思い出の欠片をかき集め
青井音子
第1話 目覚め
目を覚ますと、見覚えのない天井がまず目に飛び込んで来た。少し視野を広げてみると、コの字型に吊るされたオレンジのカーテンがあるのに気付く。どうやらここは、病室だとか保健室だとか、兎も角そういった類の部屋らしい。
どうして俺はここに寝ているのだろうか。記憶を辿ってみるも、ぼんやりと霞がかったようで思い出せない。目が覚めたら病院のベッドの上、だなんて漫画か小説の中でしか聞いた事がない。
一旦落ち着こう。一つ一つ順番に思い出していくんだ。
俺は、
そう、確かアルバム委員の仕事で帰りが遅くなって、急いでいた所に車が突っ込んできて……多分、撥ねられたのだろう。
だんだん状況が見えてきた。身体の感覚も、ちゃんとある。緩慢な動作で左腕を動かし、身体を支えて上体を起こしていく。
そこで、気付いた。ベッドの脇、そこに置かれた丸椅子に座ってうつらうつらとしている少女に。
「んう……え、あ! 柊人君!? 目、覚めたの!?」
こちらが身動ぎしたのを感じたのか、少女が顔を上げた。長い茶髪がパサリと揺れる。
「よかったあ……」
「あの……君は、誰なんだ」
俺がそう言った瞬間、安堵の表情が固まる。少女の顔からどんどん血の気が引いていって。次の瞬間、彼女が出した声は震えていた。
「覚えて、ないの……?」
「ごめん」
そう、どれだけ記憶を漁っても、彼女が何者なのか分からないのだ。こうしてそばに居てくれたからには、きっと深い関係があったはずなのに。
それだけじゃ、ない。さっきから、自分の周りの人の事が思い出せない。友人も、クラスメイトも、両親の顔でさえ記憶から消えている。そもそも俺に両親は居るのだろうか。高校生なのだから、誰かしら保護者と同居していると思うのだが。こうなると唯一残る自分に関しての記憶も信用できない。
「教えてくれないかな、君と俺の関係」
こんがらがっていく俺の世界で、今のところ唯一の他人である少女。彼女に、半ば懇願するような形でそう尋ねる。
「うん。……私はね」
彼女は一瞬、戸惑うように俺から目を逸らし、視線を彷徨わせた。そして不安げに顔を歪めて、口を開いた。
「君の、恋人だよ」
そう言われたって、ピンと来ないよねえ、と。彼女は、俺の恋人は、困ったように笑ってみせた。不安を滲ませたまま。
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