チヒロ、女子グループに参加する

 プールの帰り道。

 二人は手を繋いで歩道を歩いていた。


 チヒロはナツキの精悍な手の感触がとても心地よく感じた。


「かなり僕の彼女っぽくなってきたね」 


「そう?」


「うん。一気に女っぽくなった」


「自分が女だって、嫌ってほど思い知らされたからね」


「嫌?」


「んー……嫌ではないか。

 ちょっとだけ心地よく感じてる自分がいる」


「素直じゃないね」


「元男子としてはかなり素直だと思うけどね」


「無意味なプライドなんて捨てちゃいなよ。

 そこからが本番だよ?」


「なにそれ?」


「チヒロが、前向きに女子始めてくれて嬉しいってこと」


「ふーん」


「愛してる」


「……ばか、不意打ちとか何考えてるの?」


「感触ありだ。

 乙女成分増えてきたね。

 いい感じ」


「もう……。

 すこし背が伸びた?」


「確かに目線が変わったね。

 お互い逆方向に急成長中だから余計に感じるかもだね」


「抜かれてるよね?」


「うん。もう僕の方が高いと思う」


「今週いっぱいくらいは水着持つかな?」


「僕は大丈夫そうだね」


「僕は?」


「チヒロは、バストがどれくらい成長するかだね」


「そっちか。パッドの分だけ成長しちゃったらもうアウト?」


「少しは余裕があると思う。

 でも、気をつけておいた方がいいね」


「そっか」



……



 グループデート初日。

 皆は、プールのロビーで待ち合わせをしていた。

 

 ナツキとチヒロは、別の場所から様子見をして、皆が揃ってから合流することにした。

 個別に同じことを説明させられても面倒だからだ。

 ミコト達には連絡済みである。

 予定では、ナツキとチヒロを含めて、男女5人ずつの計10名も集まることになっていた。

 男子は、ミコト、イツキ、リョウ、レイ、女子は、ミサキ、カエデ、シノ、ミカだ。

 暗黙の了解があり、男子は、下の名前で全員呼び捨て。

 女子は、男子には下の名前に君づけ、女子は下の名前で呼び捨てすることになっていた。

 チヒロも女子グループに入る以上は、例外ではなかった。

 

 すでに全員集合していたが、男子チームと女子チームは別れて作戦会議のような感じになっていた。

 固定メンバーはミコト、イツキ、ミサキ、カエデ、シノの5名と言うこともあり、事前に暗黙のルールを伝えておくことになっていたからだ。

 チヒロも以前は固定メンバーの一人だった。


 ナツキとチヒロが、みんなの前に姿を表すと、皆一様に驚いた表情になった。

 面影はあったが、身長も体型も性別も大きく変わってしまっていたからだ。


 ナツキは恥ずかしがるチヒロの手を引いて、ミサキ達女子グループに連れていったあと、男子グループに合流した。


 ナツキは男子で一番背が低かったが、とくに気にすることもなく、堂々と合流した。


 チヒロは、こわごわ、女子グループに合流した。


 ミカが言う

「チヒロ、よろしく」


 シノが言う。

「ヤッホー、チヒロ。

 よろしくね」


 カエデが言う。

「チヒロ可愛いね。

 完全に女子じゃん」


 ミサキが言う。

「よろしくね、チヒロ。

 ナツキくんから話は聞いてる。

 チヒロは、元固定メンバーだから、ルールは大丈夫だよね?

