第51話 2191年―光の果て

「その後だよ、私がアフリカに来たのは」

 窓から太陽光が入り込んでいた。老いたLisyの額に触れる光は特段に神々しかった。

「だから出会った当初、ぼくたちの黒い目に驚いたんだね」

 Lisyの夫、Sibusisoシブシソが納得していた。

「それだけじゃないよ。Sibusisoたちはあくまで人間として生きている。身も心も。それに人間や他の部族への偏見もなく共存している。皆が皆朗らかなのも、印象的だった。PansyやSakura、それにCoco……アフリカにいたらどれだけ幸せだったろうに。だけど全員それぞれの道を選んだ」

「彼女たちには他の生き方が必要だったんだね。Cocoさまは生前、御自らが監視するような真似はお嫌いだとおっしゃったようだし」

 LisyとSibusisoの娘・Lachenaliaラシュナリアが言った。

 その隣でDaisyが頷いた。彼女はLachenaliaの娘だ。二人とも既婚者で、二人の夫たちにDaisyの息子を任せていた。

 二人とものトビヒ族出身で、同じ村に住むトビヒ族へ嫁いだ。

 二人の誕生は、Lisyの今は亡き両親が見届けた。Lisyから、アフリカに永住すると聞くと、大星大国から村最寄りの街へ移住してきた。

「あんたたちは私たちの理想、光だよ。八十三年も生きてみるモンだね」

「やだわ、ママ。今生の別れみたいなことを言わないで」

なんかじゃないよ。自分の『タイミング』は自分で察知できるモンさ」

Sibusisoが最初に涙ぐんだ。

「Lisyは数多くの絵よりも幸せだったかい?」

「もちろんさ、Sibusiso。世界一愛しているよ」

 次にLachenaliaの涙が床に染み込んだ。

「私はママの娘としても、トビヒ族としても生まれて最高の幸せ者よ。ママは村の宝、絵も村の宝よ。トビヒ族の、愛に満ちた自由と幸せたるものを教えてくれるんだもの。村全体で守り抜いていくわ」

「だけどたまには、他の村に出さなくちゃ。もがきながら生きている人間を救うのも、私たちの使命よ」

 Daisyは涙と鼻水が同時に垂れていた。三十歳の人妻が無邪気な少女に戻っていた。

「これからはあんたたちの時代だ。任せるよ」

 Lisyは悔いのない笑顔だった。


"Lights for you."


 それがLisyの最期の言葉だった。

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