第42話 嵐を呼ぶ嚆矢

「さあセンパイ! あたしを使って戦うっス!」


「わかった! じゃあ弓の姿に戻って!」


 僕が指示を出すと、イスタは『とうっ』と小さく呟き、元の弓の姿に変わった。


『出来ましたよ! なんで人間になったり弓になったりできるのかよくわからないっスけど……』


「その話はあとで説明するよ! とりあえず今はドラゴンを!」


 ドラゴンは未だに遠くで飛んでいる。イスタの能力を見るためにも、サクッと奴を倒しちゃおう!


 ……ってあれ。よく考えたら、大事なことを忘れているような。


「イスタ! そういえば矢がないよ! 弓があっても矢がないんじゃ戦えない!!」


 弓って、弦がしなる力を使って矢を飛ばす武器でしょ? だったら矢がないと攻撃しようがない!


『ここはイスタを投げつけて攻撃するというのはどうじゃ?』


『失礼な! あたしはボールじゃないっス! 投げないでほしいっス!』


「ゴオオオオオオオオ!!」


 二人が喧嘩する中、ドラゴンが僕に向かって火球を吐く。部屋の中で大爆発が起きた。とうとう壁は完全に消滅しょうめつし、部屋の床だけが残る。


「二人とも、喧嘩してる場合じゃないよ!」


『センパイ! あたしは矢を必要としないっス! だから矢はなくても大丈夫っス!』


 矢を必要としない……? いやいや、必要でしょ。何言ってるんだ?


 そこで、もしやと思い、僕は<サンシャイン>を発動した。


▼▼▼

ルカ・ルミエール レベル:83

スキル

<アーマー・コミュニケーション>

装備品と心を通わせることができる。程度は装備品に形成された人格に依存する。


装備品:

嵐弓らんきゅうツイスタリア

スキル

<インフィニティ!>

弦を引くと、風属性の矢を無限に生成することができる。

<コントロール!>

矢の速度・軌道きどうを自在に変更することができる。

<スピード!>

直線50メートルまで、0.01秒で移動することができる。

▼▼▼


「本当に矢がいらないんだ……」


 <インフィニティ!>という主張の激しいスキルの効果で、矢が無限に生成されるらしい。そりゃいらないに決まっている。


『ほう、意外と使えるスキルなんじゃの。見直したのじゃ』


『すごいですよイスタ! 何がすごいのかよくわからないですけど!』


『つまりね、イスタを使って攻撃するときは矢を必要とせず、放った矢は速度・軌道を自由に変えられる。おまけに瞬間移動もできる……興味あるわ』


 イスタのスキルが判明すると、神器ーズが彼女のことを褒める。口上こそ酷評こくひょうだったが、彼女の持つスキルは、神器級ゴッズの名前に恥じない卓越たくえつしたものだ。


『な、あなたたち、ちゃんと褒めるところは褒めてくれるっスね!? ちょっと恥ずかしいっス!』


「そりゃそうだ、君は僕たちの仲間なんだから!」


『おおおおお、言ってくれるじゃないっスか! 『パーティに吹いた一陣の風!』って感じっスね!?』


 それはちょっとよくわからないけど!


『センパイ、そうと決まったら攻撃っスよ!』


「と言われても、僕は矢とか使ったことないしなあ……」


 つい最近まで荷物持ちだったわけで、剣だってまだ慣れているというわけでもないんだけど。


『大丈夫っス! 忘れたんスか? あたしは矢の軌道と速度を自由にコントロールできるっス!』


 そうか、イスタにはスキルの力があるんだった!


「でも、そんな簡単に出来るわけじゃなくない?」


『平気っスよ! 適当でいいっス適当で!』


 この子には弓としてのプライドがないんだろうか……? 弓としてのプライドって、自分で言ってて意味わからないけど。


 ええい、ままよ!


