13話 見返りを求めない恋
ご飯が炊ける少し前にキッチンへ戻り、4人分の材料を二回に分けてフライパンを振る。
中華鍋じゃないから料理人のように高く上げることはできないがそれなりに仕上がってきている。
「ごめん!優、ご飯よそってくれない?」
「りょ~」
優は返事して慣れたように食器棚を開ける。
「…っ!」
「どうした?」
うごきの止まる優に俺は不思議に思い聞いてみる。
「…いや、食器減ったなって思ってさ…」
それだけ言うと優は何時ものようにご飯をよそっていく。
俺は引っ越しに向けてある程度の食器を段ボールに積めていたのを思い出す。
俺は何とも言えないながらも「うん…」と返すしかなかった。
青椒肉絲を皿によそってリビングに来たときには三人明るく笑っていて優に暗い雰囲気は無かった。
その事に安心して俺も椅子に座り皆で晩御飯を食べた。
学校で付き合い程度の友達はいても放課後や休日にまで遊ぶ友達は優しかいなかったので、こんなにも賑やかな家は少し新鮮だった。
そんな時間はあっという間に過ぎるもので外が少し暗くなり始めて皆が帰る時間になる。
皆を見送るために玄関まで来て優と日笠が靴を履いて家を出る。
そして柊が靴を履くとこっちに振り返って笑顔を浮かべる。
「ねぇ、水瀬君…ううん、和人君。私やっぱり和人君が好き。」
柊の突然な二回目の告白に俺は頭が真っ白になった。
「たとえ転校して別れることになってもそれでもきっと私は和人君を好きでいる。だから…勝手だけど一方的でもいいから和人君のこと好きでいて良いですか?」
「…うん」
俺は嬉しくなってなんとかそれだけを返す。
おれの返事に柊はあの眩しい笑顔で今日は御馳走様でしたと言って出ていく。
俺は後を追うようにしてドアを開けて三人にあいさつして帰っていく3人を見送った。
そして三人を見送った後おれはリビングのソファーに座ってボーッとしていた。
告白を断った後もあそこまで関わろうとしてくれて更に好きでいていいですか?なんて言われたのは初めてだった。
「…本当に勿体ないな…」
もし柊と付き合えたら…それはとっても幸せなんだろうなと思う。
もし向こうに行っても柊が俺の事を思い続けてくれるなら…
「大学生になって1人暮らしできるようになったら…もしその時まで好きでいてくれたら…同じ大学に行って…」
そこまで考えて俺は笑う。
夢を見すぎだ。
大学生になるまであと4年半くらいある。
そんな長い期間、好きでいてくれる可能性なんて少なすぎる。
「人の心は変わる…渡辺が変わったように」
人の心なんて周りの環境で変わってしまうもの。
でも…もしお互いの気持ちが4年半も変わらなかったら…
「それは本物なのかな…」
俺はどこかそんな可能性にすがっている自分に笑ってしまう。
「…なんだ、俺も結局柊が好きなんじゃん」
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