恩恵
地面にうつ伏せになっている僕の身体を冷たい雨が叩く。
背中からジワリと暖かい液体が
「なんで……?」
声のした方に顔を向けると、そこには驚いた表情で僕を見るカガリが居た。
「……っ……」
考える前に体が動いてた、と返事をしたかったが僕の喉からは
「無駄ナコトヲッ!」
影は
ドサッ
「ナッ!?」
槍が地面に落ちる。
「どいつもこいつもボクの邪魔ばかり……」
ヒュンヒュン
突然のことに硬直していた影が
刃物で斬られたような傷が両足から開き、そこからダラダラと大量の血が流れ出した。
「ヒッ!」
恐怖に支配された影が芋虫のように這いずり逃げようとする。
ザン
しかし、無慈悲にもその背中を槍で貫かれ……影は息絶えた。
「ユウ……心配しなくていいよ。ボクが絶対に助けるから」
そう言って、カガリは
「まさかこんなところで使うなんて思ってなかったけど……やるしかない」
自身の胸に手を当てて、カガリは息を整える。
「”迷いし魂よ、我が言葉に導かれ、
夕の身体とその周りが
「”反魂の
ぺしぺし
「…………」
ぺしぺしぺし
「……ん?」
僕が目を覚ましたのは冷たい雨が降る街道ではなく、暖かな陽光が降り注ぐ森の中だった。
「あ、起きた」
横を見ると、拳を振りかぶって殴る寸前みたいなポーズで止まっている少女がいた。
「君は……あっ!」
今しがた起きたことを思い出した僕は、槍で刺された部分を触る。
おかしい。
怪我が無い。
「なにしてんの?」
少女は不思議そうな顔をして僕を見つめる。
「刺されでもしたの?」
かなり物騒なことのはずなのにまるで”教科書忘れたの?”みたいな、いつもの日常感で聞かれた。
「うん。まあ、そんな感じ……」
さっきまでの緊迫した空気が無くなっていることに頭が混乱する。
「あっそ。っていうかさぁ」
あまり興味がわかなかったのか、少女は立ち上がると指先でクルクルと金色の髪を
「こっち来るの早すぎじゃない?普通は長い長〜い時間を生きてから来る人ばっかりなんだけど」
弄るのが楽しくなってきたのか、両手それぞれの指で髪をクルクルと巻き始める。
「ゴルジから聞いてまだちょっとしか経ってないのに……よっぽどウッカリさんなのかしら?」
「君は……誰なの?」
よく分からない内容のお喋りを続ける少女に僕は問いかけた。
「イ・ズ・ナよ。ほら、言ってごらん?」
「イ……イズナ」
「はいよくできました〜」
少女は指に髪を巻きつけたまま両手を挙げて、その場でくるっとターンした。
「ま、来ちゃったものはしょうがないし?さっき採れたばっかりのコレでも食べなさいな」
少女にオレンジ色のツルツルした果実のようななにかを手渡される。
「ほら、グイッといっちゃって」
決してグイッといけるサイズではないが、手が勝手に動いてしまい僕は実を
「…………美味しい!」
口の中に香りが広がり、甘い果汁が身体に染み込んでいくのが分かる。
「いい食べっぷりね〜」
噛んだそばからジュースのように流れ込む果実を、僕はすぐに完食してしまった。
「さてさて。どうせ”実”のことくらい勉強済みだろうし、イズナちゃんとゴルジの愛に満ち
ここで僕の意識は途絶えた。
「誰もロープを垂らしてくれないでござるぅぅぅ!」
「ボルダリング二段の拙者をもってしても、厳しい壁でござった……」
大剣と足首を結んでいた袖をほどき、服についた泥を払い落とす。
「あれ?なんでユウ氏が地面に寝転がっているのでござるか?」
仰向けに寝転がっている
「脈は異常なし……と。おーい、日向ぼっこの雨天決行はいくらなんでも厳しいでござるよ〜!」
体を揺らすと気が付いたのか、
「んん…………。寒っ!服がビショビショだし泥だらけだし……僕、何してたんだっけ?」
「拙者に愛の告白を……」
「二秒でバレる嘘をつくな」
容赦のないツッコミが入る。
「ちぇっ。それはそうとして、カガリ氏の姿が見えないのでござるが……」
灯花に言われて周囲を見渡すと、確かにカガリがいない。
「……トイレかな?」
とりあえず雨をよけようと、シャツを脱ぎつつ馬車の荷台へ向かう。
「カガリ?」
一応、乗っていないか確認したが、やはりそこにカガリの姿は無かった。
荷袋の中から下着を取り出して着替えると、荷台の
「灯花〜!」
「なんでござる?」
名前を呼んだ瞬間に灯花が
「馬車に封筒がある。たぶん、カガリからっぽい」
「どれどれ……」
灯花が僕から封筒を受け取り、ジーッと見る。
「読めるのか?」
「読めないでござる」
ガクッとずっこけた。
「まぁ心配しなくても大丈夫でござるよ」
「なんで?」
すると、灯花はスっと指を差した。
「たぶん、あの人に聞けば分かるでござるから」
「っ!」
目を覚ました瞬間、エルは全身のバネを駆使して飛び起きる。
「あららら!?」
が、鎧が外されていたせいで勢い余って前のめりに倒れてしまった。
「あら?」
地面とぶつかった感触は無く、その代わりに何かが下敷きになっているような。
「んー!んー!」
下敷きになっていた
状況が飲み込めずに混乱するエル。
「ちょっと失礼するでござるよ」
その声と同時にエルは体を引き起こされた。
「し、死ぬかと思った……」
下敷きになっていた少年が立ち上がるのを見て、エルは今の状況を
「申し訳ありません!……敵は!?
異形の怪物と戦い、爪で貫かれたあとの記憶が無い。
「と、とりあえず僕達の馬車で話をしましょう……」
少年は何故か顔を逸らしてこちらを見ない。
「騎士どの騎士どの」
トントンと肩を指で叩かれ振り向くと、少女は服の胸部分を指差している。
「………?……………!!」
切り裂かれていた服の穴から、身体の前半分が
「キャァァァァ!!!!」
辺り一帯に悲鳴が響いた。
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