第51話 マーヤの行方

 シュリとの戦いを終えて、ポアロンを回収した朝陽たち。一先ず、先程朝陽が建築した家で休憩することになった。


「創造神様。改めてお礼を申し上げます。このポアロンを助けていただきありがとうございます」


「ああ。気にしなくてもいい。仲間を助けるのは当然のことだ」


 朝陽は特に見返りや感謝を要求するような素振りすら見せずにそう言い放った。


「それにしても、あの一族。本当に嫌な連中でしたね。私の魔法が通用しませんし、相手の攻撃は無駄に痛いしで最悪でした」


 ポアロンが羽をぶるぶると震わせる。食われそうになった恐怖が彼女の心を震え上がらせたのだ。


「ビッグラーの一族は狩猟神を加護を受けているとの言い伝えがあります。鳥や獣の攻撃を軽減させて、逆に攻撃する時は威力が倍増します。それ故にポアロン様とは相性が悪かったんでしょう」


 ミレイユの解説に朝陽は首を傾げる。


「狩猟神? 誰だそれは? そんな神、俺は知らないぞ」


「ただの言い伝えで本当のところは私にもわかりません。ただ、この世界を創造したライズ様がご存知ではないと言うのでしたら……言い伝えの方が間違っているんでしょうか」


「さあな。本当のところは俺にもわからない。この世には、俺以外にも最高神に位置する神はいるからな。俺と同じ創造神のシン、後は破壊神ジオもそうか。そいつらが干渉している可能性は否定できない」


「うーむ……あの全身脱毛ツルピカ星人がわたくし達に対する復讐として、この世界に影響を及ぼすようなことをしている可能性もゼロではありません。が、恐らくは破壊神の方の影響だと思います」


「全身脱毛ツルピカ星人……まあ考えたところで仕方ない。とりあえず、ポアロンとは合流で来た。後は、マーヤの行方を探さなければな」


「あの小娘とはテレパシーで連絡を取れないのですか?」


「ああ。こちらが何度呼びかけても応答してくれない。何らかの事情でテレパシーができない状態にいるかもしれない。まあ、考えたところで仕方ない。とりあえず、今日はゆっくりと休んで先程の戦いの疲れを取ろう。ミレイユも泊っていくか?」


 朝陽の言葉を受けてミレイユは裏返った声で文字では表せない鳴き声を吐いた。


「あ、あの……そのいいんですか?」


「ああ。もう日が暮れているし、夜の森はなにかと危険だ。ミレイユがいくら強いとはいえ、このまま帰すのは心配だからな」


「あ、あのライズ様が私を心配している。は、はうぅ……」


 ミレイユは顔を真っ赤にして俯いてしまった。彼女としても適当に城に帰るつもりだったから、予想だにしてなかった提案なのだ。


「あ、でも。一国の姫が見知らぬ男の家に泊るのも問題か?」


「い、いえ。そんなことはありません。私は元々騎士故に野営をして遠征することもありました。毒虫や猛獣に襲われる危険がある野宿をしてたので、今更城以外で寝泊まりすることを心配されるようなお淑やかな姫ではありません」


「あはは。そうか。それじゃあ、ここのリビングの奥に寝室があるから自由に使ってくれ」


「いいんですか? 創造神様。このような下賤なメス騎士に一室を与えても」


「おいおい。姫様に下賤とか言うもんじゃない」


「多少文明が発達しようと人間は人間。神に比べれば劣る存在です。王族だとか貴族だのは人の間で勝手に決めた序列。サル山のボスと一緒。猿の中では偉いからと言って敬意を払う必要はないのですよ」


 ミレイユは内心ポアロンの発言にイラっとしながらも、現状のミレイユの格は人間だったので何も言い返せなかった。それにミレイユ自身、自分が姫だからと言って、朝陽やポアロンと比べて偉いだなんて思えない。得意に朝陽は前世でも推しという存在だけあってその神々しさは唯一無二のものである。


「ごめんな。ミレイユ。ポアロンもこういう毒ばっか吐いてる奴だけど根は悪いやつじゃないんだ。ちゃんと面倒見が良いところがあるし、頼りにもなるんだ。悪く思わないでくれ」


