カガリvs5人の盗賊達

「なんだありゃあ……?おい、二人逃げたぞ!狼笛ロウテキけぇっ!」

 男の指示しじけ、べつ樹上じゅじょうかくれていた男がこしけていたふえちからかぎく。


 ワオオオォォーーーーーーーーー!!


 そのふえおおかみ遠吠とおぼえのようなおととおくまでひびわたらせる。

「これでのがしはしねぇよ。それにしても、ガキ一人でおとりにでもなったつもりかぁ?」

 樹上じゅじょうの男がゆみつがえる。

「見たところ"聖法イズナ使つかい"のようだが、俺様おれさまってるぜ?聖法イズナ白兵戦はくへいせんじゃ役立やくたたずだってな!」

 男がこしからいた幅広はばひろけんをカガリにけると、ふえいた男のほかさらに二人がべつ樹上じゅじょうから姿すがたあらわした。

 三人全員が弓をかまえ、いつでも発射はっしゃできるようそなえている。

「さぁ、大人おとなしく金目かねめものいていきな!抵抗ていこうしなけりゃいたなくてむぜぇ!」

 男は典型的てんけいてき小悪党こあくとうはっするきたならしい台詞せりふをカガリへときつける。

「……よく見りゃあこのガキ、綺麗きれいかおしてるじゃねぇか?さっきの女とついでにコイツもばしちまうか!」

 ガハハと下品げひんわらいあう盗賊達とうぞくたち

背中せなか荷物にもつを置いてうつせになれ!つぎへんな動きを見せたら容赦ようしゃなくつからな!」

(とりあえず、動きやすいように背中せなかのリュックだけでも地面じめんに置いておこう……)

「……なんだぁ?うごきは素直すなおだが、随分ずいぶん反抗的はんこうてきな目をしてるじゃねーか……。自分じぶん商品しょうひんだからきずつけられねぇとでも思ってんのか!!」

 カガリの態度たいどわなかったのか、その声には理不尽りふじんつよ怒気どきふくまれていた。

「おい、やれっ」

 男が不意ふい片手かたてげると、カガリの背後はいごにあるくさむらからガサガサッと何かが動く音がした。


プシュッ


 かえると同時どうじんできたソレは、狩猟用しゅりょうようのように見えた。

「うっ!」

 それを確認かくにんした直後ちょくご、カガリはひざからくずちてまえのめりにたおれる。


「へへへ……即効性そっこうせいしびぐすりった特製とくせいの矢だ。からだのデカイ鬼馬ゴーダもすぐに動けなくなるシロモノ……ましてやちいせぇガキなんてひとたまりも無いわな!」

 ガハハとまた下品なわらい声を上げた盗賊達は、梯子はしごを使って樹からりてくる。

戦場せんじょうじゃ"百人力"とまでうたわれた聖法イズナ使いも、こうなっちゃザマァねぇなっ!」

 五人組はカガリをかこみ、足先あしさき小突こづいて動かないか確認かくにんする。

兵長へいちょう、このガキが動けない内に一発いっぱつヤッちまってもいいすかね?」

「なんか良いにおいもしてんなぁ……男所帯おとこじょたい盗賊稼業とうぞくかぎょうがこんなのいじまったら辛抱しんぼうたまんねぇ!」

「お前らは本当ほんとうに"子供こどもき"なやつらだなぁ……ま、売り飛ばす前にあらっちまえばかりゃしねぇだろう。ヤッちまえヤッちまえ」

 "兵長へいちょう"と呼ばれた男がそう言うと、盗賊とうぞくの一人はカガリの身体からだまわすように見つつ両手りょうてきかかえた。

「ふぅ!ガキはかるくてはこびに便利べんりだな!」

 盗賊とうぞくはそのままカガリの体をまさぐり、中に手を入れようと衣服いふくやぶく。

「おほっ!服を破いたらもっとあまにおいがつよくなったぞ!はやかおんでぎまわりてぇ!」

 ここで別の盗賊が何かに気付きづく。

「ん?おい、そのガキいつのにか手に矢を持ってるぜ……こんなんで抵抗ていこうしようだなんて、やっぱガキはオツムもガキだな!」

 そう言って、カガリの手ににぎられていた矢をうばおうとした盗賊の表情ひょうじょうくもる。

「なんだコイツ、矢からはなさねっ……」


 ワオオォォーーーーーーーーー!!


 おおかみ遠吠とおぼえにもたそれは、盗賊達とうぞくたち合図あいずに使われる狼笛ロウテキおとだった。

「なんだぁ?見張みはりのやつら、あんなガキ二人をのがしやがったのか」

「どうしやす?コイツしばげて俺達おれたちいやすか?」

「もう一隊、せの奴らが居るからかまわねぇよ。まんいちがしたってこのガキだけでも充分じゅうぶん獲物えものだ」

 こっちはこっちで楽しんじまおう。と盗賊達がカガリに意識いしきもどした瞬間しゅんかん

「あれ?コイツの」


 ヒュン


 カガリの目の前にいた盗賊が言葉をえるよりもさきに、閃光せんのうのような一振ひとふりが男のあたまどうはなした。


「へぁ?」

 くびとされた男をふくめた全員ぜんいんが、『なききたのか理解りかいできない』という表情ひょうじょうころがっていく仲間なかまくび見送みおくる。


 ヒュンヒュンヒュン


 つぎひかったみっつの剣閃けんせん?は、カガリをかかえている男の


 両目りょうめ

 はな

 くび前半分まえはんぶん


 三ヶ所を一瞬いっしゅんにしてった。


「こひゅぅっ!ひぁ!」

 言葉ことばにならないさけびを上げた直後ちょくご、ゴプリとした鮮血せんけつ顔中かおじゅうめる。男は傷口きずぐちを手でさえたままたおれ、のたうちまわる。

 五人のうち二人が致命傷ちめいしょうって、やっと盗賊達の思考しこう現実げんじついつく。

(このガキ、俺たちが油断ゆだんして近づいたところを"矢"でりつけやがった!)

