55話 距離的にも全然進んでないけど、ストーリー的にも何の進展もございません(反省はしていない)

 休憩しに入ったはずの喫茶店で、いまいち休憩できた気がしない時間を過ごした俺は、店員さんと話した後どこか気まずさを感じて、超高速で熱々のコーヒーを飲み干して店を出た。


 なんだろうね。あのお店の店員さんとちょっと長話したときの気まずさっていうのは。

 別に俺は悪いことをしているわけではないし、きっと誰も気にもしてないんだろうけど、何か注目されている気になってそわそわしちゃうんだよね。


 これはみんな感じているんだろうか。それとも俺みたいなコミュしょ……おとなしい人にしか感じられない感性なのだろうか。


 あ、ちなみに焦って一気飲みしたせいでしっかり舌を火傷しましたね。

 めちゃくちゃひりひりするし、多分口内の裏側ちょっとだけ皮めくれた。


 そんなこともありながら店を出たわけだが、本来であれば徒歩10分ほどで大型ショッピングモール、もといちょっとおしゃれな言い方をすればアウトレットモールにつくわけだが、歩き始めて10分、俺はまだ目的にたどり着くことができていない。


 もちろん原因はうちの子である。

 何回でもいうがレイはこんな遠出をするのは初めてだ。


 今まで外で見たことがあるものと言えば、アスファルトと縁石と自販機と、そして辛うじてコンビニくらい。


 そんな彼女が家周りの田舎に比べたら十分都会なこんな場所に来たらどうなるか。

 そう、はしゃぎまくっているのである。


 今日のレイは総じてテンションが高い。

 さっき甘い俺が食べられなかったパンケーキを食したからか、電車に乗っていた時よりもテンションが高い。


 まあとにかく何が言いたいかというと、レイがうろちょろうろちょろするから全然先に進むことができないのだ。


 コンビニを見つけたと思ったら、吸い寄せられるようにフラーっと近づいていくし、自販機が三台ほど並んでいようものならその場でボーっと立ち尽くして、ラインナップをこれでもかというほど眺めている。


 最初は俺もついていっていたが、途中からさすがに疲れてきて勝手に先に行こうとすると、まるで刺されるかのような視線を感じて彼女のもとに行かざるを得なくなる。


 そんなの無視すればいいじゃないかと思うかもしれない。

 でもそんなことはできない! もし無視し続けてレイに嫌われて一生睨みつけられるようにでもなってみろ!


 レイの笑顔が一生見れなくなるなんて俺はきっと生きていけない。

 あと10秒でもあんな目で見つめられたら、俺の精神はきっと崩壊する。

 いや間違いなくぶっ壊れる。それくらいの破壊力を持ち合わせている。


 何言ってるんだって思うかもしれないけど、あの目をしているときのレイさんは普通に怖いからね?

 なんか呪い的な何かがあるんじゃないかって思うくらいだもん。


 そしてさらにやっかいなのは、手を握って彼女の行動を抑制することすらできない。

 別に俺がレイの手を握るのが恥ずかしいとかそういう精神的な問題ではない。


 物理的な問題で彼女の手は絶対に握ることはできないのだ。

 俺はレイに触ることはできない。手を握るまねごとをしたとしても、彼女の意思一つで俺の手なんて簡単にすり抜けてしまう。


 向こうが服とか掴んできたときは感覚があるっていうのにね。

 何この一方的な受けることしかできない愛情……愛情は曲解している?


 ともかくそんなこんなでレイの好きなようにさせていたら、喫茶店からまるで進むことができていないのだ。


 後ろを振り返ればまださっきまでいた店の外装を確認することができる。

 それどころか駅名までまだ確認できる。

 このままでは間違いなく一生ショッピングモールにたどり着くことはできない。


 ていうかはたからみれば、一人で自販機の前にずっと突っ立っていたり、コンビニの前で何かを引っ張るようなパントマイムをしたり、入り口で通せんぼをするように仁王立ちをしている完全な不審者だ。


 いや引っ張っても物理的な効果はないんだけど、何となく気分的にね。

 俺も一人で出かけると思ったらレイがついてきてくれて、思いのほかテンションが上がっているのかもしれないね。


 ちなみに通せんぼしたときのレイの上目遣いジト目はごちそうさまでした。


 ともかくこのままでは俺の目的地がショッピングモールから、最寄りの警察署に変更になってしまうかもしれない。


 ほんと通報されかねない。

 それだけは何としても避けなければ……。

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