幼なじみギャル(偽)と異世界転移したら金髪ショタ(謎)に保護されました

別働隊

「お、おい、獲物（えもの）逃（に）がしちまったけど……お、おれ兵長（へいちょう）に殴（なぐ）られちまうんじゃねぇかな？」

　青（あお）ひげの気弱（きよわ）そうな男が、顔に刺青（いれずみ）を入（い）れている男に話（はな）しかけ、刺青（いれずみ）の男が面倒（めんどう）そうに答える。

「……一昨日（おととい）襲（おそ）った運（はこ）び屋（や）……荷物（にもつ）がまだ残（のこ）っている……」

「そうそう、久（ひさ）しぶりの大当（おおあ）たりで兵長（へいちょう）もあんなに上機嫌（じょうきげん）だったんだ。ガキ二人を逃がしたくらいで殴（なぐ）ったりしねーさ」

　続（つづ）いてマスクで口（くち）を隠（かく）した男が、用意（ようい）していた矢（や）や罠（わな）を片付（かたづ）けながら話（はな）す。

「なんでも、奪（うば）った鬼馬（ゴーダ）はドラグ・コトラ産（さん）の高級品（こうきゅうひん）だそうだぜ？待（ま）ち伏（ぶ）せ班（はん）が使（つか）ってるらしいが……」

