第1節 奇妙な転校生
ep.01 季節外れの転校生
(って、言われてもなぁ)
何処にでもいそうなブレザー制服の黒髪少年――佐藤友志はもう誦じることが出来る入学案内の文言を思い出しながら、心の中でそうぼやく。
そんなことを考えてしまうのは、佐藤が置かれている状況にあった。
佐藤が立つのは転生者学園オーネスト1年3組の教室、その教壇上。クラス中の熱の籠った視線を一身に彼は浴びている。
理由は単純だった。
「――というわけで、こいつが今日オーネストに転校してきた佐藤友志だ。みんな、よろしくしてやってくれ」
くたびれた中年男の担任教師、
佐藤友志は転校生だった。それも『季節外れの』という言葉が頭につく。
時は統一暦2000年。世界統一政府が定める
「転校生ですって」
「春季長期休暇が明けた5月の初旬にか?」
「これ現代じゃ普通なの?」
「いやかなり珍しいぜ。滅多にない」
突然のイベントに生徒はがやがや、がやがやと騒ぎ始めた。どよめき立つ生徒に神納は声を張り上げて注意する。
「おーい、静まれお前らー。とりあえず、佐藤の自己紹介からだ。ほれ、佐藤、何でもいいから話してみろ」
「は、はい!」
神納に話を振られると、皆の視線の熱がさらに上がった。思わず佐藤は身を固める。
佐藤が壇上から見下ろす彼ら彼女らは見た目だけなら佐藤と同じ15歳か16歳の少年少女だ。だが、その正体は神代から転生してきた超越者に他ならない。いわば佐藤はライオンの檻の中に放り込まれた猫。文字通り格が違う人々に注目されて、緊張しないわけがない。
佐藤はカラカラに干上がった喉で言葉を放つ。
「ぼ、ぼきゅは――ッ」
噛んだ。噛んでしまった。
(――――っ)
カァァァッと佐藤の顔が朱に染まる。だらだらと冷や汗が全身から染み出してくる。
クラス内ではといえば、気まずい沈黙が流れていた。唯一在ったのは神納が気怠そうにしたあくびの音だけだった。佐藤にとって幸運だったのは、失態を笑う誰かがいなかったことだろう。
だが、だからといって佐藤の羞恥がなくなったわけではない。頭は真っ白になり、思考が止まった。彼はいつだってそうなのだ。人前に立ったり、目立ったりするとどうすれば良いのか分からなくなるのだ。
息が乱れ、視線は泳ぐ。泳いだ視線が捉えたクラスメイトは皆一様にはらはらとした緊張を顔に張り付けていた。心配させている、とそう思う。無関心な神納の欠伸だけが佐藤にとっての救いだった。
そんなとき、1人の少女と佐藤の目が合う。彼女はピンク色の長髪と緑色の瞳を持つ少女だった。
「――――!」
少女は佐藤と視線が合うと一瞬驚いたように目を見開く。けれど、すぐさま優しく微笑み、きりりとした表情になると拳を握りこんだ両腕を胸元で力強く構えた。
「がんばれ」と、そう言ってくれてるのだ。
瞬間、佐藤の頬が羞恥に代わり別の感情で朱に染まる。その感情の名は照れだ。異性に応援された気恥ずかしさから、彼は羞恥を塗り替えたのだ。だが、おかげで気が昂り、羞恥は何処かへ消え去った。女の子の前だったら、男の子は頑張れるのである。
佐藤は生気の戻った顔付きになって口を開いた。
「僕の名前は佐藤友志と言います。4月までは第三大陸の公立高校に通っていました。4月3日に行われた最終
さて、佐藤友志という少年が転生者学園オーネストに来た経緯は誰よりも特殊であった。オーネスト入学のための魂強度検査。これは中学卒業後の少年少女全員に義務として行われる検査である。とはいえ魂強度検査はほぼほぼ意味がない。何故ならば転生者は生まれながらにして転生前の記憶、知識や能力を兼ね備えており、たいていの転生者は中学卒業までに——否、場合によっては生まれた直後から——その特異性が露見する。
「転校生として色々言うべきことはあると思うのですが、まず一番最初に皆さんに伺いたいことがあるんです」
よって、魂強度検査により転生者であることが初めて分かった佐藤友志は例外中の例外であった。何故彼が魂強度検査を受けるまで転生者と分からなかったのか。そんな問いへの答えなんて分かりきっている。
「僕は一体どなたの転生者なのでしょうか?」
彼には転生前の記憶がなかった。転生前の知識や能力も同様に。
彼は世界で唯一にして前例のない、記憶を持たない転生者だった。
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