 僕は矢を放つことを意識する。途端、僕の手を緑色の光が照らし、一本の矢が生成される。


「すごい、本当に矢が出てきた……!」


 パーティにいた狙撃手アーチャーの動きを思い出してみる。戦闘の時にいつも見学していたから、なんとなくイメージはできた。


 足を肩幅より少し広めに開いて、ドラゴンの方を真っすぐに見る。弓をセットして引き分けると、弦がぐっとしなって手に感触が伝わってきた。


 スキルの効果で軌道は修正されるらしいし、多少変な方向に飛んでも大丈夫だよね。よし、あたって砕けろだ!


 狙いを定めて弦から手を放つと、しなりが戻って矢が発射される!


 矢は緑色の光をその身に纏いながら、ドラゴンの方へ一直線に弧を描く。光の斬撃と違って、速度が落ちることがなく、威力も死んでいない!


「おおっ! 真っすぐ飛んだよ!」


『あたしが軌道修正してるからっスよ。センパイは下手くそっス』


「へ、下手くそって言うなよ!」


 しかもなんかその言い方はよくない気がする!


 矢が横面に直撃したドラゴンは、まるで顔面に激しいパンチを食らったような衝撃を受けた。


「グオオオオオオオオ!?」


 いきなり高威力の矢攻撃を受けて、ドラゴンが苦しそうに声を上げる。そんなの聞いていない、と言っているようだ。


「イスタ、あのドラゴンを倒すような決定打が欲しい! 何か方法はある!?」


『そりゃもちろん! スキルの力で威力を調整して、必殺技をお見舞いしてやりますよ!』


 よーし、イスタが言うといいイメージがわかないけど、きっと威力は高いものなんだろう! ここは信じてみるか!


「ガアアアアアアア!!」


 弓を引こうとしたその時、今度はドラゴンの口に紫色の火球が現れる。みるみるうちに大きくなって、さっきまでの赤い火球よりも二回りほどのサイズまで膨れ上がった。


「イスタ、向こうも本気を出してくるみたいだ!」


『任せてください! あたしの必殺技の方が強いに決まってますから!』


 ずいぶんな自信だな。よし、だったらやってみよう。


 僕は再び矢を生成し、イスタにセット。さっきの一撃でなんとなく感覚は掴めている。僕は息を吐き、ドラゴンに向かって狙いを研ぎ澄ませる。


『技名は<テンペスト・アロー!>っス! 間違えちゃ駄目っスよ!』


 なんで既に技名が決まってるのさ! そしてもれなくダサい!


 ああもう、それでいいや!


「『<テンペスト・アロー!>!!』」


 弦から手を放つと、矢が再び緑のオーラとともに一直線に風を切る。さっきと違うのは、緑色の光が大きく、矢自身に激しい嵐が宿っているということだ!


 ゴゴゴゴゴゴゴ、と唸るような音を出す一本の矢は、竜巻のように荒れ狂った風とともにドラゴンへ一直線に進む。


「グオオオオオオオオ!!」


 矢を脅威きょういに思ったであろうドラゴンは、激しく咆哮ほうこうして紫色の火球をこちらへ飛ばしてくる。発射の瞬間、火球は一本の円柱のように伸びて、まるで光線のようになった!


 ドラゴンが放つ光線と、イスタの風を纏った矢。両者は一直線に進み、勢いよくぶつかり合う!


『この風は、誰にも止められない!』


 イスタの言葉と同時に、矢はドラゴンの全力の光線との拮抗きっこうを打ち破る。


光線はかき消され、矢はそれを押し破るようにして前に進み続けた!


「グオッ!?」


 矢は光線を完全にかき消し、ドラゴンの胴体へ突き刺さる。その瞬間、奴の体を中心に激しい暴風が巻き起こり、15メートルはある巨体が渦を巻くようにして振り回される。


「なにこれ!? もう弓とか関係ないよね!?」


『あたしは嵐弓ですから! 風を起こすのが仕事っス!』


 竜巻に巻き込まれたドラゴンは、全身に大きな切り傷を作って地面へと落ちていく。少しして、大きな音を伴って地面に衝突して倒れた。

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