第5話 不安な気持ち

近所のスーパーの閉店時間も近かったので、とりあえずは簡単にパジャマや替えの下着だけを持って、急いで戻ることにした。

あまり食生活を変えることのない両親の朝ご飯に入用なものを思い浮かべて少しだけ食材を手に取り、自分たちの分は最小限──デリカッセンコーナーでわずかに残っていたお弁当を二つとおかずをいくつかカゴに入れ、晩酌する気はあまりないかもしれないが、念のためにビール缶と小さな日本酒のビンをつけ足して会計を終える。

美由紀の長い実家暮らしの中で、母のいない光景はあまり思い浮かべられない。

たまに旅行で家をあけることはあったけれど、それだって父と一緒の時が大半で、美由紀が高校を卒業するまではそれすら無かったのだ。


どこに、いるんだろう?


「え?」

夫が聞き返してきて、美由紀は赤面した。

声に出したつもりはなかったのに、思わず零してしまったらしい。

「……大丈夫ですよ」

ガサガサとビニール袋に手際よく買ったものを詰めながら、幸一はそう言った。

「ほら、ひょっとしたらサプライズでお友達がお誘いに来たとか……お義父さんだって、たまにお出かけしちゃうでしょ?」

「お父さんとは違うわよ」

美由紀は思わずため息をついた。

母が今いないことはともかく──父の友人たちの『サプライズお誘い』はほとんどが突然の飲み会で、そんなに褒められた理由ではない。

「ひとりで待つお母さんを放っといて飲み歩いて……もしお母さんがそんな気晴らしに出かけたんだとしたら、逆に拍手喝采してあげるわ」

実際、母はどこに出かけるにしても、いちいち父や自分に向けて行先やおおよその帰宅時間を書き残している。いや、いた。

まさか物忘れが始まったわけではないだろうと恐れつつ、美由紀がいつもメモを見つける定位置には、母からの外出メモはなかったのだ。

メモもない、家の電気も点いていない、そして居るはずの母もいない──そのことだけでも、美由紀に不安と微かな苛立ちと心細さを抱かせる。

「………うん?」

自分の胸に湧く感情に引っかかるものを覚えて、美由紀はまた呟いた。

不安──は、わかる。どこに行ったのかもわからないのだから。

苛立ちは、母にというよりも、今の状況がわかっているんだかわかっていないんだか、それこそわからない父の方に向かっている。

でも『心細い』って───?

もう小さい子供じゃないんだから。

なぜそう感じたのかわからないけれど、そんな自分を笑ってしまおうと唇を歪めると、笑い声を出す寸前で美由紀の指がギュッと強く握られた。

「大丈夫」

ちょっと震えているような、でも言い聞かせるような口調で、幸一は美由紀の方にしっかりと顔を向けて宣言した。

「大丈夫。お義母さんは大丈夫。ちゃんと見つかりますよ。すぐ帰ってきますから」

「そ……」

そんなこと、わからない。

そう言おうとして、美由紀は言葉に詰まる。

わからない。

わからなくてもいいから。

わかりたいから─────帰ってきて。

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