第六十話 逃走者に追いつく時

すると周囲に居た獣人が 


「ええ、ですが一体だけ取り逃がしました。

今彼が一人で追跡しています」


と状況を説明する。

すると神楽は


「彼……彼と言うと……」


と少し困惑した表情を浮かべる。

最もこの状況で彼と言われて困惑しない方が珍しいが。


「申し訳ございません、この人物です」


その困惑を察したのか獣人は手元に端末を取り出しそれを操作して神楽に追跡にあたった人物の画像を見せる。

それを見た神楽は


「成程、彼が向かってくれたのか……まあ、何で此処にいるのかと言う疑問はさておき、大丈夫だとは思うけど身柄拘束と万一の事態を想定して私も追跡した方が良さそうだね」


と話す。

それを聞いた獣人は


「私達も向かいます、ですが全員で向かう必要は無いでしょう。

貴方達は此処に転がっている奴等の身柄を拘束して引き渡して、くれぐれも取り逃がさない様にね」


とその場にいる数名に対して指示を出す。

すると指示を受けた面々は首を縦に振って頷き、その場に倒れている怪物達の身柄を拘束し始める。

一方神楽と残る住民達はその場から駆け出し、戦場から逃走した怪物とそれを追跡している人間の後を追う。

一方、戦場から離脱した怪物は


「へっ、此処までくりゃ目的の施設まで……」


と言いながら海沿いの道路を走っていたがその目の前に


「一直線だって言いたいの?だから甘いんだよ」


という声と共に先程まで怪物を追跡していた人間が姿を表す。


「つっ、貴様……先回りしてきたのか!!」

「その程度の知恵も働かないの?やはりあんた達は彼等とは違う、只喋るだけの獣だね!!」


少し困惑した表情を浮かべる怪物に対し人間は怯む事無く啖呵を切る。

それに対して怪物が


「ええい!!煩い!!元はと言えばお前達が……」


怪物はそう言いながらも突進しその先に向かおうとするが当然人間がそれを見過ごす筈もなくその足を引っ掛けて転倒させ、地面に体を擦り付けさせる。


「お前達がしようとしている事は何れ崩壊していたさ!!全世界共通の物など存在しないのだから!!」


人間が強い口調でそう告げた直後


「ねえ、久し振りに私にやらせてくれない?」


という声が聞こえてくる。


「貴方が?こんな奴相手に?」


人間が少し困惑した様子を見せるとその声は


「ええ、この所少し実践が不足しているからね、体が鈍りそう。

それに未だにこうした活動をしようとしている奴が居るのは嘆かわしいの」


という少々の情けなさと怒りが入り混じった様な発言を返してくる。

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