15話 血文字が怖くないって、それは幽霊としてどうなんですか?

「あれ、今日もあるな」


 最近冷蔵庫の中のスイーツがなくならない。

 いや、それは全然いいことなんだけど、最早俺が買ってきて食べてなかったらレイに食べられてるっていう流れが最近のテンプレだったからさ。


 なんか拍子抜けするというか、まあ食べてないんだったらありがたく俺が頂戴するだけなんだけどね。


「まあ本来だとこれが当たり前なんだよなあ」


 いつも通りリビングに置いている座椅子に座って、きな粉もちをほおばる。


 もちろんこれもコンビニ産である。

 すごいよね、コンビニ。本当に何でも置いてあるんだもん。


 そういえばみたらし団子も置いてたような気がするから今度買ってみようかな。

 最近和のスイーツが多いから、もしかしてレイのやつこれをスイーツだと認識してないとか?


 いやきな粉もちもみたらし団子も知らないとかそれはもったいなさすぎる。今度買ってきてやろう。

 ……だめじゃん。もうレイに食べさせる前提でスイーツ買ってこようとしてるじゃん。


 あくまで冷蔵庫に入っているのは俺のものだから。


「ん?」


 ふとボーっと机の方に目を向けると、小さな紙切れが置いてあるのが目に入った。

 それを手に取るとその紙切れには『たべた』と小さくかろうじて読める文字でそう書かれている。


 まあそこまでは別にいいんだ。いやすでに意味わからないけど、問題なのはそこではない。


 その紙切れにかかれている文字が真っ赤なのが問題なのだ。


 ……これって俗にいう血文字ってやつだよね? てことはやった人は一人しかいないわけだよね?


 というか書いている文字は怖くないのに、それを書くために用いている媒体が怖いってどういうこと? ほら、まだ乾ききってないから垂れてるじゃん。


 こういうのって普通は̪私怨の言葉とか書くんじゃないの?

 なに、たべたって。どんだけ演出怖くしてもそんなの怖くなるわけないじゃん。


 ん? たべた?


 血文字に対してばっかり気になっていたが、書いている文言にも違和感を覚える。

 きっと、いや間違いなく、これを書いたのはレイだろう。


 しかし最近のレイは冷蔵庫の中のスイーツを食べていない。

 それにもかかわらず『たべた』っていうってことは、俺が買った何かを食べているっていうことだ。


「……あいつまさか!!」


 一つの可能性に思い至った俺は跳躍するように一歩飛び出すと、冷蔵庫の前に降り立つ。

 勢いよく冷凍庫を開ける。


 まさかな。レイはここにそれがあるって知らないはず……。

 ……ない、ないな。あれおかしいなあ。ないぞー? この感覚久しぶりだな。


「俺のハー〇ンダッツを食べたのか!」


 楽しみに取っておいたマカダミアナッツ味のハー〇ンダッツがどこにも見当たらない! それどころかまとめ買いしていた箱入りの棒アイスすらなくなっている。

 いや、こっちはまだ箱があるから中身入っているのか?


 ……中身が空っぽじゃねえか!


 あれだけごみはごみ箱に捨てなさいと言ったはずなのに!

 あれ、そういえばカップアイスの空き容器と棒アイスの棒はどこに捨てたんだろう。

 ゴミ箱の中を一応見るけど、それらしきごみはなさそうだ。


 まあそれは後でレイに聞くとして、最近レイがなぜスイーツを食べていないのかこれで判明した。


 あの夜更かしゲーム凍えちゃう騒動で、アイスの味を覚えたレイはスイーツではなく、アイスへの興味にシフトしてしまっていたのだ。

 知らず知らずのうちにアイスが冷凍庫から消えていたということだ。


 俺はスイーツはほとんど毎日食べているが、アイスは数日に一度しか食べない。

 たいてい週末にまとめ買いをするんだけど、アイスが食べたいなーって舌が言い始めたら食べるって感じ。


 その頻度がスイーツよりは少ないっていうだけの話だ。

 しかしまさか今回はそれが裏目に出るとは……。


 ん、待てよ? もしかしてこの紙に書かれている『たべた』っていうのは状況報告だけではなく、暗に無くなったから早く次のアイスを買ってきなさいみたいな意味が込められているんじゃないのか!?


 おいおいレイよ、俺は君をそんなわがままな子に育てた覚えはないぞ。

 いや、決めつけはよくないな。ちゃんとどういう意図があったのか確認しないと。


 それに血文字もよくない。


 よし決めた! 今日こそレイに一言物申してやる!

 

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