16話 親の支え
「勉強会の場所なんだけどさ、俺の家にしないか?」
授業を終えると、優が俺に提案してきた。
お昼休みに勉強会の話が決まり、場所はどうするかという話になったとき、優が放課後まで待って欲しいとのことだったので場所決めは保留だったのだが、優は自分の家にしたかったらしい。
「俺は構わないけどどうしたんだ?」
「前々から母さんに和人を家に招待するよう言われてたんだ。何度か晩飯食べさせてもらってるからな。そのお礼をしたいらしい」
「俺が晩御飯をご馳走してるのがお礼なんだけどな」
「美鈴たちはどうだ?」
「いいよ~明美も良いよね?」
「…如何わしい本やDVDは片付けておくことね」
「明美の中で俺の家はどうなってるんでしょうね!」
「女の子にそんなことを言わせるなんて…最低ね」
「頭ん中でそんなこと考えてるあたり明美の方がヤベーからな!」
気付けば二人は漫才を始めていて何だかそれが定着してきているあたり、お互い悪くないと思っているのだろう。
「明美…生き生きしてるね」
「適度にストレス発散できるから活用してるだけ」
「おれだけ物扱い!!それだったら和人でもいいだろ!!」
「かの有名な登山家は何故山に上るのか聞かれたとき言ったそうよ…そこに山があるから…と」
「それ関係ある!?」
「鈍いのね、優がいるのに使わない愚行はないわ」
「…もういいや」
優は疲れきった様で、やつれて静かになってしまった。
それと比例するように明美は生き生きしていて微笑みすら浮かべている。
「…これが格差ってやつなのかな?」
「…美鈴、君はこうならないでね」
美鈴が友人に毒されないか不安になるのだった。
優達との帰り道、スマホを確認するとメッセージが来ていて、相手は渡辺だった。
『人には友達と付き合うの止めろって言う癖にアンタはずいぶんと楽しそうね』
いつもの嫌みのようなメッセージだった。
正直こういう反応になるのは予想していた。
ただ本当の事を伝えても信じてくれないだろうという諦めと、渡辺に対してそこまでしてやる義理はないという思いだった。
「?どうしたの和人くん」
「…いや、何でもないよ」
俺は黒い感情が溢れかけた心を意識から外して美鈴達の会話に入っていった。
そして土曜日。
明日は勉強会があるため、引っ越しの準備を父さんと進めることになった。
次の週末には完全にこの部屋を空けて引っ越し先についている状態にするため、あと一週間で荷物の整理を終わらせなければならない。
「今日までに七割程は終わらせられそうだな。ありがとうな和人、少しづつお前が進めてくれたおかげでだいぶ楽になりそうだ」
「俺は細かいものを先に片付けただけだよ」
「それが一番手間かかるんじゃないか。お前が学校終ってからやってくれていたのは気付いていたよ。ありがとうな」
父さんが俺の頭に手をおいてお礼を言ってくれる。
少し恥ずかしいけど俺は大人しく撫でられていた。
『子供の内は甘えておけ。お前もいずれは大人になるんだ。親に甘えられるのは今だけだぞ?』
過去に父さんが言ってくれた事だ。
同級生には親が鬱陶しいなんて言う人も多いけど俺はそう思わない。
たった1人の家族の父さんを邪険に思うなんて出来ない。
人はいついなくなるか分からないから。
俺が幼い頃母さんの写真を見ながら父さんが涙を流しながら酒を飲んでいた姿を見たことあるからとても辛いことはわかった。
だから俺が父さんを支える。
あんなクズな親戚なんか頼らなくて良いように…
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