第21話 常闇の洞窟、再び!

 メイカのご両親のご厚意こういで、食事の後に彼女の実家に泊めてもらって、次の日。メイカにお見送りをされて僕たちは常闇とこやみ洞窟どうくつへとやってきた。


「ここに神器がもう一本あるんだね?」


「まだ微弱びじゃくでわからないですが……奥に進めばきっと、神器のオーラを感じるはずです!」


 リーシャは確信めいた表情で言い放つ。いったいどんな神器なんだろう。


「じゃあ、ダンジョンに入ろうか。二人とも武器の姿になって」


 僕がそう言うと、レティが背中にぎゅっと抱き着いてくる。彼女の細い腕が僕の腰に巻き付く。


「前から思ってたんだけど、そういうやり方じゃないと駄目なの?」


「……嫌?」


「嫌じゃないけどさあ……」


 レティは誰がどう見ても美少女だ。興味があることには前のめりになりすぎるところはあるけど、見た目はすごくかわいいし、こう、くっつかれると……。


「ずるいですレティ! 私もくっつきます!」


「ちょ、リーシャ!? リーシャは普通に剣になりなよ!」


 途端とたん、リーシャが僕の首に腕を回して横から抱き着いてきた! お前はやめろぉ!


これからダンジョン攻略だって言うのに、神器二人にくっつかれて悶々もんもんとしてしまった。



 前回ルシウスに落とされた穴に落ちて35層まで降り立つ。相変わらずゴミだらけで臭いところだ。だけど今日はこのクッションの上で気絶することもないし、大して臭いもつかないだろう。


『ルカさん! 一気に仲間のオーラが近くなりました! きっとこのダンジョンの奥にいるはずです!』


『リーシャの言う通りね。これは神器の感覚。興味深いわ』


 やっぱりこの奥に神器がいるってことらしい。僕はダンジョンの奥へと足を進める。


「グオオオオオオオ!!」


 あれは……最初にリーシャに出会った時に遭遇したクマのモンスターだ。相変わらず体が大きく、威圧感がある。ちょうどいい、ステータスを確認しておこう。


▼▼▼

アーマードグリズリー レベル50

特徴:皮が厚く、防御力に特化している。

▼▼▼


 このモンスター……今の僕よりレベルが高いのか。そのうえ防御力が高いなんて、僕が勝てたのが本当に謎なくらいだ。それも一撃で。


 しかし、今となってはリーシャをうまく使えるようになっているし、レティも仲間になって防御力は盤石ばんじゃくだ。アーマードグリズリーも一撃で倒す。


「もうすっかり慣れちゃいましたね」


「最初のダンジョン攻略の時にだいぶ戦ったからね。でも、気を抜かずに行くよ!」


 そこからは一層あたり30分くらいの時間をかけてズンズン進んでいった。やはり深層であるから、出てくるモンスターのレベルも高い。外の世界にいないような気色の悪いモンスターもたくさん出てくる。


 それからどれくらいの時間が経っただろうか。49層を歩いていると。


『おえええ……さっきのタコモンスター、斬った時に変な感触がしました……』


『そう? 私は初めて見るモンスターだったから興味深かったわ。なんで洞窟にタコがいるんでしょうね』


『アシッドオクトパスはタコに見えますけど、タコみたいな見た目をしたモンスターですからね。エビなんか食べませんよ!』


 リーシャとレティはこんな感じでおしゃべりを続けている。リーシャの方がモンスターに詳しくて、レティが新しく見つけたモンスターについて質問をする。


「二人とも同じ神器なのに、知ってることは別々なんだね」


『ですねー。私はモンスターについて色々知ってるんですけど、レティは違うみたいです』


『まあ別に構わないわ。知らないことを知る喜びは何にも代えがたいものだから』


 と、おしゃべりをしながらも目の前に突っ込んでくるモンスターを斬り捨てる。ダンジョン攻略ってこんなに和気あいあいとしていていいんだっけ? 少なくともルシウスたちはもっと緊張感を持って攻略に臨んでいたけど。


『ルカさん! 階段ですよ!』


 リーシャに言われて気付く。目の前に下へ行く階段があった。下は50層だから、例のごとく黒曜石で作られた茨の装飾が施された階段だ。


「この下にはフロアボスがいるかもしれないけど……二人とも、準備はいい?」


『はい! 私の力でぶった斬ってやりますよ!』


「物騒だなあ……レティは?」


『答えはもちろんイエスよ。どんな敵があるか気になっているところ』


 二人ともオッケーなようなので、僕は階段を降りる。下のフロアにたどり着くと。


「あれ……なにもいないよ?」


 50層にはただ空間が広がっているだけで、敵なんか見当たらない。かなり静かで、モンスターが隠れている気配もない。


「それっ!」


「よいしょ」


 リーシャとレティが人間の姿に戻る。この空間には僕たち三人以外に、何にもない。


「なんか拍子抜けですねえ。ルカさんに恐れをなしてしまったんでしょうか?」


「そんなわけないよ。フロアボスだよ? もしかして元から50層にはモンスターなんかいなかったのかな……?」


 部屋の真ん中まで歩いていったその時。


「どうやら、このダンジョンを踏破とうはした人間がいるようだね」


「「うわっ!?」」


 思わず僕とリーシャは声を上げてしまった。突然、部屋の中で男性の声が響いたのだ。誰かがいるのかと思って辺りを見回すが、誰もいない。


「この音声は声結晶ボイスクリスタルによって録音されたものだ。そして、この音声が再生されたということは、ここにたどり着いた人間がいるということだ」


 見てみると、水晶が光を放ちながら床に埋め込まれている。ここから音声が流れているのだ。


「誰ですか、あなたは!?」


「おっと。この音声は録音しているものだから、僕と会話をすることはできない。そこだけは留意しておいてくれ」


「ああ……ごめんなさい」


「謝っても意味ないですよ、ルカさん! 向こうは聞こえてないんですから!」


 僕の行動を予見していたのか、録音された音声に注意されてしまった。男性の声は続ける。


「時間がないから単刀直入に言おう。もし、君にその気があるなら、そこの箱に入っている神器、『朱槌しゅついヴァーミリア』を受け取ってほしいんだ」


 男性の声から、神器という単語が出てきた。

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