姉妹巫女
「長旅ご苦労さまでした。
馬車を降りた僕達は宿舎のような木造の建物に連れて行かれ、そこの広間で執事っぽい服を着た人にスケジュールの説明を受けていた。
「お腹すいたでござる……」
一通りの説明が終わった後、僕と灯花はエントランスで横掛けのソファに座っていた。
「ヨウケンさん、着替えに時間がかかってるね……」
たしかに鎧を着たままの観光案内じゃ街中で目立ち過ぎるんだろうけどさ。
「ユウさん!トウカさん!あら、元気がありませんわね?」
入口の方を見ると、そこにはこちらに手を振るエルさんがいた。
「今日は鎧を着てないんですね?」
エルさんの私服姿は野営地で1回だけ見かけたことがある。今日は私服と言うよりフォーマル感のあるワンピース姿だ。
「今夜は総議長もいらっしゃる会食ですもの。それにしても、お二人は珍しい服を着ていますわね?」
僕と灯花は学校の制服に着替えていた。
「一応、制服はどんな場所・状況でも通じるオールマイティ装備でござるから」
たしかに、学校の授業でそう習った記憶がある。
「
「服の汚れだけでなくシワも取れるのは地味にチートでござるな」
元の世界に帰っても使いたい
「おや?エル様も来られていましたか」
着替えを終えたヨウケンさんがやって来た。
「爺や!腕は大丈夫?」
「ユウ様の治療を受けたのです。なにも心配いりませんぞ」
左手で
「それに一度は退役した身。これからは憧れの家庭菜園の世話を楽しむ余生が待っております」
本当に楽しみなんだろう。野営地で見せていた武将のような険しい表情は消え、にこやかな柔らかい笑顔がそこにあった。
「そろそろ限界が近いでござる……」
灯花の腹が大きく鳴り、エントランス中に空腹を知らしめた。
「あらあら困りましたわね……。まだ会食まで時間がありますし、
「ぜひおねがいするでござるよぉ〜……」
灯花の声がかなり弱っている……。本当に限界らしい。
「歩いて行ける距離なんですか?」
「行けますがすごくお腹が空いているみたいですし、
「エル氏!早く行きましょうぞっ!!」
さっきまで空腹で死にかけだったのが嘘みたいなスピードで灯花が外に走り出す。
「……現金なヤツだなぁ」
〜エルの自宅〜
(エル氏のお嬢様口調に
「お帰りなさいませエル様」
紺色の落ち着いたデザインのワンピースに白いエプロンを付けた眼鏡の女性がお辞儀をして迎えてくれた。
「ただいまローティ。お茶の用意をお願いできるかしら?」
「四人分でよろしいですか?」
シェレちゃんに乗ったテンションで誤魔化しているものの、拙者の空腹度は歩くごとにダメージを受けるレベルまで下がっているでござる……。
「ええ。四人分でお願いしますわ」
それを聞いてローティ氏は扉を閉めた。
玄関すぐのホールを見回して(シャンデリアはお約束でござるなぁ……)なんて考えていると、何か違和感に気付いたのかエル氏が立ち止まっている。
「……ローティ、たしかに後から二人来ます。けど、どうしてそれを知っているの?」
カツカツと足音を立てて家の奥に進んでいたローティ氏が
「……?先ほど『エル様と約束がある』とお客様が二人いらして、中でお待ちしていますよ?」
「その二人はどなた?」
「サーラ様とアルネリア様でございます」
それを聞いて拙者の顔を見るエル氏。
「知り合いでござる?」
「ええ……一応、面識のあるお二人ですわ」
「”約束”とは?」
「していません。ですが無下にもできませんわ。トウカさん達と同じく、国の
まさかのダブルブッキングでござったか。
「拙者としては人が増えても『お構いなく〜』でござるけど、会わない方が良いのならユウ氏と一緒に席を外しておくでござるよ?」
「それは困るわ」
「困る困る!」
ローティ氏の背後から女の子の声が聞こえた。
そちらへと視線を向けると、巫女装束に似た民族衣装風の服を着ている二人の少女が立っている。
一人は銀髪に
「……カラーリング的に双子でござるかな?」
黒髪の少女が拙者を見る。
「金色の髪……。聖王国の方がどうしてここに?」
初対面のはずなのに少し敵意を感じる視線。
ポーカーフェイスでそれを
「サーラ様。この方はお二人と同じ、我が国の
エル氏が前に出て視線を一手に受ける。
「
ペコっと軽く頭を下げて謝られたものの、視線に含まれる敵意は特に変わってない気が……。
「もう一人のお方はどちらに?」
「そろそろ爺やと一緒に到着する頃……」
「おじゃまします」
玄関の扉が開くと同時にユウ氏が入ってきた。
僕は春のぽかぽかした陽気が好きだ。
こっちの世界に来た時は森の中で、どちらかと言うと肌寒かった。
でも
ヨウケンさんから名物料理やエルさんの武勇伝を聞きながら散歩感覚で歩くのはとても心地良い時間だった。
「おぉ、見えてきた。あれがエル様の自宅ですぞ」
少し離れたところに見える大きなお屋敷。
軽く学校の体育館くらいはあるんじゃないかな?
門の前にいた人がヨウケンさんを見るとシャキッと姿勢を正す。
「ユウ様、門番と少し話をしてきます。エル様もトウカ様も既にお着きでしょうから、どうぞお入りください」
「はい。それじゃお先に失礼します」
ヨウケンさんは門番の方へ行ってニコニコした顔で談笑を始めた。
開いた門を進み、まっすぐ玄関らしき場所へ向かう。
「家自体も大きいけど、土地もかなり広いな……」
草野球くらいならできそうだ。
歩きながらキョロキョロしていると植木を切り揃えている庭師さんと目が合った。
仕事の手を止めてニコニコと笑顔でお辞儀をしてきたので僕もお辞儀を返す。
「……平和だなぁ」
玄関の扉の前に着いた。取っ手はニス塗りをしてある木で出来ていて、昔行ったキャンプ場の受け付け棟を思い出す。
「よし」
僕は取っ手を
「おじゃまします」
玄関を入ってすぐに広がるホールに灯花とエルさんがいた。
その少し奥に眼鏡をかけた女性と僕より少し年下くらいの女の子が二人。
「お兄様ぁぁぁぁぁ!!」
僕の顔を見るなり、いきなり銀色の髪の女の子が走ってきた。
「うおっ!?」
避けるわけにもいかず正面から受け止める。
「この匂い、この
思いっきり抱きしめられるが、なにがなにやら分からない。
「”お兄様”?この子、
「んなわけあるか!」
妹の
「そ、そろそろ離してもらえるかな……?」
華日と違ってかなり
何がとは言わないが。
「アルネリア、よく見なさい。その方はとてもよく似ていますがお兄様ではありません」
もう一人の黒髪の子が引き剥がすのを手伝ってくれた。
と、思いきや。
「あ、でもたしかにこれはこれで」
この子も僕のことを抱きしめる。
「なんでさ!?っていうか何がどれでどれ!?」
「ユウ氏……」
ポンと灯花が僕の肩に手を置く。
「やはり、異世界ハーレム主人公の素質があったでござるな」
笑顔とドヤ顔の混じる非常に腹の立つ顔でわけのわからない事を言われた。
「ちょっ……あのっ……誰か助けてくれ~!」
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