第22話 神界戦争
朝陽は自身の耳を疑った。このシンとかいう創造神は、自分の仲間をトレードに出すと言っているのだ。
「すまん。俺の聞き間違いか? アンタは自分の仲間と俺の仲間であるマーヤを交換しようってそう言ったのか?」
「ああ。そうだよ。聞こえなかったならもう1回言ってあげようか?」
シンは自分の発言に正当性があることを疑っていなかった。朝陽にとって、自分に仕えてくれる仲間は大切なものだと思っている。付きあいはまだ短いけれど、ヒルトもマーヤも自分を信じてついてきてくれた。そう簡単に切れる者たちではない。
仲間を大切にする想い。誰の目から見ても、シンからは、そういう感情は一切感じ取れない。シンは元々自身の創り出した民ですら、自身の欲望を満たすための道具としてしか見ていない。そのため、男は排除して、女だけのハーレムを創り上げたのだ。元より仲間に対する感情は一切ない歪んだ思想の持ち主だった。
「お前は自分の仲間をなんだと思っているんだ!」
朝陽は激怒した。手こそ出すつもりはないけれど、語気を強めてシンを威嚇した。朝陽の強い圧にシンは「ヒィ」という声をあげた。シンは気が弱くて恫喝されるとすぐに怯んでしまう。
そのシンの様子を見たベラは怒り狂った。ベラは再び剣を創り出して、朝陽に剣先を向ける。
「坊ちゃまを威圧するな。坊ちゃまは繊細な心の持ち主だ。坊ちゃまに精神的負担をかけるなら殺すぞ」
朝陽に刃を向けられて、ヒルトもマーヤもそれぞれ神器を出した。一触即発の空気。なにかが
「ま、まあ落ち着いてよ。僕はマーヤちゃんがどうしても欲しいんだ。確かに僕が創り出したハーレムも素晴らしいけれど、やはりそれは僕の想像力の域を出ない。つまり、退屈なんだ。みんな僕の思い通りに動いてくれえるからね」
思い通りに動くのはお前がそういう風に人を創ったからだろと朝陽は心の中でツッコミを入れた。実際、ヒルトもマーヤも朝陽の思い通りに動くなんてことはない。それぞれが自分の意思を持って、朝陽に着いてきたのだ。
現にゴーンもオウギもエルノスも朝陽の思い通りに動かずに敵対関係にあった。生物に個人の意思を与えた結果、神と敵対する生物も出て来る。けれど、朝陽はそれでいいと思っている。それよりも個人がきちんと自分の意思で考えて自立する方が大切だからだ。神に逆らう者がいてもいい。生命が自由に活動できている証拠だ。
「僕は欲しいんだ。僕の想像を超えて僕を満足させてくれる存在が。だから、他の創造神が創った女の子を仲間に迎え入れたいんだ。きっと僕が予想もしなかった方法で僕を満たしてくれるだろうからね」
シンは不気味に笑った。その笑みを見て朝陽は猶更思った。こいつの元にマーヤをやってはいけないと。
「悲しいなお前」
「なに?」
朝陽の言葉にシンは眉をしかめた。
「悲しいってなにが悲しいのさ。僕は世界中の誰よりも満たされている。現世にいた頃なんて、女の子は誰も僕に見向きもしなかった。けれど、今は違う。僕は唯一の男なんだ。みんなが僕に媚びなければ人類は滅んでしまう。その状況のどこが悲しいっていうのさ」
「お前は自分が満たされることばかり考えているから悲しいって言っているんだ。お前は一度でも誰かのために行動したことがあるのか? 女がお前に見向きをしなかったのは、お前の性格に問題があったからじゃないのか? 誰かのためを思って行動して誰かを助ける喜びを知らないお前は悲しい存在だと言っているんだ」
朝陽の言葉にシンは衝撃を受けた。まさか初対面の人間にここまでボロクソに言われるとは思ってもいなかった。そして、その言葉を隣で聞いていたベラはキレた。
「貴様! 坊ちゃまのことを知りもせずに! よくも!」
ベラは朝陽に斬りかかった。しかし、ヒルトが槍でベラの剣を弾いた。ヒルトはベラを睨みつけている。
「警告1回目。我らが創造神様に手を出すな。2回目は警告だけでは済まさんぞ」
ヒルトは槍の穂先に炎を灯してベラを威嚇した。次はこの炎でお前を焼くぞと暗に言っているようなものだった。
「おお。やりおるなヒルト。よくぞ創造神様をお守りした! お前はやればできる原始人だと思ってたぞ」
ポアロンはヒルトの行動を見て羽で拍手をした。
「ふ、ふん。交渉は決裂したようだね。いいさ。せめてトレードで済ませてあげようとかと思ったけれど、こうなったら戦争で奪うのみだ! 創造神ライズ! 今からキミに戦争を申し込む! 僕が勝ったらマーヤちゃんはもらう!」
シンは朝陽を指さしてそう言った。朝陽はいきなり指さされて少し不快な気持ちになった。だが、それ以上に気になる単語が1つあった。
「戦争だと……?」
「ついにこの時が来てしまいましたね。創造神様……」
