皇国の清水秀二
w‐Aki
第一章 雪の降る暗い日に1
「はっはっは!今回もまた実に素晴らしい法律ができたな秀二君」
夜、雪の降る中、高らかに笑いながら歩く集団があった。
雪でその高そうなスーツが濡れようが気にならないほど上機嫌のようだ。
「はい。この法律で一般大衆からさらに多くの税を集めることができます」
皇国歴一九〇七年一月、秀二と呼ばれた青年――清水秀二が考えた新たな税の法案が皇国議会で可決された。
「あらゆるものを買うたびにかかる税とは。本当によくやってくれた!」
「いえいえ、私は考えただけですよ。飯田総理のお力がなければ可決されませんでしたよ」
そう言って秀二は高らかに笑う総理と呼ばれた恰幅の良い男――飯田栄蔵に頭を下げる。
「いやいや、可決するための作戦を立てたのも君だろう。しかも同時に我々のようないわゆる富裕層から取る税の税率を下げるとは。はっはっは!やはり君は素晴らしい。君の兄とは大違いだ。今度君を大臣……いや、いっそ副総理になってみるかね?」
飯田は秀二をほめたたえる。
「もったいないお言葉です。私には出過ぎた話です」
この場には飯田と秀二のほかに仲間である大臣が数人いる。
仲間とは言ってもそれぞれが次期総理の座を狙うライバルたちでもある。
それに秀二は大臣でもないただの一議員であり、しかもまだ二十一歳という若さだ。
秀二は目を付けられるのも嫌なので丁重に断った。
やがて飯田と秀二、そのほか飯田の仲間である大臣たちは目的地である一つの料亭の入り口にたどり着いた。
「ここは私がよく行く店でね。今日は私のおごりだ。遠慮はいらん!みんな存分に飲んで食べてくれ!」
飯田がそう言った時だった。どこからか少女が現れた。
少女の見た目はみすぼらしかった。
その肩より少し短い髪はあまり手入れされていないのだろうか、お世辞にもきれいとは言えない。
着ている和服は何か所かが破れている、つぎはぎだらけの古びた和服だ。
それに少女自身もその痩せた体に白い肌が相まって、今にも消えてしまいそうに秀二には見えた。
そんな少女の手には刃のかけた包丁――
「なっ!」
突然の出来事に飯田は動けなかった。
「いやぁぁぁぁぁぁ!」
掛け声とともに少女が包丁を突き出す。
しかしその包丁が飯田に届くことはなかった。
秀二が素早く飯田の前に立ちはだかり、少女の握っていた包丁を手から弾き飛ばしたからだ。
海軍皇都士官学校に在籍していた秀二は格闘術の訓練を受けており、少女のかなう相手ではなかった。
「くっ!」
秀二は少女があきらめて立ち去るかと思ったが、少女は弾き飛ばされた包丁を拾いに行き、もう一度立ち向かう様子を見せた。
その目はこの世のすべてを憎んでいるようにも見えた。
しかし、今度は飯田に近づくことさえできなかった。
包丁を拾い飯田の方を振り返る少女の目の前に秀二が立ちはだかったからだ。
「こんなことをしてなんになる?さっさと家に帰れ」
秀二はそう言ったが少女は帰ろうとしない。
「はぁはぁ……帰る場所なんてない。家は貧乏で食べるものもない。でもあいつらは私たちからまだ取ろうとする。あなたもそれに加担しているでしょ。新聞の切れ端で見た。飯田総理の右腕、清水秀二って。それにこの辺りは――」
「この辺り、皇国の北の方では現在飢饉が発生しているな。子供を売る家や餓死者が出るほどの。飯田総理は知りもしないかもしれないが」
少女の発言に秀二はそう言葉を続けた。
この少女はどうやら売られた先から逃げてきたのか、それとも家族がもういなくなってしまったのか、ともかく帰る場所がないらしい。
「あなたは知っていてなんでこんなことを……」
「一つだけ言っておく。今のお前のやり方じゃこの国は変えられない」
秀二がそう言った後、少女は力尽きたように気を失い、倒れてしまった。
*この作品はフィクションです。
* * *
まだしがない学生のw-Akiです。つたない文章ですが読んでくださってありがとうございます。訂正した方が良い箇所がございましたらアドバイスをもらえると嬉しいです。
皇国の清水秀二は毎週水曜日0時ごろに投稿する予定です。
宿題や課題で忙しく、投稿できないこともあるかと思います。ごめんなさい。
Twitterを始めました。小説のネタになりそうな話や簡単なイラストなどを投稿しようかと思っています。初めに言っておきますと絵は下手です。中学の美術の成績で5を取ったことがあります。10段階でね‼
Twitterには僕のプロフィールや近況ノートからとんでいただけると思います。
こちらの小説も書いています。興味があればどうぞ!
https://kakuyomu.jp/works/1177354054921425988
タイトル:reincarnate
ジャンル:異世界ファンタジー
キャッチコピー:世界が変わっても「――」に会えるのか、「――」は誰なのか
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