5話 理由
「あの場にいた?」
日笠の言葉に俺は困惑する。
「私いつも美鈴が用事があって待っているとき屋上の出入口とは逆の方で本を読みながら待っているの。だいたい影になって涼しいから」
日笠の言葉を聴いて納得する。
確かにそこまで確認してないしそれどころではなかった。
「なるほどね。まぁ大体わかった」
確かに噂とあの場面を知っていたらそう捉えられてもおかしくはない。
「…ごめんなさい、あまり気持ちいいものではないと思う。勝手だと思う。でも私は柊の気持ちを知ってるから。いつまでも幼馴染みを引きずらないで柊と付き合ってほしいって思ってる。」
日笠は真剣な目で俺を見ていた。
「…日笠さん、言いにくいけれどそれは勘違いだよ。」
「…どういうこと?」
日笠さんは目を鋭くする。
「確かにあの場面だけを見たらそう思われても仕方ない。でもねあの時俺は告白しようとした訳じゃないんだ。それに柊の想いに応えられなかった理由とは関係ない」
俺の言葉に日笠さんは目を見開く。
「じゃあ何を言おうとしたの?」
「取り敢えず一度部屋に戻ろう。柊さんにも伝えないといけないことだと思うから」
俺はそう言って部屋へ戻る。
「お?遅かったな」
「ちよっとね」
優にそう返して席につく。
そんな俺に日笠はジト目を向けていた。
柊が歌っていて、その歌は今人気の女性歌手の花の名前がついた曲だった。
「久しぶりに思いっきり歌った~」
「和人が戻ってきてから急にスイッチ入るんだもんな」
「ちょっ!」
柊がスッキリした顔して座り込むと優がからかって柊が真っ赤になった。
「ち!違うからね!普通に歌ってたからね!!」
柊が焦って俺に言ってくる。
俺は申し訳なくなりつつも笑っていた。
「それで?」
曲も入ってなくて丁度良いと思ったのか、日笠が俺に問いただす。
「どうしたの明美?」
柊は戸惑ったように日笠を見る。
「…水瀬君が美鈴をフッた本当の理由を教えてくれるの。」
「えっ…」
日笠の言葉に柊の顔が凍りつく。
そして優も珍しく顔をしかめていた。
「なぁ日笠さん、それはちょっと無神経なんじゃねぇか?」
優の少し低くなった声に日笠さんは肩を震わせ顔を俯ける。
「空気を悪くしてごめん、これは俺から言い出したことだったんだ」
俺の言葉に三人が目を向けた。
「ちゃんと話しておかないと変な誤解も生まれてるみたいだから」
皆を一度見渡して最後にもう一度柊を見る。
「柊、苦しいかもしれないけど聴いて欲しい、君の告白に応えられなかった理由を」
柊は顔を固くしていたが、頷いた。
「実は俺、来週いっぱいで転校するんだ」
その言葉に柊と日笠さんは息を飲んだ。
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