78話 休日だろうが後輩の頭はぶっ飛んでいますが、平常運転です

 テーブルに並びますはハンバーグにお好み焼き、そして軟骨のから揚げ。

 まあみんな酒を飲むわけでもないし、つまみ的なものは用意しなくても問題ないだろう。


 カレー? あれは冷蔵庫の中に固く封印を施した。

 ……いや言い訳をさせてほしい。


 悲劇的な調味料の後、何とか味を中和させようと頑張ってはみた。

 家にある調味料のすべてを掛け合わせてみたが、どうにも本来のカレーの味に戻ることはなかった。


 最後に味見したカレーのような何かの味はいまだに口の中に残っているような気がする。

 来るのがあの二人とはいえ、さすがにそんなものを出すわけにはいかない。

 俺にだってそれくらいの良識は残されている。 


 よってカレーを出すということは諦めたわけだが、かといってまた一から何かを作るというのはめんどくさすぎた。


 そこでコンビニの出番ですよ。

 いや、ほんとにコンビニは優秀。歩いていける距離にあってよかった。


 レンジでチンするだけで美味しそうな料理がいっぱい完成するんだもん。

 一回自分で作ったからこそ分かるコンビニ飯の偉大さってやつだね。


 レイにすべて平らげられそうになるという事態は発生しそうになったが、何とか回避して今は別の部屋に移動してもらっている。

 まあ後輩と先輩にレイが見えるとは思えないけど、念のため。


 宙に浮いてどこかに消えていくハンバーグとか見られたても、うまく言い訳できる気がしない。

 そんな事態が起こるのであれば、事前にレイに別の部屋で待機してもらっている方が安全だ。



ピンポーン。

 


 目の前の完璧な料理を見て感慨深く考えていると、ふいにチャイムが鳴る。

 まさか俺の家のチャイムが使われる日が来るなんて、思ってもなかったなあ。


 いや、実際にはなんかの勧誘とか宅配便のお兄ちゃんが定期的に押してたりはするんだけど、そういう意味ではなくて、こうなんというか、かかわりのある人が家に来るなんてもうないだろうと思っていた。


 まあそのかかわりのある人間というのが、後輩と先輩というのが何とも言えないところではあるのだが。


「遅いですよ!」


 玄関を開けるや否や後輩がむくれた顔で待ち構えている。

 そのすぐ後ろで佇んでいる先輩は苦笑気味に手をあげていた。


 遅いって何が?

 ここ俺の家だよね? 遅いとか早いとかあるの?

 そもそも君たちが来る時間帯を見計らって、ちゃんとコンビニ飯を温めていた俺をほめてほしいくらいなんだけど?


「じゃ、お邪魔しまーす」


「邪魔する」


 棒立ちのまま無言の圧を送り続ける俺の隣を通り過ぎて、後輩たちは家の中へと進軍してくる。

 俺まだどうぞって言ってないんだけどね。

 どうしてどんどん奥に行ってしまうんですかね。


 家の構造を知る由もない後輩たちは周りを見渡しながら廊下を進み、そのまま左に曲がろうとする。


 そっちはだめだ!!


 そっちはリビングではなく、いろいろと男の子の秘密を隠している秘密の部屋だ。

 簡単に立ち寄らせるわけにはいかない。

 俺はなお進もうとする後輩の肩を掴み、先輩を押しどけると開かずの扉の前に立ちふさがる。


「え、なんですか? 怖いんですけど」


「リビングはあちらになります」


 俺は真顔で反対側の方向を指さす。

 俺の無言の圧をようやく受け取ってくれたのか、何かを察したのか真っ先に先輩がうんうんと深くうなずいて、体の進行方向を変えてくれた。


「えーきになるなあ」


 後輩、お前の辞書には妥協、遠慮という言葉がないのか。

 俺が嫌がってるんだから察しろよ。いや、押さないで。


 全身を使って俺をどけようとしないで。なんなの、なんでそんなに密着するの。

 俺のこと好きなの?


 ごめんね、俺の心は埋まってるんだ。

 だから諦めて?


 無言の攻防を後輩と続けていると、突如後輩の肩を後ろから先輩ががしっと掴んだ。


「先輩?」


 先輩は無言で首を横に振る。

 後輩はそれでようやく諦めてくれたのか俺から離れると、しぶしぶといった様子でリビングの方へと向きを変えた。


 なんとか先輩に助けられたけど、先輩の物わかりがよすぎるのもなんか気になるけど、まあここは先輩が大人だったということにしておこう。

 俺はほっと息を吐きながら、二人の後をついていくようにリビングへと向かう。


「うわあ、意外と綺麗にしてるんですね」


 意外とってなんだよ。意外とって。俺が綺麗好きかもしれないだろ。


「すごいカレーの匂いがするな」


「そうですね! あれ、でも本体の姿が見えないんですけど」


「確かに」


 しまった。カレーもどきを隠すことに必死で匂いのことまで気が回らなかった。

 二人とも不思議そうな顔をして、テーブルの上を見渡している。


「その、二人は何持ってきたんですか!? お土産?」


 俺は咄嗟に二人が持っていた袋を指さす。

 お土産なんてわけわからんこと言ったけど、二人が何を持ってきたのか全く想像もつかない。

 というかここまで持っていることに気づかなかった俺もどうなのか。


「ああ、これですか? お酒です」


 語尾に音符マークがつきそうなほどにリズミカルにそういった後輩は、袋の中から一本の酎ハイを取り出してにっこりとほほ笑んだ。



 え? 俺たち酒飲めないって話してたよね?

 ……何してんの?

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