第29話

❝どうしたん?❞

❝なんもないことないやろ?❞

❝帰って来てない間どうしてたん?

体もしんどいし、できるなら帰ってきて布団で寝なよ❞


私は15年間ずっと

レンがお風呂に入らずに

髪にワックスもベタベタについて

仕事帰りで臭いまま

布団に入られることが許せなかった

なんで毎日お風呂に入ることがそんなに億劫なのか

私には分からなかった

でも

毎日どこで寝てるのか分からないが

家に帰って寝れないのは

しんどいだろうなと心配していた


だから本当は嫌なことに変わりはないけど

疲れもとれないだろうから

そのままでもいいから

帰って布団で寝ることをすすめた

私がいることが嫌なら

寝てる間でも私が仕事に行ってからでもいいよと


レンはただ静かに元気もなく

❝うん……❞

と頷いていた



そんな上辺なことだけ話していても

結局なにも分からない

また一緒に住む気があるのかも分からない

私は意を決して……


❝レンとやり直したいと思ってたからこの前言わなかったけど

本当はずっと不倫してること知ってたし

相手の顔も名前も知ってる……

その子と何かあったん?❞


って聞いた


レンは驚いていたけど

もう何もかも知ってそうな私をみて

諦めたのか

少しだけ話してくれた


レンの口から事実を聞くのは辛かったけど

本当のことをちゃんと知りたいと思っていたから

よかった


不倫をしていた夫なのに

何が良かったのか

分からないが

その時はよかったと思えた


もうあつきとは終わったから

連絡とることもないと思う


とレンに言われた



仕事前に一緒に昼ごはんを食べたり

仕事終わったあとご飯食べに行ったり

ホテルに泊まったり

毎日長電話したり

ツーショットのひっついた写真を撮っていたり…



レンは全てを話さなかったけど

私が知っていることは沢山あった



その子と終わったせいで

こんなにしんどくなってるのではないと言われた



嘘だ



そう思ったが

とりあえず黙って私は聞いていた


❝初めて死にたいと思った

何もしたくなくて

このまま消えたいと2日間ほど思った❞


そうレンは私に言った

とても辛そうに……



私は❝大丈夫?❞って心配そうに聞いてはいたが

本心は今すぐ刺してやろうかと思うくらい

腹が立った


帰ってこずに連絡さえとれないレンに悩み

それでも3人の子供たちの育児

仕事に家事…

そして不倫していることを知り

私がどんな気持ちで生きてたか!

その間勝手に何も協力もせずに

家が嫌だと女をつくって

家族を放置して楽しんでいたくせに!


女とおわったことが関係ない、なんて

嘘もいいところだ



レンがこの先どうしたいのか分からないまま

子供たちが起きてきて

私は朝の準備に追われた


その間

私はレンの不倫を怪しんだ頃から

書いていた日記を

レンに渡した

❝これはナナの本当の気持ちがかいてあるから

手紙じゃないからイライラしたこともかいてあるけど

ナナの気持ちの全部だから……よかったら❞



その日記を読みながら

レンは大号泣した

私はどういう意味で泣いたのか分からなかった

何か心にささるものがあったのか…

私のことを少しでも考えてくれたのか…




涙の意味がどうであれ


自分から私と距離をつくり突き放して

子供たちのことも放置して

振り回されているのは確かなのに

それでも私はレンが帰ってきたことが嬉しかった



結局私はレンとやり直したい…


まだそう思っていたから

いつもより早く子供たちを送り

出勤前にもう少し話す時間を

私は一生懸命つくった



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