第13話
お上は、御(おん)自ら、更衣に唐土(もろこし)の聖賢の話しについて水を向けられた。
すると、更衣は、決して、“自分の思慮は浅はかにしか過ぎぬ”との態度を守ることを、崩さないものの、その言うところは、ある種の果敢さを常に湛(たた)え、その筋道は、お上のご存念によく通ずること、まさにお上にとってよい驚きであり、“我が意を得たり”との思いを、御心にお深め参らせて止まなかったのである。
更衣は、さらにこのようなことをお上にお聞かせ申し上げた。
「孔子のお言葉はおよそ冷厳の極みでありまして、これより大なるものは無きがごとしではありますものを、やはり肝要なことは、決して孔子が晋の文公を必ずしも悪しざまに思うてはいない、ということでございます。」
続けて、
「孟子のことを亜聖などとのたまわれるお方々がおられることを、私も承知してございまして、確かにそうも言われましょうが、私と致しましては、孔子と孟子は別の道を歩まれているものと拝察致します。
孔子のお言葉は、澄んだ夜空に煌めく星々のようであります。そして、孟子は、それらを眺め得る人間の何たるかをよくお説きになっておられます。」
かようなる語りをお上はお聞きになり、暫くの間無言でいらっしゃったが、その額には、うっすらと汗をおかきになっていた。
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