第四章 神界戦争
第21話 創造神シン
「わあ……ここが神界なんだ」
マーヤは神界を見渡してそう言い、近くにあった川を覗き込んだ。川の中には、魚が泳いでいた。
「綺麗な川。すごく澄んでいて、霊峰ミヤマの泉と同じくらい美しい」
「おー。魚が育ってるな。生命の素がきちんと作用したんだな」
朝陽はマーヤの隣に立ち川の様子を見た。自身が創り出した川と生命。その営みを見て、うっとりとしている。
「さてと……それじゃあ、早速ゴッドヴェインを改装するか」
朝陽は鞄の中から1枚の紙を取り出した。それは建物の設計図だった。そこに書き込まれてた建物は西洋風の城だ。夢の国のテーマパークにあればかなり映えそうな外観をしている。
「おお。創造神様。いつの間にそのような設計図をお作りになられたんですか? 凄いセンスですね。わたくし、感服致しましたぞ」
ポアロンが羽をパタパタと羽ばたかせて興奮している。やはり。ポアロンも中身は女の子ということもあってか、お姫様のようにお城に住みたいという願望があるのだ。
「ああ。これはな。ヤマの集落で寝泊まりした時に、空き時間を使って設計図を書いてたんだ。これでこの豆腐ハウスともおさらばだ」
朝陽は設計図に穴が開く程、じっくりと見た。設計図を頭に叩き込みイメージを定着させる。そして、そのまま真四角のゴッドヴェインに手を触れるとゴッドヴェインが外観が分解されて、再構築されていく。
ものの数分で建築ゲームで言う所の豆腐ハウスだったものが、お洒落なお城へと変化したのだ。
屋根は瑠璃のように青く、外壁は雪のように真っ白なお城。派手な装飾こそないもののそのシンプルなデザインは洗練されている。朝陽の建築センスの高さがこれを見るだけで伺い知れるのだ。
「おお。随分と格好いいお城になりましたね」
ヒルトが城を見上げて、感嘆の声を漏らす。
「中身は変わってないけどな。でも、これでより一層、神の居城っぽくなっただろう」
朝陽は実際の出来栄えを見て満足していた。これで神界での暮らしも彩りが出たというものだ。
「さあ、次は神界をどう改造しようかな」
朝陽が色々と思案を巡らせようとしたその時だった。朝陽とポアロンは何者かの気配を察知した。
この神界にはいない何者かの気配。まるで神界の外からなにかが近づいてくる感覚。
「創造神様……なにかがこちらに近づいてきます」
「ああ。神界の外から、俺たちの神界目指して猛スピードでなにかが来ている。この気配は人間じゃないな。魔力の流れが清らかで澄んでいる。奴は……いや、奴らは俺らと同じ神だ」
ポアロンと朝陽の会話を聞いて、ヒルトとマーヤも神経を研ぎ澄ましてみた。すると、2人とも全く同じ気配を感じ取ったのだ。
「本当だ。創造神様。俺の後ろに。今のところ殺気はないようですが、敵意がないとは限りません」
ヒルトは朝陽の前に立ち、神器インティワイラを手に取り戦闘態勢を取った。いつでも戦えるように準備をしているのだ。
「パパ……」
マーヤは心配そうな視線を朝陽に送った。朝陽はマーヤの頭に手を置き撫でた。
「大丈夫。心配いらないさ」
朝陽の言葉にマーヤの心は落ち着いた。
次の瞬間、パリンとなにかが割れる音が聞こえた。朝陽たちの空間の前が割れて、裂け目ができる。その裂け目から1人の青年が出てきた。
青年の身長は低くてマーヤと同じくらいだった。体型も小太りでお世辞にも格好いいとは言えない外見だ。
目つきも悪いとまではいかないが、暗い感じで、あんまり友人が多そうなタイプには見えなかった。
青年の後にはバニーガールの女性がピョンと出てきた。女性は青年とは違い、顔の印象が明るくて人懐っこそうな顔をしている。体型も女性にしては身長が高くて、朝陽より目線が少し下程度だ。体型も出るところは出ていて、引っ込んでいるところは引っ込んでいる理想的な体型だった。
「何者だ。貴様らは」
ヒルトは槍の穂先を青年に向けて威嚇した。青年はそれにびっくりして思わず後ずさりをしてしまう。
「ひ、ひい」
青年は情けない声をあげる。そして、後ろにいたバニーガールの女性に縋るような目つきで一瞥する。
「おい、貴様。うちの坊ちゃまに物騒なものを向けるな。しばくぞ」
バニーガールの女性の手に金色の剣が出現した。剣の柄の部分には宝石がはめ込まれていて、見るからに高そうな剣だ。なにもないところから剣を創造した。つまりは神器。彼女は神の力を有している者だ。