「ええ。ライズ様がそうおっしゃるなら……」


「ポアロンも謝れ。ミレイユもポアロンを助けるために戦ってくれたんだぞ」


「む……確かに。その節では世話になったな。メス騎士よ。非礼を許せ」


「謝ってるのになんで上から目線なんだよ」


 朝陽がツッコミを入れているがポアロンは悪びれている様子はない。


「上から目瀬もなにも実際、わたくしの方が立場は上ですからな」


 ポアロンのこの性格は相変わらずだなと朝陽は痛感した。



「おい、起きろ。おい――」


 少年の声を聞いて少女は目を覚ました。


「ここは……?」


 少女は周囲を見回す。なにもない殺風景な場所。完全な真四角の部屋は、高い位置にある小さい小窓と格子状の檻しか外界へと繋がる道が見えない。


「やっと起きたか。マーヤ」


「あ、あなたはガルド師匠―—! いえ、ガルド……」


 かつては目を閉じている状態でも戦える術を教えてくれた師匠。でも今は破壊神に魂を売り渡した敵。それと同じ空間にいることに気づいたマーヤ。その場で後ずさり、構えを取る。


「落ち着いてくれ。僕に戦う意思はない。殺す気だったら、とっくにキミを殺している。殺害しようとしている対象を起こすバカなんていないだろう?」


「確かに。でも、どうして私とあなたはここに閉じ込められているの?」


「僕が閉じ込められている理由は、ここの当主キリサメとかいう醜悪な男に楯突いたからだ。エディもキリサメの側についた時点で、こいつらには勝てないと悟った。だから、大人しく捕まったのさ」


「そんな。エディとガルドは仲間だったんじゃないの?」


「キリサメもガルドも己の欲望のまま動いている。僕はハッキリ言ってそれについていけない。あいつらは力を行使してやりたい放題やっている。国民から税と称して様々な物を奪った。食料、財宝、酒、女。僕は破壊神様の命以外に従うつもりはない。そんな僕に対してあいつらはつまらない堅物だと言い、こうして隔離したのだ」


 ガルドは唇を噛んで拳を握った。


「それじゃあガルドはこれからどうするつもりなの?」


「さあな。敵であるキミにそこまで言う必要はない。僕の心配よりも自分の心配をするんだな。キミの処遇がどうなるかはわからない。そのまま処されるか。それともあの好色家に……いや、辞めよう。下品な想像だ」


 ガルドはマーヤから背を向けて、窓から差し込む月明りをじっと見た。


「綺麗な月だな。確かマーヤ。キミは月の女神だったな」


「そうだね」


「キミが創造神に恩を感じているのと同じように、僕だって破壊神様に恩を感じている。その破壊神様が創造神を敵視している以上は、僕はキミだって躊躇なく殺せる」


 マーヤは複雑な気持ちを抱いた。ガルドは元来目が見えなかった。その辛さ、苦しさを目が見えるマーヤがわかることは到底不可能だ。ガルドを救ったのは間違いなく破壊神。それがきっかけで破壊神に忠誠を誓う気持ちはマーヤも痛いほどによくわかる。だから、マーヤには破壊神の側に立ったガルドを責めることはできない。


「私だって……居場所がなかった私を救ってくれたパパのことを想っている。あなたがパパの敵だと言うのなら、私はいくらでもあなたに刃を向けられる」


 2人の間に沈黙が流れる。お互い、ここで戦いを始めるつもりはないが、妙な緊張感が張りつめる。


「こんな牢獄でやりあっても仕方ない。マーヤ。キミとの決着はまた今度だ。この檻から出られて、お互いが戦場で相まみえた時。その時こそ本当の戦いをしよう」


 マーヤはガルドの言葉を否定も肯定もせず、ただ黙っていた。本音を言えば、マーヤだってガルドとは戦いたくないのだ。


「まあ、マーヤがここから脱出できなければ、それも叶わないことだ。この牢獄ではテレパシーが使えない。仲間に助けを呼ぶこともできないのさ。それにこの格子は破壊神様の力を授かっている僕でも壊せない。破壊に特化してない創造神の力では破壊するのは無理だろう」


 その言葉を受けてマーヤは絶望した。仲間と連絡が取れないならば、状況を伝えられもしないし、救援を呼ぶこともできない。ただ、時間を過ぎるのを待つことしかできないのだ。

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