「で、でも、あっちも逃がしちまったんだろ？へ、兵長、怒（おこ）るだろうなぁ……」

　青ひげの弱気（よわき）な言葉（ことば）を無視（むし）して、まとめ終（お）えた荷物（にもつ）を刺青（いれずみ）が背負（せお）う。

「……次（つぎ）……挽回（ばんかい）すれば良（い）い……」

　最低限（さいていげん）の言葉（ことば）だけを発（はっ）して、隠（かく）れ家（が）へと歩（ある）き出（だ）した。

「そうそう、気楽（きらく）な盗賊稼業（とうぞくかぎょう）でいちいち小（ちい）さい事（こと）を気（き）にしてたんじゃやってらんねーよ」

　マスクもそれに続（つづ）く。

「う、うん……で、でもよぉ……」

「それに、思（おも）ってるより運（うん）は悪（わる）くないみたいだぜ？」

　青ひげの言葉を遮（さえぎ）って、マスクが右腕（みぎうで）を挙（あ）げる。

「待ち伏せ班の鬼馬（ゴーダ）と合流（ごうりゅう）できるなんてツイてる～！」

　御者（ぎょしゃ）の男が仲間（なかま）の前（まえ）で鬼馬（ゴーダ）を止（と）める。

「悪（わり）ぃ！なんかあのガキども異常（いじょう）に速（はや）くて逃がしちまった！」

「ホント、アイツらありえねぇ速（はや）さだったよな！まっ、気にするこたねーって！」

　マスクと御者（ぎょしゃ）が喋（しゃべ）る中（なか）、刺青（いれずみ）が無言（むごん）で荷台（にだい）に乗（の）り込（こ）む。

「おう、お前らも早く乗れよ！兵長達（へいちょうたち）も先（さき）に帰（かえ）って飯（めし）でも食（く）ってるだろ」

　続いて、青ひげとマスクも乗り込んだ

「あ、あれ……で、でもこっちの方角（ほうがく）から帰ると"三本傷（さんぼんきず）"が見難（みにく）いんじゃ……」

「なんだなんだ、お前わざわざ遠回（とおまわ）りして迎（むか）えに来てくれたのかよ！気（き）が利（き）くな！」

「…………まぁな！」

　変（へん）な間（ま）が空（あ）き、何故（なぜ）か御者（ぎょしゃ）は目（め）を合（あ）わせずに引（ひ）きつった顔（かお）で笑（わら）う。

「……獲物（えもの）を逃（に）がした……一人で怒鳴（どな）られるより全員（ぜんいん）で……つまりは道連（みちづ）れ……」

　刺青（いれずみ）に図星（ずぼし）を突（つ）かれたのか、御者（ぎょしゃ）は冷（ひ）や汗（あせ）をかいている。

「なんだそりゃ……。ま、細（こま）かいこと気にせずに帰（かえ）ろーや！腹（はら）も減（へ）ったし！」

　男はマスクを外（はず）して、出発（しゅっぱつ）を促（うなが）す。

「ははは……よぅし！そんじゃ隠（かく）れ家（が）にひとっ走（ぱし）り頼（たの）むぜ！」

　御者（ぎょしゃ）の鞭（むち）に叩（たた）かれて、鬼馬（ゴーダ）は隠（かく）れ家（が）への道を走り出した。

～一方（いっぽう）その頃（ころ）～

「ねえ兵長？キミは"聖法（イズナ）使（つか）いの特徴（とくちょう）"を知（し）っていたようだけど、もしかして大戦（たいせん）の参加者（さんかしゃ）だったのかい？」

　兵長は背（せ）を向（む）けて歩きながら頷（うなず）く。

　カガリは続ける。

「なるほど、傭兵崩（ようへいくず）れか……」

　兵長はなんの反応（はんのう）もせずに歩き続ける。

「戦（たたか）うことも手柄（てがら）を立（た）てることも正規兵（せいきへい）と聖法（イズナ）使いに奪（うば）われて、傭兵（ようへい）は役（やく）に立（た）たないから離脱（りだつ）するよう命令（めいれい）されたんだよね？」

「……お前ら聖法（イズナ）使いが、俺（おれ）たちを戦場（せんじょう）から追（お）い出（だ）したんだ」

　沈黙（ちんもく）に耐（た）えかねたのか、閉（と）ざされていた口が開（ひら）いた。

「お前くらいの歳（とし）じゃ知らねえだろうが、昔（むかし）の傭兵（ようへい）ってのは戦場（せんじょう）でタンマリ稼（かせ）げるボロい商売（しょうばい）だった……。聖法（イズナ）使いなんぞが出（で）しゃばりやがって、俺達（おれたち）みたいな小規模（しょうきぼ）の傭兵団（ようへいだん）は全部（ぜんぶ）お払（はら）い箱（ばこ）になっちまった！」

　言葉（ことば）を紡（つむ）ぐにつれて過去（かこ）の怒（いか）りを思（おも）い出（だ）したのか、少（すこ）しずつ怒気（どき）を含（ふく）んだ口調（くちょう）になっていく。

「それは違（ちが）うよ」

　カガリの毅然（きぜん）とした短（みじか）い言葉（ことば）が怒気（どき）を一刀両断（いっとうりょうだん）する。

「聖法（イズナ）使（つか）いが送（おく）られたのは膠着（こうちゃく）してた戦線（せんせん）に魔法（まほう）使（つか）いが参戦（さんせん）して人界側（じんかいがわ）に大（おお）きな被害（ひがい）が出始（ではじ）めたからだし、そもそもキミ達（たち）の高収入（こうしゅうにゅう）の大部分（だいぶぶん）は略奪（りゃくだつ）によるものだよね？」

「ッ……！ま、魔族（まぞく）どもから奪（うば）って何（なに）が悪（わる）い！！」

「その魔族（まぞく）たちが所持（しょじ）していた金品（きんぴん）は、元（もと）を正（ただ）せば人界（じんかい）の襲（おそ）われた集落（しゅうらく）や城（しろ）の住人達（じゅうにんたち）の持（も）ち物（もの）だ」

　兵長（へいちょう）の反論（はんろん）に身勝手（みがって）さを感（かん）じ、カガリの語気（ごき）も強（つよ）くなる

「キミ達（たち）は人（ひと）から奪（うば）った金品（きんぴん）で私腹（しふく）を肥（こ）やしていたんだよ。そう考（かんが）えると今（いま）も昔（むかし）も本質的（ほんしつてき）に大（たい）して変（か）わりはしていない」