 夕陽ゆうひ黄金色こがねいろひかかみかえべにめたカガリは、もう一本の矢をリュックから引き抜く。

「クソッタレが!めたマネしやがって!」

 吹き矢の男がもう一度カガリに向けて吹き矢を飛ばす。

 だが、そこで盗賊達のうつったのは『吹き矢が子供の柔肌やわはだはじばされる』というしんじられない光景こうけいだった。

 動揺どうようして手がふるえたのか、男は吹き矢の次弾じだんを手からこぼしてしまう。


 矢が地面じめんちるかいなかの刹那せつな


 ヒュン


 吹き矢の男の首も、胴体どうたいから切り離された。

「あと二人……。かく場所ばしょおしえてくれるほうだけをかしてあげるよ。どっち?」

 震えて立ちすくんでいる男と、"兵長"と呼ばれた男が顔を見合わせる。

「まさか両方共りょうほうとも知らないなんてこと、あるわけ無いよね?」

 "知らないならころす"と言わんばかりの言葉ことばに、震える男が手をゆっくりげようと……。

「うおぉぉぉおぉおぉ!!」

 それを見た"兵長"は剣を振り上げ、震える男の頭蓋ずがいたたった。


「俺が!俺がのこるんだ!」



 グチャッ



「俺が生き残る!」



 グチャッ



「ふざけんなクソッタレっ!」



 グチャッ



「ハァハァハァハァ……」

 震えていた男の頭からはほねのみならず、しろあかじった何か・・が飛び出ており、二、三度の痙攣けいれんて震えはえた。

「自分が生きるため仲間なかま容赦ようしゃなくころす……。下衆ゲスな盗賊らしいや」

 兵長は肩を上下させながらカガリをにらむ。

「こ、これで俺は殺さないんだよな……!」

 殺されるくらいなら一矢報いてやると言わんばかりの……まるで戦士せんしのような意志いしひとみ宿やどしている。

「……かくまで案内あんないしてよ。ボクが盗賊団を全員ぜんいん始末しまつできたらいのちまではらないから」

本当ほんとうだな!俺だけは見逃みのがしてくれるんだな!」

 命を取らないとはなした途端とたん、そのひとみは先ほど見せたものとはちがにごよどんだ眼にもどった。

「でも、途中とちゅうでボクを出し抜こうとしたり逃げ出そうとしたら……」

 手に持っていた矢をげる。

 一直線いっちょくせんげられた矢はいまだにのたうちつづける男のあごから脳天のうてんつらぬき、男はあしうでをピンとって絶命ぜつめいした。

 カガリは置いていたリュックをかつぐ。

「人を待たせてるから、なるべく早くね。"兵長"さん」

 そう言うとカガリはポン、と手で肩を叩く。


 ワオオオォォーーーーーーーーー!!


森の中に三度目の狼笛ロウテキひびいた。





~それより少し前~

「そ……ても!す……さでご……なぁ!」

 みみよこを通り過ぎるかぜおとで、灯花とうかが何を言っているか聞き取れない。

 生まれてはじめて経験けいけんする速度そくどになんとかはじめたものの、それでもまだはやく走れそうなのがおそろしい。

 更に恐ろしいのは、先程さきほどから身体からだたる木のえだ地面じめんからしのいわっこ。

 体に当たっている感触かんしょくはあるものの、いたみも無ければきずついているわけでもなく、まるですなかたまりでも蹴飛けとばすようにくだいてすすんでいるのだ。

  灯花とうかなんて木のど真ん中に突撃とつげきして人型ひとがたあなをぽっかりけたし。

 もし、この状態じょうたいで人にぶつかったりしたらどうなるのかなんて考えたくもない。

「さっき……か飛んでき……でござ……」

 かろうじて聞き取れた部分から推測すいそくするに、さっきから何かが飛んできているのだろう。

 でも当たった瞬間しゅんかんくだる。

「次……むでござ……!」

 今度は何を言っているかわからなかった。

 すると、灯花とうかは走りながら空中くうちゅう何か・・つかむ。

  その手ににぎられていたのは羽根はねが付いた矢だった。

(これも"聖法イズナ"の効果なのか?)

 無敵感むてきかん安心感あんしんかん半端はんぱない。

 だが、矢が飛んできている以上はまだ危険地帯きけんちたいなのだろう。

 走って走って走り続けないと。

 そう思ったのと同時に狼の遠吠えのような音が聞こえてきた。

 さっきから数えてこれで三回目だが、何かの合図なのだろうか?

 分からないことだらけの不安ふあん誤魔化ごまかすようにして、僕は灯花とうかあとに続いて走った。

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