 全員の名前言ってみて」


「ミコトくん、イツキくん、リョウくん、レイくん、ナツキくん、ミサキ、カエデ、シノ、ミカ」


「大丈夫ね。これからは女子としてよろしくね、チヒロ」


「うん。よろしくね、ミサキ」


 女子チームでは、身長は、チヒロが一番高く、ミカ、カエデ、ミサキ、シノの順だった。ただし、ミカとチヒロの目線は、あまり変わらないレベルだったので、身長が高すぎて目立つことはなかった。

 

 サブリーダー格のカエデが言う。

「チヒロとミカが初めてだから伝えとくね。

 ミサキはミコトくん、私はイツキくん狙いだから、空気読んでね。

 ナツキくんとチヒロは付き合ってるからそれも外してね。

 私からは以上かな」


 ミカが言う。

「わかった。リョウくんとレイくんか。シノはどっち狙い?」


 シノが言う。

「まだ決め兼ねてる」


 ミカが言う。

「そっか、じゃ、4人で遊ぶ感じ?」


「ナツキくんとチヒロが初参加だから、6人でいいと思うよ。

 ただ、ミコトくんが、男子みんなと遊びたがるから厄介なのよ」


「そうなんだ」


「カエデとイツキくんみたいに二人の世界作ってくれれば良いのだけど」


 チヒロが言う。

「私は、ナツキくんとすぐ離脱するから大丈夫だよ」


 シノが答える。

「チヒロは気にしないでいいよ。

 初参加なのだし、一緒にあそぼ?

 彼氏とは二人っきりで遊んでるのでしょ?」


「まぁ、そうだけど、いいの?」


「もちろん。問題はミコトくんだけだから」


 ミサキが言う。

「そろそろ時間だから、入場しよ」


 女子チームはロッカールームへ向かった。


 チヒロが着替えていると、隣のミカが話しかけてきた。

「ねえ、チヒロ。リョウくんとレイくんどっちがいいと思う?」


「うーん、そう言う視点で見てこなかったからわからないかも。

 でも、一緒に遊んで気が合う方でいいんじゃない?」


「そっか、そうだよね。

 でもシノはどっち狙いなのかな?

 よくわからないのよねーあの子」


「本当に決め兼ねているのかもね?」


「かなー?

 まぁ、気が合う方にアプローチしてみればいっか」


「うん」



 着替え終わり、プールに向かうと、男子チームが楽しそうに遊んでいた。


 イツキが女子チームに気づきみんなに合図して、女子チームのところへあつまる。


 イツキとカエデは、そのまま二人で何処かへ行ってしまう。


 ミコトがチヒロと話したそうにしているのがわかったので、ナツキが、チヒロの手を握って、離脱しようとする。


 そこに待ったをかけたのがシノだ。


 初めてだから一緒に遊ぼうと主張するのだ。


 気がついたら、ミカが、レイとリョウの3人で遊びに行ってしまっていた。


 結局、ミコト、ミサキ、ナツキ、シノ、チヒロの5人で遊ぶことになった。

 

 チヒロはとても気まずくで、胃が痛くなりそうになった。


 シノが言ってたミコトが問題という意味がわかった気がした。


 と同時に、リーダー格のミサキが奥手すぎるのが、妙に焦ったく感じた。


 ミカが言うように、シノが何を考えているのかも、よくわからなかった。

 グッドタイミングで抜け出そうそしたナツキのファインプレーを、シノが潰してしまったのだ。


 ナツキが抜け出すタイミングを伺っているのはわかったが、シノが牽制しているようだった。

 

 チヒロは、ミサキの様子を伺いながら、どうしたらいいのか考えていた。


 しかし、チヒロは、急な体型の変化で体力がないこともあり、気を使いすぎて疲れてきたので離脱して、休憩させてもらうことにした。


 チヒロは日陰のベンチにグッタリと寝転んだ。

 

 ナツキがチヒロに合流してきた。


 チヒロは起き上がり、ベンチに座る。

 その隣にナツキが座って、冷たい飲み物の入った紙コップを渡した。

 チヒロはナツキに寄りかかる。


「大丈夫?」


「ありがと。なんか疲れた」


「あはは。あの3人には困ったね。

 男子として関わる分にはとくに気にすることは何もないのだけどね」


「シノは何がしたいの?」


「3人になると自分だけがミサキの邪魔してる感じになるから、それが嫌なんじゃない?」


「ミサキがダメすぎるよね?

