全ての日々を冷静に。滞りなく。
春嵐
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起きた。
「エレナ」
呼ぶ。細く消えそうな声は。天井まで届かず、反響もせずに消えた。
「起きなきゃ」
呟くけど、起き上がれない。
二人で作った記憶も。二人でいた時間も。すべて。消えた。
わずかな期間に。すべて燃えていく。最初は、戯れに作った誌面だった。彼女が読みたがったので、続きを描いていって。誌面の中で僕は、普段言わないえっちなことを延々と口走り。彼女のほうは、まあ、いつも通り。
そういう、幸せな時間だった。
すべて。燃えた。もう、何もない。燃えて崩れたあとの、何もない生活だけが。残っている。
燃やした人間は、狂っていた。マナがどうとか、アリアンがどうとかいって、警察に運ばれるその瞬間まで、わけの分からないことを言っていた。
その人間の気持ちが。今は分かる。
きっと、僕の家を燃やしたそのひとも、こんな気持ちだったんだろう。どうしようもなくて、くるしくて、その果てに、ファンタジーに逃げた。きっと、そのひとの中の世界があって、その中でたまたま私の家は燃える手はずだった。
誌面の内容を、なんとなく、思い出す。
僕が狂うなら。あの誌面のように、だろうな。
誌面の中の僕は高校生で。
エレナとの出会いも、お見合いなんかじゃなくて、もっと衝撃的で、えっちな感じで。
僕は、家を燃やすような大それたことは、しないんだろうな。
誰かに危害を加えるだけの精神的なエネルギーが、もう、残っていない。狂ったとしても、わずかに、少しずつ、人格が崩れていくだけ。結局、どこにでもいる、ふつうのおかしいひとになっていくだけ。
「それでもいい」
自分以外、誰もいない部屋。
絶望だけが、闇とともに僕を覆っていく。
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