第2話 ミリシア王国

「まあ! 魔除けの結界師ってすごいのね」

「いやあ、それほどでも」

「ふん、戯言を。レナ様、見知らぬ者の言葉を容易に信じてはなりません」


 僕は、大きな馬車の中にいた。僕の行き先がミリシア王国だと知ると、行き先は同じだからと美しい女性が馬車に乗せてくれた。その女性は、なんとミリシアの王女だという。


 どうりで馬車が大きいと思った。それに護衛も過剰なほど多い。僕が助けなくても大丈夫だったかもしれない。


 馬車の中には3人が乗っている。僕と、王女様と、それから騎士の女性が1人だ。騎士の人はずっと僕をにらんでいる。


「あの……僕がなにかしました?」

「ああしている。レナ様と同じ馬車に乗るなど言語道断。今すぐたたき出してやりたいところだ。いつレナ様に手を出すか分かったものではない」

「そんな! 僕は手なんてだしません」

「そうよ、それに、ティルのおかげでこうして安全に移動できているのに」

「レナ様、少しは人を疑うことを覚えたほうが良いかと。魔物を退ける力など、聞いたこともありません。出まかせです」

「……では賭けをしましょう。もし本当だったら私のわがままを1つ聞いてもらいますよ?」

「いいでしょう。ならば、私が勝ったら私の言うことを聞いてもらいます」


 こうして、僕の力が本当かどうかの賭けをすることになってしまった。




 それから1か月。僕はミリシア王国の王都で魔除けの結界を張っていた。1か月の間の生活費は王女が持ってくれた。さすが王女、気前がいい。結界を張るために必要な魔石も王女が用意してくれた。高品質のかなり大きな魔石だ。オルスト王国で用意されていた魔石よりかなり高品質だ。品質の良い魔石を使ったおかげで、この1か月間王都で魔物は一切出ていない。


 今日も魔除けの結界の維持のため、メンテナンスをしに行く。高品質の魔石を使っているので、それほど頻繁にメンテナンスが必要なわけでもないが、念のため。


 魔除けの結界は効果が分かりにくい。魔石が壊されていたり、盗まれていて結界が無力化していても分からない。直接魔石を確認するしかない。


 僕は魔石を5つ使い、王都に魔除けの結界を張っている。そのうちの1つ、大きな正門の近くに置いた魔石を確認に向かう。


 魔石を確認する前に、まずは周囲に障壁を張る。魔石は高級品だ。取り出しているところを襲われ、奪われることもある。結界が無くなれば、魔物が攻めてきて自分たちも大変な目に合うというのに、魔石を奪おうとする人は多い。自分さえよければそれでいいのだろうか。


 結界を張ったところで集中する。魔石ははるか上空だ。あまり離れた位置に魔石があると、効果が減ってしまうのだが、人の手の届くところに置きっぱなしにすると、すぐ誰かに盗られてしまう。まあ空飛ぶ魔物もそれなりに多いので、上に魔石を置くのもそれほど無駄ってわけでもない。僕が集中すると、魔石がゆっくりと下りてくる。


 赤く輝く純度の高い魔石だ。……よし、問題ないな。僕は魔石を確認した後、再び集中する。魔石はゆっくりと上空へ戻っていく。


 その調子で5つの魔石すべてを確認する。うん、問題ない。そうしていつもの作業を終え、宿に戻る。すると、そこには王女に仕えていた女騎士がいた。


「すまなかった」


 突然、女騎士は頭を下げた。


「あの、なにが?」

「君の言葉を疑ったことだ。まさか、本当に魔物を退ける力があるとは」

「頭をあげてください。別に気にしてませんから」

「そうか、ありがとう。君が来てから、この街に魔物は現れなくなった。私の仲間たちが怪我をすることもなくなった。本当に感謝している。これを受け取ってほしい」


 そういうと、彼女は何やら大きな袋を渡してくる。中を見ると、金貨がたっぷり詰まっている。


「こ、これは受け取れません!」

「頼む、受け取ってくれ。それは君の給料だ。正式に、ミリシア王国で君を雇おう」

「いやでも、こんな大金……」

「我が国の防衛を思えばはした金だ。今までの魔物による被害はもっと多い。それが無くなったと思えば安いもんだ。さあ、受け取ってくれ」

「いいんですか?」

「もちろんだ。君のような優秀な人材は、好待遇で迎え入れなければ。他の国に盗られてしまうかもしれないからな」


 そうして、僕は正式にミリシア王国に受け入れられた。そして、好待遇で魔除けの結界師として働くことになったのだった。

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