総議長への報告
「龍王騎士団団長マリガン・エル、ただいま帰還しました」
バタン、と総議長室の扉が閉まる。
「突然の遠征任務おつかれさん。腹を刺されて死にかけたとか報告書にあったけど、元気そうでよかったよかった」
書斎机の向こうに座るメガネをかけた男————ドラグ・コトラ議会の最高責任者、ジュナ・ナガル総議長はコップのお茶を
「ナガル総議長。お伝えしたいこととお聞きしたいことがありますの」
エルは
「あー。”伝えたいこと”から先に聞こうかな……」
頭をポリポリと
「今回の遠征任務で調書を取った二人は常人離れした
「特異……ねぇ。
ナガルのメガネが光を反射してきらめく。
「少女とは思えないほど身体能力が非常に高く、腕力に関しては
「具体的に言うと?」
「
「あのバカみたいに重い大剣を?」
「はい。調書を取った際、魔族を倒すのに使ったと話すので、半信半疑でしたが貸してみたところ……」
ナガルは
「いや、一緒にいた少年が
エルは横に首を振る。
「少年と少女は別々の部屋で取り調べをしましたし、大剣を渡した時に少年は団員たちと入浴中でした。ほぼ抜き打ちに近い状況でしたので補助は無理だったかと」
「そうかぁ。実力かぁ……」
ナガルは机の引き出しから一枚の書類を取り出し、にらめっこを始めた。
「総議長」
「うんうん。”聞きたいこと”だったね。たぶん、どうして
「そうですわ。記憶の森に
紙を机の上に置いてナガルは席を立つ。
「もちろん。急な命令だったし説明が不十分だったのは
パンパンと手を叩くと、使用人の女性が飲み物とグラスを乗せたワゴンと共に入ってきた。
「少し話が長くなるから座って話そう。……今日のお菓子はなぁに?」
「ロンダバオで流行っている蒸し菓子です。中に甘く煮つぶした豆が入っていまして、第二王女様が大変お気に入りだとか」
ワゴンの中から取り出された箱を開けると、中には半月状のしっとりした食べ物らしき何かがあった。
「前に会談で行った時に食べ
箱の開いている方を使用人に向けて誘うナガル。
「フフ……。今度、お客様が来ていない時にご一緒させていただきます」
使用人は誘いをやんわりと断り、グラスに飲み物を注ぐ。
「それでは」
その後、何事も無かったように一礼して部屋を出ていった。
「……いつもあんな風に接していますの?」
ナガルとは互いに人柄を知る仲とはいえ、まさか使用人を口説き始めるとは思わなかったエル。
「もぐもぐ……ん?たしかに、いつもあんな感じでお喋りしてるね」
既に食べ始めていたナガルはお茶で口の中の菓子を流し込み、次なる目標へと手を伸ばす。
「ちょっと」
箱に手が届く寸前で、エルが箱の向きを変えた。
「わるいわるい。任務の話だけど、発端は第二王女様でさ」
お菓子を
現在、王女様の親しい友人でもあるヒュペレッドの有名な双子
娘に甘い王様が半分冗談のつもりで
それで人数を増やして探索を続けていくと、先日から連絡が取れなくなっていた軍の運び屋が遺体で発見された。
「この運び屋が運んでいた荷物ってのがクセ者でね。なんと機密中の機密、兵器の開発研究に使われる魔石だったんだと」
最初の
森の中をうろついてた
「
エルは最後の1個を取ろうとしたナガルを阻止してお菓子を半分こにする。
「ありがとさん。ま、盗賊なんかが魔族の相手になるわけないわな」
ナガルは
「騎士団は酷い目にあって目的の魔石は回収できず、不気味な槍を
今回の件の
「これはあまり君の前じゃ言いにくいことだけどさ、少年が
少し申し訳なさそうな顔でナガルが続ける。
「小隊規模だって言っても、国の精鋭部隊が
「
血を止めることだけで精一杯だった
魔族が野放しにされていたら、今頃は数え切れないほどの死者が出ていたことでしょう……。
「ま、出自には謎な点が多いけどさ」
ワゴンの中をガサガサと
「やってくれたことを考えたら旅の手助けくらいはしないと、こっちのメンツが立たないやね」
「
「ま、そういうこと。それにカガリの頼みでもあるし」
「……?知り合いでしたの?」
「おいおい、これでも総議長よ?枢機卿どころか聖王にも
(さっきから見てても、この男がとても
「なんか失礼なこと考えてない?ま、カガリのことは枢機卿になる前から知ってたけどね。お師匠さんがめっちゃ美人で……」
「はいはい。あなた基準じゃ大陸中が美女だらけですわよ」
おっ!良いねそれ!みたいな表情をするナガルに呆れて、エルは少し笑みを
「お茶とお菓子、とても美味しかったですわ」
「もう行くのかい?」
椅子を立ち、扉へと歩く。
「ええ。そろそろ二人が到着する頃でしょうから」
部屋をあとにして、エルは正門の方へ向かって歩き出した。
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