第二百九話 獣人が目を覚ます時

「これは……確かに不自然ですね。

直前まで何の異常も感知されていないのにいきなり倒れ込んでいます」

「ええ、私達もこの時は一体何が起こったのか分からなかったわ。

だけど今更後に退く訳には行かない、だから危険を承知でこの力を使い続ける事にした」


データを見たアデルの問いかけに対しミスティが当時の状況を説明する。

そして今更戻る事が出来ないという事も。


「皆さんの決意に対して僕は何かを言うつもりはありません」


ミスティの発言に対してアデルはこう返答する。

それは自分が何かを言ってもミスティ達の決意が揺らぐ事は無いだろうという思いからでもあり、又自分もその立場であればそうしただろうという考えからでもあった。

だがその内心は彼等を応援する気持ちがある一方で


「だけどあの水晶、何故だろう。

初めて見たと言う気がしない……僕の深層心理の奥底に何か沈んでいる様な、そんな気がする……」


と言う新たな疑念も抱きながら先程の部屋の中で見た水晶の事を思い描いていた。

その様子を察知したのか、エリーが何かを言い出そうとした矢先に高御の手元にある通信機に通信が入ってくる。


「どうしたの?」


高御が応対すると通信機から


「皆様、獣人のお二方の意識が戻りました。

会話も問題なく行えています、支給医務室まで!!」


と言う声が聞こえてくる。


「分かった、アデル君、申し訳ないけど……」

「承知しています、僕も同行します」


獣人の意識が戻った事を聴いた高御がアデルからの質問を打ち切ろうとするとアデルはその事は分かっていると言って同意し、それを確認した一同は即刻医務室へと向かって行く。

そして医務室に着くとそこには医務員と件の獣人がおり、医務員は一同に獣人の姿を見せる。

その獣人は二人共俯いており、明らかに何も話したく無いといった雰囲気を醸し出していた。


「ねえ、君達は何者なの?」


同じ来訪者であるが故なのか高御達よりも先にアデルが問いかけるが高御は


「僕達はESB、僕が代表者の高御だよ」


とアデルを静して自ら先に名乗る。

それを見たアデルは何かを察し、自らの行動を恥じるかの様な表情を浮かべる。

しかし一方の獣人達は何も答えようとしない。


「何か言えない、あるいは言いたくない事情があるの?」


高御が尚も問いかけるが獣人達の対応は変わらない。


「高御……」

「仕方無いね……ここは……」


心配そうな声を出すミスティに対し高御も分かっているといった印象の声で答える、だがそれを聞いた獣人達は


「あ、ああっ……」


と先程までとは明らかに違う声を上げる。

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