「だ、だからなんだってんだ！俺ら以外（いがい）にも略奪（りゃくだつ）してる奴（やつ）なんざぁ沢山（たくさん）いた！」

　反論（はんろん）に窮（きゅう）したのか、兵長は開（ひら）き直（なお）った。

「俺らだけを悪人（あくにん）扱（あつか）いしやがって！こっちゃあ戦場（せんじょう）で命（いのち）張（は）って戦（たたか）ったんだ！国（くに）から貰（もら）った慰労金（いろうきん）なんかじゃ足（た）りやしねぇ！！死（し）んだ奴（やつ）から奪（うば）って何（なに）が悪（わる）いってんだ！！！」

　兵長はついさっき自分（じぶん）を殺（ころ）しかけた相手（あいて）に対（たい）し、一切（いっさい）の怯（おび）えや恐怖（きょうふ）を出（だ）さずに自分勝手（じぶんかって）な怒（いか）りをぶつける。

「そうだ！命（いのち）を賭（か）けてる俺らにたった一年しか働（はたら）かずに暮（く）らせる金（かね）しか用意（ようい）してねーのがおかしい！！」

　目（め）は赤（あか）く血走（ちばし）り、口（くち）の角（すみ）からは唾（つば）を飛（と）ばす。

「挙句（あげく）、聖王国（せいおうこく）が戦後処理（せんごしょり）にしゃしゃり出（で）てきたせいで火事場（かじば）泥棒（どろぼう）もほんの少（すこ）ししかできなかった！何（なに）もかも全部（ぜんぶ）テメーらのせいだ！」

　盗賊（とうぞく）の倫理観（りんりかん）を失（うしな）った詭弁（きべん）を聞（き）き続（つづ）けていたカガリが大（おお）きくため息（いき）をつく。

「……それで、隠（かく）れ家（が）はどっち？」

「あぁ！？そこの三本傷（さんぼんきず）の木（き）の裏側（うらがわ）右手（みぎて）に見える樹洞（じゅどう）が入（い）り口（ぐち）だよっ！…………あぁ！？」

　ここに至（いた）り、やっと兵長は自分（じぶん）の異変（いへん）とカガリの指先（ゆびさき）に気付（きづ）く。

「大戦（たいせん）の時（とき）にキミが犯（おか）した罪（つみ）と、隠（かく）れ家（が）の場所（ばしょ）を教（おし）えてくれてありがとう」

　カガリの人差（ひとさ）し指（ゆび）は鈍（にぶ）い紫色（むらさきいろ）の光（ひかり）を纏（まと）っていた。

「もし本気（ほんき）で心（こころ）を入（い）れ替（か）えていたなら見逃（みのが）すつもりでいたけど……残念（ざんねん）ながら懺悔（ざんげ）には程遠（ほどとお）い自白（じはく）だったね」

「てめぇ……何（なに）しやがった！？」

　人差（ひとさ）し指（ゆび）から光（ひかり）が消（き）え、カガリは懐（ふところ）から短剣（たんけん）を取（と）り出（だ）しながら答（こた）えた。

「キミがあんなに憎（にく）んでいた聖法（イズナ）だよ。その中（なか）でも、品（ひん）が無（な）いとされて使（つか）う人（ひと）も使（つか）われることも数少（かずすく）ない"自白（じはく）"の聖法（イズナ）……」

　短剣（たんけん）を鞘（さや）から抜（ぬ）き構（かま）える。

負（ま）けじと兵長は腰（こし）の剣（けん）に手（て）をかけ……。

「クソッタレがぁ！………………あ？」

　いつの間（ま）にか振（ふ）り上（あ）げられていた短剣（たんけん）を見（み）た後（あと）、兵長の視界（しかい）はゆっくりと逆（さか）さまになっていく。

ゴロン

　赤（あか）い噴水（ふんすい）を上（あ）げながら、巨体（きょたい）は転（ころ）げ落（お）ちていく首（くび）を追（お）うようにグシャリと倒（たお）れた。

「逃（に）げようとするならまだ可愛（かわい）げがあったのに……」

　血（ち）で濡（ぬ）れた短剣（たんけん）を木（こ）の葉（は）で拭（ふ）き、懐（ふところ）に仕舞（しま）う。

「悪党（あくとう）はどこまで行（い）っても悪党（あくとう）だったね」