「おいおい。人の敷地内に勝手に入って来て武装するなんて物騒な奴らだな。強盗か? 金目のものならいくらでもやるから帰ってくれないか?」
朝陽はできるだけ戦いを避けようとした。相手が物取りなら創造神の力でいくらでも金目の物を出せる朝陽にとっては、痛くも痒くもない存在である。
「失礼。我々は戦いに来たのではない。交渉しに来たのだ。ただ、うちの坊ちゃまに手を出すなら、戦争が始まるとだけ言っておく」
バニーガールの女性は剣を納めて敵意がないことをアピールした。彼らは一体何者だろうかと朝陽たちは思った。
「申し遅れた。こちらのお方は、創造神シン様だ。私の大事な大事な可愛い坊ちゃまだ。そして、私は創造神様に仕える神の使いベラだ」
この2人の正体は創造神とそれに仕える神の使いだったのだ。朝陽はポアロンとベラを交互に見つめた。一方は単なる白い鳥で、もう片方はナイスバディなバニーガール。
「俺は創造神ライズだ。こっちの鳥が神の使いのポアロン」
「え? その鳥が神の使い? ペットじゃなかったの? こんな鳥が神の使いだんて可哀相。うちみたいに美人の女の子が神の使いなら良かったのにね」
シンが思わずそう漏らす。シンのその発言にポアロンは頭にきて、キッと睨みつけた。
「人の仲間をバカにしないでくれるか? ポアロンは俺にとって大切なパートナーなんだ」
「うう、ありがとうございます創造神様。そのお言葉だけで、わたくしは十分幸せでございます」
ポアロンの目が潤んでいる。自分のために怒ってくれて、ポアロンは感動しているのだ。
「それで、こっちのオレンジ髪が太陽神ヒルト。銀髪が月の女神マーヤだ」
「マーヤちゃんって言うのか……可愛いなあ」
シンはそう言うとマーヤにいやらしい視線を送った。ねっとりと絡みつくようにマーヤの体を舐めまわすような視線。その視線を受けてマーヤは鳥肌が立ってしまった。
「ライズって言ったよね。僕と同じく創造神の力を持つ元人間。ねえ、ライズ。キミはどうして、そっちのヒルトなんて存在を生み出したんだい?」
シンはその質問がさも当然かのような態度でそう訊いた。朝陽とヒルトは「ハァ?」と言った感じで頭にハテナを浮かべている。
「キミも男だろう? 自分の好きなような世界を創っていいとなったら、まず願うのはハーレムだろう! 可愛い女の子がいっぱいいる世界。それを創造するだろ? 男の存在なんて不要。そうだろう?」
確かに朝陽もその考えがないわけではなかった。一時はハーレム世界を創ろうとは思ったけれど、それは思い止まった。あくまで選択肢の1つとして思い浮かぶだけで実行しようとは思いもしなかった。
「そんなのでハーレム作っても虚しいだけだと思っただけだ」
「虚しいねえ……キミはきっと僕の世界での生活を見たら、きっと後悔すると思うよ。僕が願ったのは女しか生まれない世界。子孫を残す方法は唯一の男で創造神である僕から精子を分けてもらうこと。そのためだったら、みんなはどんな下劣なことでも進んでするようになるんだよ。こんな最高なことないよね?」
シンは下卑た笑みを浮かべる。まるで女性をモノとしか思ってないようなそんな醜悪な考えを持っているのが透けて見える。朝陽はこのシンとかいう青年を心底軽蔑した。
「坊ちゃまの考えはとても崇高なものだ。創造神たる坊ちゃまが下劣な民を従えるのは当然のこと。創造神が民に信仰されるように男性の存在を消し去るのは至極賢い。創造神が自動的に信仰される仕組みを作った坊ちゃまは正に天才」
ベラもまた歪んだ思想の持ち主だった。人をモノとしか思わない。最低の発想だ。
「んまあね。僕は最初に望んだのは美人しかいない世界だったんだけれど、僕の想像力不足でね。たまにブスが生まれるようになったんだ」
「それはお前の遺伝子のせいだろ」と朝陽は言ってやりたかったけど我慢した。
「でね。不幸なことにそのブスが神器を創れる力を持っちゃってね。仕方なく神として迎え入れることになったんだ。ここまで言えば僕の言いたいことわかるよね?」
「いや、わからない」
むしろ、これだけでわかったら察しがいいを通り越してエスパーかなにかだ。
「うちのブスの神様とそちらのマーヤちゃんを交換しようって話だよ。その交渉受けてくれるよね?」
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