第四百四十二話 兵士達が帰還する時

「そうね、私達は勝ったのよ。

星間連合の部隊はこの場に残っていないわ」


女性兵士も軽く息継ぎをし、少し間を開けて呟く。

その声からは安堵と、微かな喜びがこもっていた。


「ああ、たった一回の勝利でも意味は大きいはずだ。

あの子にも感謝しなければな」

「そうですね、あの子の力も加わったからこそ、

私達は今回勝つ事が出来たんです」


背後に待機していた戦艦に乗っていた防衛部隊の隊長も、

今回の勝利で肩を撫で下ろす。

更にその表情も作戦中の顔中を中心に寄せた硬いものから

徐々に柔らかいものになっていく。


「では本部に帰還しましょう。

忘れているかも知れませんが、今回の一件で資材発掘場所も確保したんです」


最初の兵士が手元の操縦桿を動かし、

先程の急な移動とは全く違う、少しずつの優しい動きであった。

それを空の上から見ていたアデルやライト達もどこか安心できる、

そんな穏やかさがあった。


「彼等が無事に勝利してくれましたね。

そしてこれでアデルさんの心配も払拭されたのでは?」


その一部始終を見ていたアップルがアデルに問いかける。

そのアップルの言葉に対し、アデルは穏やかな笑みを浮かべていた。

周囲から見てもその表情だけで何が言いたいのかは分かる、

そう思っても不思議ではない屈託のない笑顔だ。


「ええ、皆さんの技術を知らないわけではありませんが、

それをどこまで扱えるのか、その部分はやはり不安でした。

ですが今回の戦いを見て、それが徒労でありましたね」


その笑顔を崩さないまま、アデルはライト達に対して屈託ない笑顔を向ける。

その笑顔が伝染したのか、見つめ返すライトの顔も自然と笑顔になっていく。


「兵器が全て戦艦に帰還しましたね。

だとすればもう間もなく本部に戻ってくるでしょう」


側近の兵士がそう呟くと同時に戦艦は移動を始める。

その速度は早く、ほんの数分で一同が今いる本部へと帰還してきた。


「しかし、本部の見た目も外から見ると改めて、

この数週間で随分変わったと改めて実感しますね」

「ずっと見慣れていた外見が変わるのはやはり複雑な気持ちですか?」

「ええ、必要な事だと分かってはいるのですが」


外見をみた側近の兵士がふとその心境を呟く。

表情から他意は無いのだろう、だがその言葉は

どこか懐かしいものが無くなる様な寂しさを感じさせた。


「今はああいう形になっていますが、

最終的に見た目は以前の物に近い物にしたいと思っています。

異性連合の目を欺く為にも」


兵士の寂しさを察したのか、ライトはこう呟く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る