第6話
「……知らねぇよ」
俺はふとした拍子に嘘を吐いた。
だってなんていうんだ?
お前が掃除したゴミは、俺がさっきむしゃくしゃして引っ繰り返したゴミなんだって言えば良いのか?
冗談じゃねぇ。目に見えた地雷を踏む程愚か者じゃねぇぞ。
……いや、ゴミを引っ繰り返した時点でもう愚か者か?
どうでもいい話だ、そんなの。
「本当かい?」
イヌ丸は俺の言葉に対して疑問を抱いている様子だった。
「知らねぇよ」
俺はあくまで白を切る。
だが通し切れるウソじゃない。
問い続ければ何れボロが出て来るだろう。
そうして俺がやった事だとバレちまうんだ。
そうさ、俺は今まで誰かに信用された事なんて無い。
「そうかい」
そうイヌ丸は納得した。
俺はその言葉が理解出来ずにあしらう言葉を口に出す。
「しつけーな、やってねぇ……って」
「……あ?」
イヌ丸の顔を見る。
俺の言葉を聞いたイヌ丸は頷いていた。
それは、俺の言葉を信じている、と言う証明。
「我が友が言うのなら」
「きっと知らないのだろう」
「悪かったね」
「失礼な事を聞いて」
逆にイヌ丸はそう謝ってくる。
それで話は終わった、口を閉ざして、イヌ丸は俺の体に包帯を巻いていく。
「……なぁ」
それでも俺は、イヌ丸に声を掛けた。
先程の話を掘り返す様に、それは自分自身がその内容に納得がいかなかったからだ。
「ん?」
「どうしたんだい?」
言葉に反応してイヌ丸は聞き返した。
顔を見る事無く、俺はイヌ丸に話を続ける。
「……俺がやったって」
「本当に思ってねぇのか?」
聞いた。本当に俺がやってないと、信じられるのかどうか。
人間は人の悪意に敏感だ。感覚的に嘘かどうか分かるだろう。
イヌ丸は其処ら辺は敏感な奴だ。少なくとも俺はコイツと数か月話してそう感じた。
「……ボクは」
イヌ丸は口を開く。
何を答えようとしているのか、言葉を選んでいる様子だったが。
ふ、と息を吐いて首を左右に振った。
嘘や飾り気のある言葉を使わずに、言う。
「ボクは」
「我が友を信じている」
「嘘であろうとも」
「ボクは」
「そのウソすら信じるよ」
「それがボクの友愛であり」
「親愛だからね」
……そりゃ、素敵な言葉だ。
けど信じられねぇな。
損得無くして、誰かを信じるだなんざ。
それが出来る事があるのだとすれば、それは。
「妄信だな」
イヌ丸は俺に夢を見過ぎている。
俺はそんな誰かに信用される様な人間じゃない。
自分でも自覚している、俺はクズ野郎だからな。
そんな人間に、得を求めて近づいてきた野郎は居た。
同時に、憧れを抱いて近づく奴もいた。
けど、本当の意味で俺を求めた奴は存在しない。
誰一人、親でさえもだ。
「いいや」
「そうでもないさ」
……それでも、イヌ丸は首を横に振って否定する。
「ボクは我が友を尊重する」
「誇りに思うだろうし」
「愛しくさえ思える」
「だからこそ」
其処でイヌ丸が俺の顔を見る。
その目を俺は逸らす事なく見た。
「ボクは必要となれば」
「我が友と敵対だってしよう」
友として、間違った道を通って欲しくないとイヌ丸は言った。
「親なる友とは」
「仲が良い事もあれば」
「時に対立する事だってある」
「ボクはボクの意志で」
「我が友の意志を否定する」
「悪に逸れるのならば」
「意地になって正しき道に戻そう」
「例え我が友を殴ってでもね」
決してイエスマンにはならない。
次話
https://kakuyomu.jp/works/1177354054921548160/episodes/1177354054921667716
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