第7話

弘徽殿女御というのは閑院左大臣の娘である。


閑院左大臣は関白をも任ぜられ、すなわち、この国において人臣中、最高の地位にある。


ただ、人が不思議に思うらく、彼が左大臣でしかなく、太政大臣ではないというのはそれなりの事情による。


現下、太政大臣は空席である。





この宮廷には、大きく、三つの党派が勢威を誇っている。


まず一つは源氏。


この源氏は、五代前の帝より出でたものである。


そして、藤原北家の嫡流、つまり、氏の長者の家系で、現当主が閑院左大臣である。


最後に、同じ藤原北家でも数代前に嫡流とは袂(たもと)を分かった一団である。


これは、先ごろより急速に伸長してきた党派である。


その頭目は、現在内大臣である。


第二のものと第三のものとは、元々、大して仲が悪いというのでもなく、今でも、表面上は同族の誼(よしみ)をそつなく守っている。


そして、一族に寇(あだ)なすと思われる者には、暗黙的に、彼ら“総出”で、それらを追い落とそうとする気概が、まだ、彼らの底流に潜在しているとの見立てが、この宮廷からは消え去ってはいない。


そんな中で、高々五代前の帝より出でた源氏が、現在の宮廷で雲霞のごとく 跋扈している藤原北家の面々の横槍にめげず、ほぼ第一の格をいまだ確保できているというのは、どういう訳であろうか。


源氏というのは、その出で来た帝との関係が近ければ近いほど尊貴ではある。


けれども、その分足場は弱い。


彼らの足腰が十分備わっているか(いないか)を見極めることは、この宮廷における重大な関心事の一つである。


これを見誤り、軽挙妄動に走るということは、各勢力にとり、両刃(もろは)の剣になりかねないことなのである。


そのような源氏にあって、前(さき)の長者は、父、祖父の代にまして、栄華を恣(ほしいまま)にしていたところが、あることで当今(とうぎん)のお怒りに触れてしまい、関白太政大臣の地位を奪われ、また、都の条里の内にあることを許されず、都の西郊にあったひなびた寮に侘び住まいする身分となって、すぐ、帰らぬ人となってしまったのであった。


そのお子がたで、男子である者は皆、年若く、これらをよく後ろ見できる者が一族に中々見つからなければ、源氏の勢力は、それだけで言えば、もはや衰退の一途と目されて間違いはなかったのである。


けれども、前の長者の姫君が、すでに中宮として後宮にお入りであって、かつ、男宮三名、女宮一名をお産みになり、どのお方もご存命であるうえは、誰も、源氏が“これで終わりだ”などと考えなかった。


ただ、男宮は、一様に、外祖父の不手際の煽(あお)りを食った。

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