「どういうことだポアロン?」
「神界戦争。それは、神界の長たる神同士が戦う戦争のことです。敗者は勝者の要求をなんでも1つ呑まなければなりません。そして、1度申し込まれた戦争は断ることはできません。つまり、もう戦いは避けられないのです」
朝陽とポアロンのやりとりを見てシンは「くっくっく」と不気味に笑う。
「なんだ。キミたち神界戦争は初めてなのかい? 戦争初心者か。これはもらったね」
次の瞬間、上空から紫色のコウモリが1匹降り立ってきた。
「はーい。わたくしは戦争立会人のルベルです。戦争にはルールが必要です。ルール無用の戦争なんて今の時代流行りませんからね。公正な戦争を円滑に進行するためにわたくしの存在があるわけですね」
「なんだこいつ……こいつも敵か? やっちゃっていいですか? 創造神様」
ヒルトがルベルと名乗ったコウモリを睨みつける。
「まあ、待て。こいつは敵じゃなさそうだ。とりあえず話だけでも聞こうじゃないか」
「流石、創造神ライズ様。わたくしもポアロンやベラのような神の使いなのですよ。わたくしが仕える神は神界戦争を管轄する神ガイレスク様です。位としては自分の神界を持っている創造神様たちと同じ最高位に位置します。物凄い権限を持っているお方なのですよ」
ルベルは胸を張ってそう言った。
「今回はお互い、自分の世界を持っている創造神同士の対決ですね。お互い、自分が創り出した生命体から神を選出しているということも共通しています。面白い対決ですね。ということは、これは第52ルールを適応した戦争にしましょうか」
「第52ルール? なんだそれは?」
「戦争にはいくつかルールがあるのですよ。そのルールのテンプレートは108種類にまとめられているのです。その52番目のルールを今回使うわけですね。その52番目のルールを説明します。まずは戦争に参加できる要件と満たせるのは、創造神、創造神に仕える神獣もしくは神、創造神が創り出した世界に住む住人の3種類ですね」
ルベルは羽の内側から、3種類の駒を取り出した。その駒はそれぞれの立ち位置を現しているのだろう。その中から1番でかい駒をルベルは地面へと置いた。
「まずは、ルール上、必ず戦争に参加させなければならないのは創造神。これがいないと始まりませんね。ライズ様が元々いた世界の遊びで例えると、創造神は将棋で言うところの王将、チェスで言うところのキング。相手のこれを倒せば勝利となる。逆に倒されれば敗北するという最重要な駒です。なにを犠牲にしてでも守り抜かなければならない存在ですね」
「将棋? チェス? 私にはわかんないよ」
マーヤが首を傾げる。
「とりあえず、俺らが創造神様を守ればいいんだろ? それだけ理解していれば大丈夫だ。いつもと変わりない」
ヒルトはなんとなく、創造神の重要性を理解したようだ。
「次に神と神獣。これは将棋で言うところの飛車角、チェスで言うところのクイーン並に強い存在ですね。これを無制限に出せたら、神や神獣を沢山持っている創造神が有利すぎてゲームバランスもクソもないですよね。実際、ライズ様の手持ちの神と神獣が3柱なのに対して、シン様の手持ちは6柱です。倍の差があります。これでは勝負になりません」
ルベルは羽から6面ダイスを取り出した。
「そこで参加人数を決めるのがこのダイスです。これを振って出た目の数だけ神を参加させていいことにします。1000以上の神を抱える軍団も最大で6柱までしか出せません。まあ、6柱に満たない場合は6の目が出ないことを祈るしかありませんけどね」
創造神ライズ陣営は現在3柱の軍勢しかいない。よって4以上の目が出ないことを祈るしかない。
「そして、最後の駒を説明します。これはまあ言ってみれば雑兵ですね。人数制限は特にありません。自分が創り出した世界の住人だったら、誰でも参加させていいです。ただ、彼らも無制限に戦争に参加させていいわけではありません」
ルベルはナイフを取り出して、3種類の駒をそれぞれ切り刻んだ。2種類の駒は切られた後に元の形に再生したが、1種類の駒だけはそのまま壊れたままになっている。
「ご覧の通り、創造神と神(神獣)枠は例えこの戦争で命を落とすようなことがあっても、戦争が終われば蘇ることができます。ただし、雑兵枠の人たちは死んだらそれまでです。自身の世界の住人たちをイタズラに死なせたくなかったら、慎重に誰を参加させるのか考えた方がいいですね」
ヒルトは散り散りになった駒を見て下唇を咬んだ。かつて、ゴーンの戦いで命を落としてしまったハンの集落の仲間のことを思い出してしまったのだ。
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