 ミカを見習うべきだよ。

 てかさ、シノはミカと合流すれば良いだけじゃん」


「あはは、そうだね。僕とチヒロが抜けて結局そうなったよ。

 シノは、レイもリョウも好みじゃないのかもね……」


「ミコトくんは誰が好きなのかな? 考えたことなかったよ」


「ミコトはみんなと仲良く楽しみたいだけなんじゃない?

 かわいそうだけどミサキは脈なしだと思うよ。

 一番そばにいるはずなのに、ミコトは振り向かないしね。

 見た感じ、ミサキと二人きりになるのを避けてる気がする」


「だよね?

 この数週間でなにかあったのかな?

 私が男子だった時って、あそこまで露骨じゃなかった気がするけど……」


「んー、チヒロが抜けちゃったくらいじゃない?

 ミサキが告るとかまずないだろうし」


「んー、私がミサキと居ようとすると、ミコトくんとシノが漏れなくついてきて安定していた気はする」


「チヒロは結構重要な役回りだったのかもね」


「そうなのかな?

 でも、それだけのために固定メンバーにされていたというのは理解できた。

 夏が終わるまで引きこもりしていたい気分」


「女友達つくらないとだめだよ」


「むりだよ……、ミサキとカエデは威圧感があってかなり無理。

 シノとミカは優しいから大丈夫なきもするけど……」


「ミカは多分、今日彼氏ができちゃうから難しいと思うよ。

 彼氏ができたら、このグループからも抜けちゃうと思うし。

 それにミカはかなり自分本位だから、やめといたほうがいいよ」


「そうなの?」


「会話が成立しているようにみえて成立しない感じって言えばわかる?」


「あー……、わかるような気がしてきた。

 じゃ、シノ?」


「うーん。今のところは一番安心できるか。

 シノを連れてくるね」


 そういうと、ナツキは立ち上がって、シノを探しに行った。


「チヒロ、隣いい?」

 ミサキだ。


「うん。

 一人なの?

 ミコトくんと一緒じゃないの?」


「ミコトくんは、ミカ達に合流しちゃった」


「そっか」


「チヒロはすっかり変わったね」


「あはは、不本意ながら……」


「でも、可愛いと思うよ」


「ありがと」


「私のグループから抜けないでね?

 固定メンバーだと思ってるから」


「……うん」


「よかった。心配してたんだ。

 あとで……」


 ナツキが戻ってきた。

「おまたせ、チヒロ。

 あれ? ミサキも一緒だったんだ。

 僕の彼女をいじめちゃダメだよ」


「話してただけだよ。

 いじめてないから」


 ミサキは立ち上がると、ミコト達の方へ向かって歩いて行った。

 ナツキはチヒロの隣に腰を下ろす。


「たすかった。ありがと」


「何言われたの?

 もし、女子のグループチャットに誘われたら絶対断りなよ。

 チヒロじゃストレスにしかならないから」


「わかった。

 グループから抜けないでって言われてただけ、

 でも、なにかに誘われそうな雰囲気だった……」


「チヒロの様子見て途中で引き返してよかった。

 うーん、体調悪いからって、先に帰っちゃう方が良さげだね。

 チヒロにはミサキのグループは無理だね。

 帰りとかにロッカールームで女子だけの集まりとかに誘われたら断れないでしょ?」


「そうかも……。

 ミサキには悪いけど、あの雰囲気は無理だ。

 引きこもりたい。

 学校もいきたくない」


「帰り支度して、ロビーで待ってて。

 僕は話つけてから合流するから」


「わかった。

 任せてばかりでごめんね」


「気にしないで。

 無理させてごめんね」



 チヒロは、女子ロッカールームに戻ると、身支度をして、ロビーへ向かった。


 ロビーにはすでにナツキが待っていた。


「あれ? 流石に男子は着替えが早いね……」


「うん。じゃ、帰ろっか」


 ナツキがチヒロの手を握る。

 チヒロはナツキに身を寄せる。


「ほっとする……ナツキ最高」


「あはは。嬉しいよ」


 すでに身長差が開き始めた二人は、どこから見ても男女のカップルにしか見えなかった。

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