そして、三年が経って.

「遅い」


 後ろから。


 声。


「ゆっくり来てねっていったけど、こんなに長くなるなんて」


 振り向いた。


 看護師がいる。女性。


「村の名前わかってるのかな。三日目村よ。三日ぐらいで戻ってきてよ。三年は長いよ」


 彼女が。


 泣きながら、立っている。


「三年も待つの、大変だったんだからね」


 声を、振り絞った。


「ごめん」


 彼女のほうへ、歩いていこうとした。足が、もう、動かない。


 頬。


 暖かい。そして、懐かしい。


「三年も寝てたのに、よくここまで歩いてきたね」


「うん」


「もう大丈夫。わたしが一緒にいるよ」


「うん」


「もう身体は治ってるから、あとは起きるのを待つだけだったの。これだけ歩けるなら、すぐに退院できるからね」


「うん」


「もう、指環も決めてるの。オレンジ色のやつ。買ってあるから。あなたが私にはめてね」


「うん」


「さっきから、うんってしか言わないね」


 声が出ない。三年も寝てたのに、喋れるほうがおかしい。それでも、もう少し、声を捻り出さないと。これだけは、言わないと。


「おはよう。ただいま。好きです」


「うん。おかえりなさい。わたしも愛してます」


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