「がんばれ」の毒

逢雲千生

「がんばれ」の毒


 青を見ると首が痛いよ

 黒を見ると目が痛いよ

 そう言うと

 男の子は「ヘンなの」って笑った


 赤を見ると胸が痛くて

 だいだいを見ると目の奥が痛いの

 そう言うと

 女の子は「変わってるね」って笑った


 私ってヘンなのかな

 私って変わってるのかな

 ベッドの上で思ってたら

 お母さんが「いつまで甘えてるのよ」って怒った


 友達は「違うんだね」って驚いて

 私を見ながら「ヘンなの」って言った


 部屋の中で膝を抱えてたら

 お父さんが言ったの

「頑張れば大丈夫だよ」って


 私ね。頑張ったよ

 私ね。普通だったよ

 私ね。私ね。わたしね。

 わたしね、がんばったんだよ。


 白い天井を見ながら

 私ははじめて笑えたの

 だって、だってね、やっとがんばれたんだもの


 上げた腕には白い布

 横には白い棒が袋をぶら下げている

 白い服の人達が優しくしてくれて

 同じ服を着た人達がいてくれる


 ねえ、お父さん、お母さん。

 わたし頑張ったよ。

 だからさ、ねえ。

 会いに来てよ。

 ねえ。


 さびしいなあ。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

「がんばれ」の毒 逢雲千生 @houn_itsuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