卵一パック218円
とっぴんぱらりのぷ〜
第1話 プロローグ
ふと思う。『僕が生きている意味はあるのだろうか?』自分の名前も歳もわからない。物心がついた頃には、父親と思われる男から虐待を受けていた。そいつは出て行ったが、今度は母親と、入れ替わりの激しい彼氏からの虐待が続いている。
中にはいい奴もいた。飯をくれたりゲームを買ってくれたりしてくれた奴もいた。だが、今目の前でテレビを観ている男は今までで最悪だった。
「おい、クソガキ。氷持ってこいや」
言われたとおりに冷凍庫から氷を持ってきて、男のそばに置く。言われたとおりに氷を持ってきただけなのに顔面を殴られた。
「氷言うたら炭酸水ももってこんかい!しばくぞコラッ!」
すでにしばかれているけど突っ込むことはできず、無言のまま鼻から垂れる生温かいものを必死に片手で押さえながら炭酸水をとりにいく。また殴られるかと思ったが、そんなことはなく、男はテレビのサッカー中継に夢中になっていた。
男がテレビに夢中になっている間に、鼻血で汚れた手を洗い、ティッシュを詰め込む。そしてまた部屋の隅で待機する。
「あーーー!!なんでそこで倒すんや!アホちゃうか!?」
「く、くっ……」
まるで猿のようにキーキー騒ぐ男が可笑しくて笑いを堪えるのに必死になる。聞こえていないのか、泣いているとでも勘違いしているのか、男は気にもせずキーキー騒いでいる。
「だから言ったやろっ!なに決められとんねん!」
どうやらPKか何かでゴールを決められたらしい。テレビの中の勝ち負けなんか関係ないが“ざまぁ”と少しだけいい気分になる。
「てめぇがそこで騒いだって結果はかわらねぇだろ……バカか?」
わざと聞こえるくらいの声量で呟く。どうせ殴られようが蹴られようが恐怖も感じなければ痛みにも慣れている。
そしてなにより……
『もう死んでもいい』と思っていた。
「あ゛?今なんつった?」
「……」
「なんだぁ!?ビビってんのか!?しばくぞコラ」
バカの耳にもちゃんと聞こえてたようだ。こんなガキ相手に鬼のような形相で睨みつけてくる。別にどうでもいいので無言で睨み返す。どうせ泣こうが謝ろうがサンドバックになるのは変わらない。
部屋の角だとやりにくいと思ったのか髪を引っ張って転がされた。サッカーの影響だろうか、身体中を蹴られまくる。
「クソガキがっ!誰にもの言ってんじゃコラ!しばくぞ!」
「もうしばいてるじゃねぇか……それもわからないとか、バカか?」
僕の口答えに完全にキレたらしい男が容赦のない蹴りを浴びせてくる。防御姿勢もとらず声も出さずに、只々蹴られていた。
「死ねやクソガキ!」
髪を引っ張り無理矢理立たされたところに留めとばかりの回し蹴りが放たれる。ボキッっと左腕の骨が折れるような音がして、壁まで吹っ飛んだ。
「ふぎゃっ」
いつも声を出さないようにしていたのに、激突の衝撃で声が洩れてしまった。
「ギャハハハ!んだそれ!?カエルかいな!?だったらカエルみてぇに這いつくばってろや!」
そういうと、男は俺に興味を無くしサッカー観戦に戻っていく。散々蹴られて骨も折れたっぽい。痛いのはどうでもいいが、壁にぶつかってから息がしづらい。これは死ぬかもしれない。
絶対に声を出すまいと、部屋の隅で蹲り呼吸を整えようとした。何度も意識が遠のくが必死に耐えた。
どのくらいそうしていたかわからない。数時間?数分かもしれないが不意に頭を叩かれたことによって目を開ける。
「てめぇ、涼介に生意気な口聞いてんじゃねぇよ!」
どうやら母親に叩かれたようだ。まともに息もできず意識もハッキリしないが、それでも精一杯の抵抗のつもりで目の前の母親を睨みつけた。
「なにその目……。ちょ、なにこいつ。顔真っ黒じゃん。やばみじゃん?」
「あー、ちょっとやり過ぎたかも知れへんわ。骨も折れてたしな?」
男が『どれどれ』といった様子で顔を覗き込む。
「うわっ!きっしょ!これヤバイんちゃう?死ぬんちゃう!?さすがに死んだらマズイんちゃう!?」
男が焦り出すのが声の震えでわかった。焦り出す男に母親は笑いながら一言。
「殺そっか?」
別にどうでもよかった。いつかはそうなると思っていたし、母親とか家族とかよくわからなかったし。
「おまっ、殺すって、それはさずがにマズイやろ!?すぐバレるって!」
壊すまで遊んだくせに小心者だな……と内心で笑っていた。息ができれば腹を抱えて笑っていたかもしれない。
「大丈夫よぉ。だって、コイツ出生届出してないから。親にも見せてないし部屋から出したことないし、埋めちゃえばわからないって」
「はぁ!?マジで!?お前めっちゃ鬼畜やな?埋めるとか無理やわぁ」
「えぇ!?涼介がやったんじゃん。そのくらいはやってよぉ。アタシが首絞めてあげるからさ」
「ちゃうちゃう。そんなことやないって。山とか虫ごっつおるやん。埋めるんやなくて海か川にせえへん?って話」
「それもそっかぁ。涼介冴えてるぅ!」
カスどもが……。僕は最後の力を振り絞り立ち上がった。
「お?なんやねん。動くんかい?」
そのまま走り出し、部屋の窓を突き破った。その瞬間の二人の「「あっ」」という間抜けな声が愉快だった。
誰がお前らなんかに殺されてやるもんか。
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