第百六十五話 各国が物資を配付する時(中編)

西欧地区と同様、複数の異なる世界が同時に囲まれている中東地区であるが、その物資の受け渡しは異様な程淡々とした空気の中で行われていた。

差し出された物資をただ黙って受け取るだけであり、周囲の住民同士も受け渡しの職員も共に会話をする事は無い。


「相変わらず生真面目と言うか物静かと言うか、それとも他者への不信感が強いと言うか、これだけ無口で何事も無く物資の受け渡しが進行しているのが不思議ね」


受け渡しをしている近くを通りかかった少年と少女のペアの内、少女の方がふと高発現すると近くに居た職員は


「そういう貴方は何者なのです?見た所我が国の国民の様ですがそうであるならば今我が国がどういう状況にあるかはご理解頂けますでしょう?」


と返答する。

その表情は穏やかな風に見えるがその内心が明らかに苛立っているのは明白であった。

声の音程に明らかに棘が感じられた方だ。

それ故なのかその職員は


「そちらの方は我が国の民ではない様ですが何故この状況で此処におられるのです?

他の国よりも自分の国を守られるのが先決では」


と行動を共にしていた少年の方にも問いかける。

然しその言葉は明らかに内心に苛立ちを感じており、それ故かやや突っかかっている感があった。


「その心配は無用ですよ」


その少年はその苛立ちに気付いていないのか、それとも気付いてはいるものの何処かはぐらかしているのか軽めの返答を行う。


「無用とはどういう意味なのですか?」


職員が尚も苛立った声で問いかけるとその少年は


「今頃は僕の祖国でも物資の受け渡しが始まり、皆さんがそれを使いこなす為の努力をしている筈ですから」


とこれ又軽い口調で返答する。

その返答に対し職員は


「ですから貴方はそこに加わらなくても宜しいのですか?全く未知の宇宙人という驚異を目の当たりにしてそこまで余裕綽々で居られるとは思えませんが?」


と苛立ちが隠れなくなってきたのか若干毒気づいた口調で話す。

それを聴いた少年は


「加わらないも加わるも僕と彼女は既に加わっているよ。

それもこの国だけじゃない、世界中を守り抜く為の戦いにね」


とこれまで特徴は変わらないものの、何処か意味深な返答を行う。

その返答に引っかかりを覚えたのか、職員が


「それは一体どういう意味なのです?」


と問いかけると少女は


「どうもこうも、こういう意味になるわ」


と言って手に何かを握りそれを職員に対して見せる。

職員がそれを覗き込むとそこには


「ESB所属隊員、ニーナ・ラスナ……え!?」


と驚くべき名前が記載されていた。

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