわからないけど、この謎の病気に立ち向かうには、力が必要だ。そう認識させてくれたのは紛いなりにも一ノ瀬未来。誰が何を考えているかはわからない。誰かの陰謀があるかもしれない。でも、まずは周りから。


「――僕が、あの日。熱を直したのは、君を気にしていたから。たぶん、女性としてだと思う。自分でも、どれが自分か分からなくて演じていた。でも、彰が見抜いて助けてくれた。その恩を今返すよ」

 

「…………ありがとう」








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