オルテンシア

堀井 颯

第1話現在

 「ねぇ、ちょっと!起きなってば!」


 「何だようるさいな、今日は寝不足なんだよ」


 「あぁ、そうか、寝不足なら俺の授業は寝ていいのか、そういうことだよな?南原なんばら?」


 「はいそうです。そうに決まってるじゃ…いいえ!違います!起きておくべきです!」


 教室からくすくすと笑いが起こる。


 「やっぱり馬鹿ねぇ、彰人あきとは」


 「うるせぇ、華純かすみ。お前もさっき寝そうになってただろうが」


 「南原 彰人なんばら あきと!酒井 華純さかい かすみ!痴話喧嘩は家でやれ!」


 ふざけた口調で霧島先生が言う。


 「「痴話喧嘩じゃありません!」」


 2人が同時に反論すると、またクラスが笑いに包まれた。



 



 こんなごく普通の生活が送れるようになったのも最近だ。






 2060年現在では国家間の外交が非常に複雑なものになってきている。戦争が起こっている国も少なくない。よって、政府も慎重にならざるおえない状況になっていた。


 幸いまだ日本では戦争を起きてはいない、巻き込まれてもいない。


 そんな中、国防省は戦争がいつ始まってもいいように優秀な若者を育てるための政策を打ち出すのに躍起になっていた。


 政策の中でも世間には公開されずに非人道的な実験から生み出された兵器とも言うべき人間の誕生を国防省の筑波遺伝子科学研究所(通称:GSR)が成功させた。


 その研究によって生み出された人間は南原 彰人なんばら あきと、米谷 美代よねや みよ、進藤 歩夢しんどう あゆむの3人だ。


 この3人の誕生に国防省の幹部たちは大いに喜び、

日本の未来の安泰を確信した。


 なぜこの3人にそんなに期待しているかと言うと、世界でまだ7人しかいないとされている魔法を使える能力を持って生まれたからだ。


 この7人は奇跡的に魔法が使えるようになったとされている。だか、そんなはずはない。この7人も軍事的目的で各国が秘密裏に作・っ・た・の・だ・。


 現にもう、戦争へと駆り出されている魔法士もいる。


 他の国が魔法士の存在を明らかにしている理由は、存在を明らかにした方が外交の材料として使うことが出来るし、戦争へも行かせやすいからだ。


 そんな世界に7人しかいない魔法士が3人も作れたことで日本の軍事力の増強は計り知れない。


 この3人は15歳まで軍の施設で育てられた。


 施設で教えられ、つけさせられた力はありとあらゆること。


 戦闘から大学レベルまでの学力、医療技術に、ボードゲーム、飛行機操縦に、絵などさまざまな分野において一流となるように力を身につけさせられた。


 そして今年、通常なら高校へ進学する年に、彼らの親代わりである水谷 直樹みずたに なおきから高校へ進学することを勧められ、彼らもこれに同意した。


 水谷が彼らを高校へ進学させた理由は仲のいい同級生の友達を作るなどという生易しいものではなく、学校というものの世界観などを学ぶためや、心理学のテクニック、自分の身分を隠しながらの任務の練習になるということ、そして、自分の手駒を見つけるためという冷徹なものだった。


 そんな目的を持たされ入学するのは国防省の政策の一環として設立された国立成光せいこう高等学校。


 成光高校は優秀な若者を育成を目的として作られた学校で、生徒たちは日本各地から来るエリートたちだ。


 この他にもこの学校には特殊なルールや、制度があり、他の生徒たちはそのほとんどを把握しているが、この3人には知らされていない。


 これも情報の少ない中での任務の練習のためだ。


 そして明日、4月7日午前10時から成光高校の入学式が始まる。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る