魔除けの結界師、国から追放され、隣の国の王女に拾われる

セラ

第1話 追放

「ティル、キサマをこの国から追放する」

「そんな!? どうして僕が追放されなきゃいけないんですか!?」

「うるさい! この穀潰しめが!」


 贅を尽くした玉座の間に、派手な赤い椅子に座る30代中盤ほどの男がいた。王だ。王は贅沢な暮らしの為か、非常にふくよかな体形をしている。その王が僕を追放をすると言った。


 亡き父から魔除け師の結界師の仕事を引き継ぎ3年、一生懸命魔除けの結界でオルスト王国を守ってきたつもりだ。それなのにどうして……?


「追放される理由を教えてください!」

「理由だと? 自分の胸に聞いてみろ。……連れていけ」

「待ってください。僕がいなくなったら、この国の結界はどうするんですか!?」

「はっ、なにもしてなかったのによく言う。だがいいだろう、教えてやる。入れ」


 扉の向こうから、すらりとした背の高い美男子が入ってくる。


「お前の後釜の結界師だ。お前らのようなインチキ結界師と違い、ちゃんとした結界を張ることができる。見せてみろ」

「お任せください」


 そういうと、結界師は手をかざす。王はポケットからコインを取り出し、そこへ投げる。すると、コインは弾かれる。


「これが結界というものだ。なんだお前らの結界は。なにもないではないか。魔物も容易に入ってくる。あんなインチキに代々の王が騙されていたとは、とても信じられん。見事な詐欺一族だな。さあ、早く連れ出せ」

「はっ!」


 そうして、僕は兵士たちに外へ連れ出されてしまった。




「あの……一度家に寄らせてもらえませんか?」

「だめだ」

「そんな。僕の荷物を取りに行くだけです。それに、結界も張りなおさないと」

「結界? ふん、お前のインチキ結界などいらん。新しい結界師様が、ちゃんとした結界を張ってくださる。お前はさっさと出ていけ」


 どうやら、僕は荷物を取りに行くことさえ許されないらしい。兵士に腕をつかまれ、強制的に街の外まで歩かされる。このまま何も持たせてもらえず、手ぶらで国を追い出されるのか……。


 確かに僕は父に比べれば未熟だったかもしれない。しかし、全力でこの国を守ってきたつもりだ。それなのに、全てを失い身一つで国から出ていかなくてはならないようだ。


 ああ、父さん、母さん、僕の先祖の皆様方。ふがいない僕をどうかお許しください。


 そして僕は兵士に突き飛ばされ、街の外に追い出された。僕の背中に袋が投げつけられる。中にはパンと水が入っていた。


「二度と戻ってくるなよ」


 そういうと兵士は門を閉じ、街に戻っていく。このパンと水は最低限の恩情ということだろうか。


 はあ……困った。僕は物心ついたころから、父に魔除けの結界師としての修行を課せられていた。修行に打ち込んでいたせいで、他の事はほとんどわからない、魔除けの結界に関わること以外は、ほとんど何もできないと思う。この先どうすればいいのか……。


 とりあえず隣の国、ミリシア王国に行こう。もうオルスト王国に居場所はない。


 僕はゆっくりと西に向かって歩き出した。




 西に進むことおよそ7日。食料も水もとっくに尽きた。人一人おらず、隣の国の街はまだ見えない。このまましんでしまうのだろうか……。


 キャー


 そこで、人の悲鳴が聞こえた気がした。幻聴か……?


 キャー


 また聞こえた。人だ、人がいる! 僕は僅かに残っていた体力を振り絞り、声のした方へ走る。もしかしたら、水や食料を分けてもらえるかもしれない。


 声の方に近づくと、そこには大きな馬車があった。そのまわりを四足歩行の獣が複数で取り囲んでいる。魔物だ。それに対し、数人の騎士が馬車を守っている。しかし、数が多い魔物に苦戦しているみたいだ。


 よかった、魔物か。盗賊じゃどうしようもないけど、魔物なら僕でもなんとかなる。助けてあげれば、水くらいは恵んでもらえるかも。僕は馬車に近づいていく。すると、馬車を囲んでいた魔物が後ずさりし始める。


 ここまでの旅の間、僕は魔物に一度も襲われていない。魔除けの結界を張っているからだ。魔除けの結界を張っている僕が近づけば、魔物は自然と離れていく。


「なんだ? 急に魔物たちが下がっていくぞ」

「よかった。無事ですか?」


 騎士たちは突然逃げる魔物に戸惑っているようだった。


「君は?」

「魔除けの結界師ティルです」

「魔除けの結界師?」

「はい、僕は魔物を追い払うことができます。さっきの魔物は僕が追い払いました」

「はっ! そんなこと、できるわけがない。魔物が去ったのは偶然だろう。さっさと散れ」


 そういうと、女性騎士は手で僕を追い払おうとする。しかし、そこで馬車から一人の女性が顔を出す。空に溶け込むような青い髪に、青い瞳のとても美しい女性だ。


「終わったのですか?」

「はい、終わりました。どうやら我々に恐れをなしたようです。……おいお前、早く散れ」

「その方は?」

「ただの乞食でしょう。ほら、早くいかないと切り殺すぞ」

「お待ちなさい、そのように民を脅してはいけません。あなた、名前は?」

「魔除けの結界師ティルです。あの……水を分けていただけませんか? あと、ミリシアって、ここからどのくらいかかりますかね?」

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